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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第三章 倒錯者たち
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第45話 8月 夏休みの補習授業2 kana

  佳奈 kana


 お盆休みになろうかという日。


 この日が、補習の最終日だった。


「ようやく、シャバに出られるねえ」

「補習は、刑務作業じゃ、なくってよ」

「赤点という罪に対する、刑罰だと思ってたあ」


 私は、志乃ちゃんと談笑しながら、いつものように食堂へと向かう。


「カレー多くない?」

「難しい料理をする人が、お休みなのかしら」


 そんなことを言い合いながら、席につく。


「志乃ちゃん、実家帰っちゃうんだあ。さみしくなるなあ」


 毎日、朝から志乃ちゃんとふたりで行動していたから、すっかり仲良しになった気分だった。


「素直にあかりさんと仲直りして、ふたりで遊んでいたらよろしいのに」

「あいつ、補習もないみたいだし、部屋からほとんど出てないみたいなんだよねえ。引きこもりがちなんだよ」

「え、それをご存知ってことは、佳奈さんって、もしかして、ストーキング」

「なに? 聴こえなーい」


 夏本番になったら、あかりの部屋から歌声が聴こえなくなった。

 心配になって、ベランダから身を乗り出して覗いてみたら、単に窓を閉め切っているだけだった。

 空調の冷気が逃げちゃうから、暑い時期は窓を開けてくれないんだ。

 私も閉め切っているから、それはしょうがないってわかる。


 毎晩、あいつの美しい歌声を楽しみにしていたのに、聴けなくなって、ちょっぴりさみしくもあった。


 補習終わるってことは、みよちゃん先輩も帰っちゃうんだなあ。


 なんか、夏休みって、さみしいことばかり起こる。

 みんなこの島に、永住してしまえばいいのに。


「夏休みに入ってから、遥香の姿も見かけないね」

「実家へ帰っておりますわ」

「そうだと思った」


 門限過ぎても在宅表示にならないから、それ以外ないよね。


「あの子の実家、家族みんなべったりだから」

「へー。仲良いんだね」

「過保護もいいところよ。全寮制のこの学園に入るのだって、猛反対されて、長期休暇には帰るからって、両親と約束をして、ようやく入学を許されたくらいなのよ」


 そりゃあ、あんな、きれいな女の子が産まれたら、溺愛しちゃうよなあ。

 おまけに、性格だって、信じられないくらい、あったかくっていい子だし。

 私がお母さんだったら、変なのに捕まらないか、心配で心配で、夜も満足に眠れないよ。


「私も彼女の両親を説得するの、手伝わされて、大変だったもの」

「だしにされたんだね、志乃ちゃん」


 ふふふっと笑う、志乃ちゃんの声がやけに大きく響いてくる。

 普段はがやがやしていて、気持ち、おっきめにしゃべってもらわないと、なに言ってるのか聞き分けられないくらいなのに。

 私は声でかいって言われるから、話すほうは問題ないんだけれども。


 この食堂も、ずいぶんと閑散としてしまった。


「人、減ったよね、この島」

「学校がないと、やることないものね」


 ほんとなら、夏休みは毎日、あかりと山を探検することになっていたのかな。

 日に焼けるし、暑いから、毎日だと嫌がられた可能性もあるなあ。


 仲直りしたい気持ちが、わきあがってくる。

 もう2か月くらい、まともに口を利いていないから、なにから話せばいいのか、わからなくなってしまっていた。

 パンツを盗んだせいで、あらぬ妄想をたくさんしてしまったし、なんとなく、顔を合わせるのが気まずいなって思いもあった。


 それは、私の自業自得だけれども。


「私は、お絵かきに集中できるから、この島はいい環境だなって思っているけれど、補習がなければ、さすがにすぐに帰ってしまっていたと思うわ」

「出版社に持ち込む漫画を、描いているんだっけ」


 この前、志乃ちゃんがこっそり教えてくれた。

 仲良くなった、ご褒美みたいで、うれしかった。

 物心ついたときから、漫画家になりたいと思って頑張っているのだとか。

 なにを描いているのかは、恥ずかしいから言えないと言われたけど。

 もっと仲良くなれば、ボーイズラブだよって教えてくれるのかな。


「実家だと、誘惑が多いから集中できないところもあるけれど、家のほうが、道具とか資料とか、揃っているし、調べ物もしやすいし、家族の顔も見たいっちゃ見たいしね」


 仲良くなってきたら、志乃ちゃんは、ときどきお嬢様を演じることを忘れるようになってきた。

 退屈しのぎに、突然、髪の毛に触れたりすると、「無礼者!」って叱られるけれども。


 そうやって、私は志乃ちゃんのお嬢様成分を、補給しているんだ。


「佳奈さんは帰省されないの?」

「おばあちゃんと喧嘩してるからなあ」


 志乃ちゃんが、ふふっと笑う。


「喧嘩ばっかりしているのね」

「人を反抗期みたいに言わないでもらえる?」

「違うのかしら」


 違わないと思うけどさあ。


「あかりよりは、患者として、軽症だから」

「なんなのよ、それ」


 志乃ちゃんに呆れられた。


「志乃ちゃん、いなくなっちゃったら、退屈だなあ。美代子もいないし、私とはおしゃべりしてくれないけど、遥香だっていない」


 おしゃべりしてくれなくても、つきまとって、ちょっかいだしたら、ボディランゲージで会話してくれるもんね。

 遥香って、人のお世話が大好きな、人間が好きな女の子だから、なんだかんだで、やさしいんだ。


「夏祭りには、遥香も島に戻ってくると思うわ。ご家族も連れてくると思うけれど。私はどうしようかなあ。インドア派だし、あんまり、そういうの興味ないから」

「夏祭り実行委員がどうのとか言って、なんかやってるやつ?」


 生徒会として、お手伝いしないといけないとかで、私もなにか手伝わないといけないんだ。


 私と美代子は、寮の運営に関する役員だから、学校行事にはあんまり関わりがないけれど、一応、生徒会ではあるから、実行委員の人たちを、少しは手伝うんだと、美代子から聞かされていた。


「今年度、ようやく三学年揃ったから、盛大にやるそうよ。海岸で花火も打ち上げるみたい。本土の大きな花火大会と比べたら、たいした規模ではないでしょうけどね」

「浴衣とか、着るのかな、遥香」


 考えただけで、にやにやしちゃう。


「なにを楽しみにしていらっしゃるの。花火を観なさいよ、花火を」

「映えそうだね、花火をバックに映る、遥香」


 そこで、あかりとキスとかしてくれたらさあ。


「なんか、最近、刺激が薄まってきてるんだよねえ」


 同じ動画ばっかり見て、飽きちゃったってわけじゃないんだけど、慣れというものはこわいものっていうか、はじめての興奮がすっかり失われている気がする。


 美代子の助けもあって、頭真っ白になりたい気持ちがおさまってきたのは、ありがたい話なんだけど、それはそれで、残念な気持ちも、ちょっぴりあるのだ。


「もっと過激なのが見たいって衝動が、抑えられないんだよねえ。なんかもう、動画を開いた瞬間から、全身がぞくぞくして、見ているだけで意識が飛んじゃうみたいな、そういう映像がさあ」


 やっぱり、はじめてそうなったときの、からだに触れることもなく、やわらかい布が食い込んでくる感触を、ただ我慢しているだけなのに、それでも我慢できなくて、からだが言うことをきいてくれないっていう、あの感覚が忘れられない。


 きっと、私は、それをもう一度味わいたくて、あんなに毎日してしまっていたんだ。


「あの、佳奈さん」


 呼びかけられて、私は「はっ」と口にして正気に戻った。

 志乃ちゃんとおしゃべりしていることも忘れて、いろいろ声にでていた。


「そんなにたまらないなら、今度、いい本、いくつか見繕って、こっそりお貸ししましょうか」


 ドン引きされていると思っていたけれど、そんなことないみたいだった。


「ん。遠慮しとく。ありがと」


 志乃ちゃんが貸してくれるものは、たぶん、ボーイズのやつだからなあ。

 美しい、ガールズのやつが、いいんだよなあ。

 遥香より、美しいガールを見たことがないから、やっぱり、遥香に勝る映像なんて、どこを探してもないんだよ。


「我慢は健康に悪くってよ」


 うふふっとふたりで笑いあう。

 お互い、なにを想像しているのやら。


「台風が来る前に、この島を脱出しなくっちゃ」


 部屋への帰りがけ、志乃ちゃんがそんなことを言った。


「え、台風なんて来るの?」

「ご存知ないの? 明日から台風に伴う線状降水帯が発生するかもしれないとかで、連絡船のダイヤが乱れるおそれがあるんですって。私も朝いちばんの船で帰るつもり」

「そうなんだ。実家、帰るつもりなかったから、まったく知らなかった」


 ますます、やることなくなっちゃうなあ。

 やっぱり、あかりと仲直りするしかないのかなあ。

 向こうからすぐに謝ってくると思っていたのに、ぜんぜん、そんな気配ないし。


 あいつ、頑固すぎるんだ。

 重度の反抗期という病に、冒されているし。

 志乃ちゃんといっしょに過ごしていて、痛いほどわかった。

 ひとり遊びも好きだけど、やっぱり、友だちといっしょが楽しい。


 あかりのこと好きだし、あいつといっしょだったら、きっと楽しい夏休みにできる。


 私は、自分から仲直りできる方法を、考えてみることにした。

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