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絆の時間  作者: 送りバントがうますぎる猫
第三章 倒錯者たち
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第36話 7月 いたずら1 kana

  佳奈 kana


「聞いた? パソコン室閉鎖だって」


 朝、女子寮の食堂でご飯をいただいていると、女子たちの話し声が耳に入った。


「先生がいないところでは、ネットにアクセスできなくなるんだって」

「なにそれ、独裁国家の『検閲』みたいじゃん」


 志乃ちゃんがやってきたので、手を振る。


 彼女はこちらに気がつくと、にこっと笑って、私の正面に座った。


「いつも早いのね。感心しますわ」

「あかりたちより、早く済ませないといけないからね」


 志乃ちゃんはふふっと笑いながら、


「そんなに気になるなら、早く仲直りされたらよろしいのに」


 と、簡単に言ってのける。


「まあ、こわい」


 じろっと睨むと、志乃ちゃんが怯えた演技を返してくる。


 志乃ちゃんは女優なのだ。

 いつも、お嬢様役を演じている。


「志乃ちゃん、知ってる? 『検閲』がはじまるんだってさ」


 あかりの話は、気まずいので話題を変えてみる。


「存じておりますわ。私、情報通ですの」

「噂話とか、下世話な話が好きなだけじゃないの、それ」

「品のない言い方しないでくださる?」


 そう言いながら、まんざらでもない顔してるのはなぜなんだい、志乃ちゃん。


「例の女子更衣室荒らしの件が、SNSとか、ネットの掲示板に晒されて、地方版のニュースにもなったそうで、それが原因で自由にインターネットをできなくする対策を打ち出したんですって」

「パソコン室のネットは監視されているって聞いてるから、元から『検閲』されてるんじゃないの?」

「事後的に対処するんじゃ手遅れって、そういう判断になったんでしょうねえ」


 学園の評判が地に落ちてから犯人を探すよりも、それをさせないほうがいいっていう判断かな。


「『知覚過敏』、みたいだね」

「この場合、『過剰反応』っていうんじゃないかしら」


 なんだか賢くなった気がして、志乃ちゃんとふたりで笑いあう。


「パソコン室、使ったことないからいいけどね」


 私は、特に困らない気がした。


「私はパソコン室がオアシスだったから、困ったことになりましたわ。先生の見ている前でなんて、とても開けないサイトばかりパトロールしていますし」


 なにを見ているんだ、志乃ちゃん。


「そのために、本土のネットカフェに足を運ばないといけないなんて、面倒くせえですわ」


 志乃ちゃんは、苦虫を噛み潰しながら言う。


「あ、そうだ。部室ってどうなのかな?」

「知りませんけれど、例外は認めていないはずですから、だめなんじゃなくて?」


 ネットが遮断されて、部のサイトが更新できなくなったら、ただでさえ、燃えカスみたいな部長が、とうとう燃え尽きてしまう。


 私は、放課後、久しぶりに部室へ顔をだしてみることに決めた。


 ◇


「もちろん、だめになったけど、そのうち元に戻ると信じて、調査は続けるよ」


 相変わらず、元気のかけらもない人だけど、部長は燃え尽きてはいないようだった。


 そこに、まずはほっとした。


「君が言ったように、本土のネットカフェとか、実家に帰ったときとか、やりようはあるから。この学園でインターネットが使えないだけで、国で禁止されているわけじゃないからね」


 そうなんだ。


 この島が世界のすべてのように感じてしまうけれど、あの連絡船に乗り、一歩、島を出てしまえば、そこは日本という国なんだ。


「学園の対応は、『人権侵害』だと思うんだよね」


 部長の声には元気がないけれど、最も強い言葉で批難しているように感じて、私は自分のせいでもないのに、どきっとしてしまった。

 そんな気持ちの私に、部長は声のトーンを変えることもなく畳み掛けてくる。


「そんなことより、調査は進んでる?」


 私はなにも言えなかった。


 ここを訪れるなら、しっかりとした弁明を用意しておくべきだったと気づかされた。

 丸腰で訪れたのは、恥でしかなかったのだ。

 部長は、なおも責めたててくる。


「足の怪我は治ったみたいなのに、ここのところ、入山申請がまったくされていないよね」

「あ、ああ」


 情けない声が漏れた。

 山は任せてくださいなどと豪語した、あのときの私を押し入れにしまいたい。

 部長は表情ひとつ変えずに、私の弁明を待つ姿勢を見せる。


 私は観念して、白状することにした。


「実は、あかりと喧嘩しちゃって。ひとりだとなんかもったいなくって調査できなくて。あの、ごめんなさい」


 私は誠心誠意、頭を下げてみせた。


 部長が根気よく、町を調査していることは知っている。

 放課後、気晴らしに散歩とかすると、よく遭遇するから。

 今日もやってんなあ、くらいの気持ちで見送っていた私をどうか許してほしい。


「部長が卒業するまでには、なんとかします」


 みんなそう言っていなくなるし、口ではなんとでも言えるよねって、疲れたかのように、部長は眼鏡を外して拭き拭きしはじめる。

 眼鏡を外した素顔の部長は、そのへんに転がっている石ころみたいに、平凡な顔をしていた。

 この人は、眼鏡があったほうが、味のある顔だなあと、私は思う。


「よかったら、アドバイスいただけないでしょうか。友だちと喧嘩したときの、対処法とか、心構え、とか」


 私より、ふたつもお兄さんだし、このままじゃ気まずいし。

 私は思い切って、石ころに訊ねてみる。


「僕、友だちいないんだよね」


 身も蓋もない答えが返ってきて、私は笑いをこらえるのに必死だった。

 あかりと似た空気を感じたのは、そういうことだったんだと、納得させられた。

 テンション低すぎるのが、悪いんじゃないの。


「え、なりますか? 友だち」


 私、部長のこと、そんなに嫌じゃないし、私でよければって、そういう純粋な気持ちで提案した。


「いや」


 部長は、ほぼノータイムで否定から入った。

 そういうところ、なんじゃないか。


「君はやめとく」

「え、なんで」


 疑問を呈する私に、部長は眼鏡をかけながら、首を横に振ってみせる。


「僕には荷が重い」

「なんだそれ」


 私はついに決壊して、笑ってしまった。

 部長はにこりともせず、まじめな顔で続ける。


「元気すぎるからね、君って。僕、そういうの、疲れちゃうから」


 ぐうの音もでないのだった。


「わかりました」


 なんか、まるで、私が振られたみたいじゃないか。

 選り好みするから、よくないんじゃないの。


「私たち、仲間、ですもんね。友だちっていうより」


 友だちにはなれなくても、部長をひとりにはさせないぞって気持ちを、私はアピールしてみせた。


「うん」


 思わず、舌打ちしそうになる。

 美代子だったら、飛び上がって感動している場面だぞ。

 さすがに「テンション低いな、おい」と言いたくなった。


 たぶん、そういうところ、なんだと私は確信した。

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