第31話 6月 邪魔者2 kana
佳奈 kana
放課後、いつものように、あかりとふたりで女子寮へ帰る。
遥香と昼休みを過ごすって言ってたから、てっきり帰りも遥香とふたりでなのかなって思っていた。
どうやら、そうじゃないみたい。
学校への行き帰りとか、朝晩の食事とかは、相変わらず私といっしょでいいのかな。
友だちが誰と過ごそうが、その人の勝手だし、私もあかりに「ほかの人と口を利くな」とか言われたときは、窮屈だなって感じていたから、あかりにとやかく言うつもりはない。
あかりが私以外の人とふたりで過ごしているのを見たことがなかったから、なんか慣れないのもあるし、自分はあんなこと言ってたくせに、ほかの人とふたりで過ごしたりするんだっていう、納得いかない気持ちもある。
むかむかしてくるので、遥香のことは話さない。
ほんとはあの山でのことを詳しく知りたいけれど、なんか訊いたら負けみたいな感じがして、あかりのほうから話してくるのを、私はただ待っている。
あかりは遥香のことをなにも話さなかった。
まるで、遥香という人が日常に存在しないかのように、学校の話や、部活の話なんかを普段どおりにしていた。
遥香、山岳調査部、入らないのかなあ。
部屋の前であかりと別れ、彼女が在宅表示になるのを確認した私は、すぐさま部屋を出て、女子寮の玄関で遥香が帰ってくるのを待ち伏せすることにした。
あかりではなく、遥香から話を聞けばいいって閃いたんだ。
◇
ひと際、背の高い女の子が坂道を歩いてくる。
遥香なのは間違いないと思うけれど、髪の毛が真っ黒になっていて、私は度肝を抜かれた。
日曜日、本土の美容室にあかりとふたりで行ってたようだから、そこで黒髪に戻したんだ。
あかりの趣味に合わせてそうしたんだとわかる。
私はあの明るい髪色、似合ってて好きだったのに、あかりは不良みたいで嫌いとか言ってたから。
「遥香」
「わ」
植え込みに身を隠して、突然声をかけてやったら、遥香は飛び上がって驚いた。
黒髪も悪くないし、むしろ、好きかも。
あかりのやつ、センスあるなってちょっと見直した。
「あ」
遥香は私の存在を認識すると、すぐに目を逸らした。
そのまま、身体を反転して女子寮に逃げ込もうとする。
「ちょっと待って」
私は慌てて遥香に駆け寄ると、靴を脱ごうともたついている彼女の手をつかんだ。
「なんで逃げるの?」
「ん。なんでも」
遥香はごまかそうとしている。
なんにせよ、振り向かせることには成功した。
私はここぞとばかりに、遥香に懇願してみせる。
「遥香、どこでもいいから、私の骨を折ってほしいんだ」
それでまた、治るまで私のお世話をしてほしい。
「んん。無理ぃ」
悲鳴のような、無理、だった。
遥香に暴力は似合わないから、致し方ないとはわかっている。
「それなら、せめておしゃべりだけでもしようよ」
遥香は靴を脱ぎ、廊下にあがると、つかまれた右手を軽くゆすって離してほしいとアピールしてきた。
私はその手を強く握り返して、意思表示をしてみせる。
遥香はしょうがないなあって顔をして、口を開いた。
「佳奈ちゃんとはおしゃべりできないの」
あかりのせいだって、私にはすぐにわかった。
あいつが、遥香に私と口を利くなって言っているんだ。
私は遥香と友だちでいたかったのに、あかりが邪魔しているんだ。
わなわなしていると、遥香が私の頭に左手を載せた。
「ごめんね」
頭をなでられると、怒りが和らぐのを感じて、私はつかんでいた手を離した。
遥香には悪気がないんだなって、すぐに伝わった。
あかりと私、どちらかを選ばないといけないから、あかりを選んだだけで、私が嫌いになったとかじゃないよって、そう言いたいみたいだった。
私はあかりに負けたんだ。
そんなの許せない。
遥香と別れた私は、あかりの部屋へと急いだ。
乱暴にドアをノックすると、なんだなんだって顔であかりが出てきた。
「そっちがその気なら、私だってあかりとは口を利かないから」
私から遥香を奪うなら、私だってあかりとは絶交してやるんだ。
あかりは、なに言ってんだこいつって顔をしていた。
いきなりすぎて、事態を飲み込めていないのかもしれなかったけれど、それはお互いさまだ。
私はそう宣言したからには、これ以上お話することはできないとして、そのまま自分の部屋に帰っていった。
これからは朝晩の食事にも誘わないし、誘われても行かないし、登下校だってひとりでしてやるんだ。
私は、ほんとうはひとり遊びが大好きで、田舎にいるときはいつもそうしていたんだ。
なんだか、せいせいするなあ。
私は重たい荷物をやっと下ろせたみたいに、軽快な気持ちでその夜を過ごした。
ベッドに入ると、今日は歌声が聴こえなかった。
少し残念な気持ちにもなったけれど、私の反撃が堪えているのかと思うと気分がいい。
溜飲が下がるという言葉を考えた人は天才だなって思った。
この島に来た日、あかりの荷物を持ってやったときの、あのずっしりとした重たい感覚が、今日まで続いていたかのようだなあと、私はそんな感慨に浸りながら眠りにつく。
あかりという友だちを失ったことで、私の身にいったいなにが起きるのか。
それをまだ、私はなにも知らなかった。




