第13話 4月 高校生活のはじまり1 akari
あかり akari
「入学式が終わる頃、みなさんの端末に通知が届きます」
この学園は、なんでもスマホを使ってやろうとする。
小中学校でも、なんちゃらスクール構想だとか言って、軽快とはほど遠い動作のタブレット端末をイライラしながら使ったりしていたけれど、せっかく生徒からお金を集めて導入している設備を、できるだけ有効活用したいってことなのかな。
あまりにデジタル化されすぎていて、デスゲームにでも参加している気持ちになる。
通知がきたら、指定された教室の、指定された席に座って待つこと。
それが今朝、体育館に集まったときに言われたことだった。
クラス分けが発表になるということだ。
「男女共学は、一般コースだけなんだよ」
「え、なにそれ」
体育館の、右半分に並んで座る、男子たちの姿を見ながら、佳奈に応じる。
昨日からずっと女子に囲まれていたから、あれはただの背景かと思っていた。
「特進の子は、青春より、勉学に励めってことなのかなあ」
そう言いながら、佳奈がうひひって笑う。
「同じクラスになれるかなあ」
私が言うと、佳奈は「どうだろ」って首をひねった。
それから、なにかを閃いた顔をして、前の席に座っている女子の肩を叩いた。
「志乃ちゃん、一般の女子って何組あるか知ってる?」
馴れ馴れしく佳奈が声をかけると、志乃って子は、迷惑そうな顔をして応じる。
「トゥークラス」
「やだあ、なんで英語」
佳奈は楽しそうに、けらけらと笑いながら、志乃ちゃんという女の肩を叩く。
私と話すより、楽しそうに見えるんだけど。
「2分の1だね、あかり」
佳奈は、志乃と私を交互に見ながら言う。
きょろきょろしている姿に、むかむかしていたら、通知が届いた。
『1年A組 出席番号5番』
リンクを開くと、学園アプリが起動し、A組の座席表が表示された。
「私、あかりの後ろの席だ」
結果を見るより、ほんのわずかに早く、佳奈の声がした。
「隣、志乃ちゃんだわ」
志乃ちゃんはいいんだよと、佳奈の肩を叩く。
「痛ったい、なに?」
「早く行くよ」
男子に続いて、女子にも退場の合図がかかったから立ちあがる。
「志乃ちゃんにも声かけよっか」
立ちあがった佳奈が、背中を向けている別の女を見ながら、ひそひそ声で言う。
「ふたりで行くの!」
「なに怒ってんの?」
教室に向かって並んで歩き出すと、佳奈は私を置いて、父兄たちの席に、たたっと駆けていった。
なぜかそこにいた美代子先輩と談笑している。
同じクラスになれてうれしい気持ちが、一瞬にして怒りに変わっていく。
私は、佳奈を置き去りにして、教室へと急いだ。
◇
この学校は、ひとクラス24人らしい。
窓側2列が女子で、廊下側2列が男子という並び。
佳奈は窓際のいちばん後ろで、私はその前の席だった。
先に座っていると、遅れて佳奈がやってくる。
目を合わせなかったら、怒っていると判断したのか、佳奈は黙って座った。
「なんとなく気づいた人もいると思うけど、寮の部屋が近い者同士でクラス分けされているってわけだな」
直人と名乗る、若い男性教諭が言う。
どおりで、昨日の6Fチームにいた顔が目立つわけだ。
担任の直人先生は、
「俺はこの島の出身だから、島のことなら、なんでも聞いてくれ」
と、自己紹介してみせた。
ちょうど大学を出るタイミングで、この島に学園ができることになったから、採用試験を受けて、開校と同時に教師としてのキャリアをスタートさせたのだそう。
「まだ教師としては未熟なところがあるけれど、みんなのお兄さん役として、頼りになる存在でいたいと考えています」
そんな挨拶に、周囲の女子たちの目が輝いた気がした。
はきはきとした、爽やかな男性で、年下の女受けがよさそうな、そんな先生だった。
それから、ホームルームがはじまり、生徒一人ひとりの自己紹介がはじまる。
「あかりといいます。東京から来ました。趣味は音楽鑑賞です」
前の子たちが、誰も彼も、出身地と趣味を発表したから、流れで私もそんなどうでもいい自己紹介をした。
学校という空間は、茶番劇のようで、やっぱり好きにはなれない。
昨日、ふたりで晩御飯を食べているとき、佳奈にそう言ったら、
「その反抗期って治療法ないの?」
と、真顔で言われた。
人を患者扱いしないでほしい。
当たり前かもしれないけれど、女子寮は学校とは違った。
だから、少しだけ期待してた。
だけど、学校に来てみてわかった。
高校生になったからとか、離島の学校だからとか、まったく関係なかった。
学校という場所は、相変わらず、私の嫌いな姿をして、私の前に現れるんだ。
それでも、いまの私には佳奈がいるから、それでいいし、それだけが、この島にいる理由だと感じている。
「佳奈といいます。昨日、あかりとふたりでこの島にきました。私はこの島をユートピアにしようと思っています」
佳奈は5人の生徒たちが作ってきた流れを、一切合切無視して、自分の言いたいことを言っていた。
直人先生が、なに言ってんだこいつって顔をしたので、私は笑いをこらえて下を向く。
佳奈って、ほんと変なやつだ。
そんな壮大な野望を抱いて、この島に上陸してくるやつ、いないでしょ。
こいつこそ、なんらかの治療が必要だと思うんだけど。
それから、特に印象にも残らない自己紹介が、人数分続いた。
学園アプリを開けばいつでも、みんなの顔と名前は知ることができるのだから、この程度の内容なら、わざわざ口頭で自己紹介なんていらないんじゃないかと、終わる頃には思っていた。
◇
ホームルームが終わって、帰りの挨拶が終わると、教室を出て行く生徒たちをかき分けて、直人先生がこっちに歩いてきた。
先生は帰り支度をする私の横を素通りすると、佳奈に声をかけた。
「佳奈さん。このあと、職員室まで来てもらえるかな」
「はい」
後ろを振り返ると、ぼけっとした顔で首を傾げている佳奈がいた。
「私もいっしょに行く」
私はそう声をかけて、ふたりで職員室に向かった。




