第11話 4月 女子寮2 kana
佳奈 kana
「給食みたい」
日によってメニューは決まっていて、ただそれを受け取って食べることができるだけって話を聞いて、誰かがそう口を開く。
みよちゃん先輩も、うふふって笑う。
「朝食だけはバイキング形式なんだあ。それも出てくるものは、毎日ほぼいっしょだけどね。味はなんて表現したらいいかなあ。高速道路の小さなパーキングエリアとかで出てくる感じって言えば伝わる?」
みよちゃん先輩が訊くと、頷いている子と、首を傾げている子が半々くらいだった。
私は田舎を出たことがほとんどなくて、高速道路なんて利用したことがないから、ちょっとよくわからなかった。
「まあ、食べればわかるからね」
その言葉を合図に、みんなで食べはじめる。
「みよちゃん先輩、おいしいです」
私は、先輩とおしゃべりしてみたくて、感想を伝えた。
「うん。私が作ったわけじゃないけど、ありがとう」
もぐもぐしていたみよちゃん先輩が、コップのお水をからだに流し込んでから言うので、それもそうだなって、ふたりでうふふって笑いあった。
みんな初対面で緊張しているのか、静かにいただいていた。
隣に座っているあかりも、都会人ぶった澄まし顔で、黙々といただいていた。
食べ終わって、食器を返却コーナーに置こうとしたとき、振り返った女の子の顔に、見覚えがあった。
さっき写真で見た、隣の部屋の志乃ちゃんって女の子だった。
私よりひと回りくらい背が高いその女の子は、姿勢よく背筋をぴーんと伸ばして私の横を通り過ぎた。
食器を置いて、その背中を追う。
せっかくだから、なにかしゃべってみようと思ったけれど、初対面だし、なんて声をかければいいのか、とっさに思いつかなかった。
しょうがないから、肩をちょんちょんって指で押してみる。
「無礼者!」
振り返った志乃ちゃんに言われて、私はげらげらと笑い転げた。
名前さえ書ければ入れると揶揄される一般コースに入っておいて、そんなお嬢様みたいな反応をされるとは、予想もしていなかった。
「志乃ちゃんっておもしろいね」
私が言うと、
「誰?」
と言って、志乃ちゃんは怪訝な顔をした。
私はまたげらげら笑いながら、笑えるよねって、いっしょにいたあかりの顔を覗き込んだ。
あかりも怪訝な顔をしていて、私は真顔にさせられた。
急に周りが静かになったような気がして、私は恥ずかしくなった。
◇
6Fに戻ってくると、案内は終わりということで、みよちゃん先輩が締めの挨拶をはじめた。
その最後に、先輩はこんな説明をした。
「私たちの暮らす女子寮には、毎日ではないけれど、週に何回か、一年生が二年生の部屋を訪れて、一時間ほどふたりで過ごす『絆の時間』という行事があります」
初代寮長の七海先輩が発案したもので、あまりに評判がよかったから、今年から男子寮でも運用がはじまるのだとか。
「七海先輩たち一期生は、この島にきて右も左もわからないまま、頼れる先輩もいなくてさみしい思いをしたそうなのね。だから、島での生活を知るお姉さん役として、新入生の相談に応えるために、この行事を作ったというわけ」
みよちゃん先輩は、胸を張ってみせる。
「そうは言っても、どちらの部屋に伺えばよいのでしょうか」
心配そうな顔で、志乃ちゃんが訊ねる。
「確かに」
急に二年生の部屋で過ごせと言われても、困る。
私たちの不安に、みよちゃん先輩は安心してって前置きしてから言う。
「ペアは決まってるんだあ。同じ部屋番号の二年生とペアになるルールなのね。二年生はB棟だから、B棟にある自分と同じ番号の部屋を訪ねればいいの」
何人かの新入生が、どんな相手か確認しようとスマホを見はじめた。
その様子を見守りながら、みよちゃん先輩は続ける。
「えっと、たとえば私は605号室だから、みんなの中にいる605号室の子と、私がペアになるわけね」
「あ、それ私です」
手を挙げながら言うと、みよちゃん先輩は、おまえかって言いたそうな、んふっていう含みのある笑いを浮かべて、
「よろしくね」
と、ウインクしてきた。
「そんなわけだから、はじまりのチャイムが鳴ったら移動して、終わりのチャイムが鳴るまでお姉さんといっしょに過ごしましょう」
みんな「はーい」と返事をして、私たち6Fチームは解散になった。
◇
住居棟に戻ると、みんなの部屋の前に段ボール箱がいくつも置いてあった。
「それって、なんの箱?」
あかりに訊かれながら見てみると、なんてことはない、数日前におばあちゃんといっしょに荷造りした、私の私物だった。
「この前、田舎から送ったやつ。あかりのはまだ届いてないみたいだね」
あかりは理解したように、ああっと声をあげてから言う。
「今朝、送ってやるっておばあちゃんが言ってたから、今週中には届くのかなあ」
「島流しの刑って、大変だね」
「おまえ、馬鹿にしてるだろ」
笑いながら、肩を小突かれる。
「じゃあ、またあとでね」
私がそう言って、部屋に入ろうとすると、
「どっか行くときは教えて。私もいっしょに行くから」
あかりにそう言われた。
「あかりって連れションする人?」
別にいいんだけど、私は連れション派じゃない。
そう思って訊ねると、あかりは、ははっと笑う。
「トイレは別にいいわ。そうじゃなくてどっか行くとき」
「シャワールームとか洗濯室は?」
「それも別にいい」
「食堂は?」
「それはいっしょに行く」
なんとなくルールがわかった気がして、私は首を縦に振った。
すると、あかりはこわい顔をして、手に持っている自分のスマホを指さしてみせる。
「勝手に出かけても、これでわかるから」
にやりと笑ったあかりの顔を見て、変な汗がでた。
「なるほどね」
なにがなるほどなのかはわからないけれど、私は逃げるように部屋のドアを閉めた。
やばい生き物に出くわしたときは、逃げるに限るって、おばあちゃんから教わっているからね。
◇
チャイムが鳴ったので、荷解きを中断して部屋を出る。
あかりの姿が見えないので、あいつの部屋まで歩いて、ドアをノックしてやる。
自分からいっしょに行こうと誘っておいて、待たせるなんてひどいやつだ。
続々と移動していく女子たちの背中を遠目に見ながら待っていると、あかりが出てきた。
「朝早かったから、うとうとしてたわ」
「え、危なかったね」
荷解きする荷物もなかったから、部屋で退屈だったのかな。
「暇ならそう言ってくれたら、冷やかしに行ってあげたのに」
「ん。いい。横になりたかったから」
あかりはそう言って、なんだか照れくさそうに笑った。
「お姉さん役の先輩、どんな人か見てみた?」
廊下を歩きながら、あかりに訊ねる。
「葵先輩っていう、特進コースの人だった。写真の感じだと、クールビューティーっていうか、なんかそういう、おとなっぽい雰囲気のお姉さん」
「へー。いいね。美代子はね、一般」
げらげらと、私たちは笑いあった。
美代子のことは、しっかりチェックしておいたのだ。
「自撮りなのに、ほっぺた赤くして恥ずかしそうにカメラに収まってた」
またでっかい声で笑っていると、美代子の部屋に到着した。
そこであかりとは別れ、私はドアをノックした。
「はあい」
みよちゃん先輩の弾むような声がして、ドアが開く。
私の顔を見るなり、みよちゃん先輩は、おまえかって顔をして笑う。
私も、きちゃいましたって顔で笑い返して、そのドアをくぐり抜けた。
絆の時間。
私とみよちゃん先輩にとっての、そのはじめての時間が幕を開けたのだった。




