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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第1章 光の道筋を行け

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第8話 光の道筋を行け

シャルクス:「そこまでだっ!」


鋭い叫びが、夜の森を裂いた。


火花を散らしながら激しく斬り結んでいたカミーアとクリストファー。


その刃と刃の間へ――シャルクスは、迷いなく飛び込んだ。


カミーア:「シャル!?」


クリストファー:「……ほぉ」


二人の視線が、同時にシャルクスへ向けられる。


その手には、一枚の金貨が握られていた。


カミーア:「シャル!」


驚きと焦りが入り混じった声が、森の中に響く。


だがシャルクスは、ゆっくりと目を閉じた。


そして、静かに首を横へ振る。


――もう、いい。


そう告げるように。


クリストファー:「やはり、おめぇが持っていたのか」


口元を歪め、クリストファーが満足げに笑った。


シャルクスは黙って金貨を見下ろす。


あの時。


カミーアが森へ駆け出した、その瞬間。


シャルクスは、すでに動いていた。


懐から箱を取り出すふりをして、中身の金貨だけを抜き取る。


そして、カミーアへ向かって放り投げたのは――空になった箱だけ。


本物の金貨は、ずっとシャルクスの手の中にあったのだ。


シャルクス:「こいつは返してやる」


静かな声だった。


だが、その声にはもう迷いがなかった。


シャルクス:「だから、見逃してくれ」


そう言って――シャルクスは手の中の金貨を、軽く放り投げた。


カラン。


夜気の中で、金貨が小さな弧を描く。


それを、クリストファーが片手で受け止めた。


クリストファー:「よくできました」


にっこりと笑う。


その顔は、まるで出来の悪い生徒を試していた試験官のようだった。


カミーア:「黄金を……諦めるのか」


信じられないものを見るように、カミーアの瞳が揺れた。


問い詰めるような視線が、まっすぐシャルクスへ突き刺さる。


シャルクスは少しだけ肩をすくめた。


そして、困ったように笑う。


シャルクス:「君がいなきゃ、意味がないんだよ。この黄金は」


カミーア:「……え?」


その一言に、カミーアの目が大きく見開かれる。


困惑がそのまま顔に浮かんでいた。


カミーア:「どういう……こと……?」


だが、その問いに答えるより先に――


クリストファー:「おめぇはなぜ、黄金を求める」


低い声が落ちた。


カミーアの言葉を遮るように、クリストファーがシャルクスを鋭く見据える。


クリストファー:「ラスパル家の復興のためか」


シャルクスは一瞬だけ視線を落とした。


その問いは、かつての自分なら迷わず頷いていたものだった。


だが――今は違う。


シャルクス:「……最初はそうだった」


短く息を吐く。


シャルクス:「だけど、今は違う」


クリストファー:「ほぉ。今は、なんだ」


淡々とした声だった。


だがその眼差しは、獲物を逃がさない狩人のように鋭い。


嘘も、ごまかしも、許さない。


そんな目だった。


シャルクスは答える代わりに、カミーアへ視線を向けた。


カミーア:「……?」


ぽかんと目を丸くしている。


その表情が、こんな状況だというのに妙に可笑しくて。


シャルクスは、ふっと小さく笑った。


シャルクス:「ある人と約束したんだ」


静かに言う。


シャルクス:「その約束を、果たしたい」


その瞳は、まっすぐだった。


揺らがない。


迷わない。


ただ一つの答えを見つけた者の目だった。


その光を見た瞬間――クリストファーの険しかった表情が、ほんのわずかに緩む。


クリストファー:「誰が黄金を手にしなきゃいけねぇか……」


ゆっくりと、言葉を区切る。


クリストファー:「わかってるようだな」


シャルクスは、はっきりとうなずいた。


シャルクス:「ああ」


迷いなく、言い切る。


シャルクス:「わかってる」


その声は、夜の森にまっすぐ響いた。


もう、黄金に縛られていた声ではなかった。


クリストファー:「いいだろう。じゃあ、こいつはご褒美だ」


シャルクス:「……えっ?」


思わず、間の抜けた声が漏れた。


だがクリストファーは答えない。


ただ、手の中の金貨をゆっくりと掲げた。


夜の闇の中で、その金貨だけが、かすかに鈍い光を帯びている。


そして――クリストファーは静かに詠唱した。


クリストファー:《黄金よ。光への道筋を記せ》


次の瞬間。


金貨が、まばゆい輝きを放った。


シャルクス:「……っ!」


夜闇が裂ける。


金貨から放たれた一条の光が、空を貫く槍のように、遠い夜空へとまっすぐ伸びていく。


シャルクス:「なんだ……これ……?」


カミーア:「……」


シャルクスもカミーアも、ただ呆然と立ち尽くしていた。


夜空に刻まれた光の筋。


まるで、この世界のどこかに眠る何かを指し示すような、まっすぐな輝きだった。


クリストファー:「光の指す道筋を行け」


低い声が、静かな森に落ちる。


クリストファー:「そこに、おめぇの求める黄金がある」


そう告げると、クリストファーは掲げていた金貨をぐっと握りしめた。


途端に――夜空へ伸びていた光の筋が、ふっと掻き消える。


まるで最初から何もなかったかのように。


森に、静寂が戻った。


クリストファー:「ほらよ」


軽い調子で、クリストファーが金貨を放り投げる。


シャルクス:「うわっ!」


シャルクスは慌てて両手を差し出し、どうにかそれを受け止めた。


手のひらに残る、わずかな熱。


ついさっきまで夜空を照らしていたものが、今はただの一枚の金貨として、そこに収まっている。


シャルクス:「……どういうことだ?」


眉をひそめたまま、シャルクスは問いかける。


声には、隠しきれない戸惑いと警戒が滲んでいた。


クリストファーは、そんな彼を見て――ふっと口元を緩めた。


クリストファー:「そいつはな。バルデンの見つけた黄金から作られたもんだ」


シャルクス:「バルデンの……?」


クリストファー:「ああ。言わば――バルデンの黄金の一部ってわけだな」


シャルクス:「……これが?」


思わず、呟く。


シャルクスとカミーアは顔を寄せ合うようにして、手の中の金貨をじっと見つめた。


見た目は、ただの古びた金貨にしか見えない。


けれど、先ほどの光を見たあとでは、もうただの金貨とは思えなかった。


クリストファー:「そいつに宿った魔力が、黄金のある場所へと導いてくれる」


クリストファーは指先で、シャルクスの手の中の金貨を示す。


クリストファー:「おめぇは、自分の力でそいつを手に入れたんだ」


そう言って、クリストファーはシャルクスの肩に手を置いた。


クリストファー:「だからよ。もっと喜びな」


シャルクス:「……そうだな」


ようやく、シャルクスは小さく笑った。


そして、金貨を握りしめたまま顔を上げる。


だが――クリストファーの表情は、すぐに引き締まった。


クリストファー:「だがな」


その声が、わずかに低くなる。


クリストファー:「おめぇは、まだ一つの苦難を越えただけだ」


静かに言い聞かせるような声だった。


クリストファー:「この先には、まだまだ多くの試練が待っている」


シャルクスは表情を引き締めた。


クリストファーの目を、まっすぐ見返す。


そして、黙って頷いた。


クリストファー:「まずは――ガスパーとの因縁を晴らして来い」


その名を聞いた瞬間。


シャルクスの瞳が、鋭く細められた。


クリストファー:「あの野郎も、バルデンの黄金を狙ってる」


クリストファーは肩をすくめる。


クリストファー:「きっと、おめぇに食いついてくるはずだ」


シャルクス:「……わかったよ」


力強い返事だった。


その声を聞いて、クリストファーは満足そうに笑う。


そして――今度は、きょとんと立ち尽くしているカミーアへ視線を向けた。


クリストファー:「おめぇはまだ、自分の宿命が見えてねぇみてぇだな」


カミーア:「あたいの宿命……?」


カミーアは眉をしかめる。


いきなり何を言い出すのか、という顔だった。


クリストファー:「そろそろ、それに挑まなきゃならねぇ時期なんだがな」


カミーア:「やだよ。そんなの」


即答だった。


カミーアは一歩も引かず、挑むような目でクリストファーを睨みつける。


カミーア:「あんたの言うこと、何一つわかんねぇんだよ」


クリストファーは――まったく気にした様子もなかった。


むしろ、面白がるように喉を鳴らして笑う。


クリストファー:「まあ、いいさ」


軽く肩をすくめる。


だが、そのあと。


一度だけ、シャルクスを横目で見た。


クリストファー:「だけどな」


ゆっくりと、言葉を置く。


クリストファー:「すでに、おめぇのために動いてる奴がいることだけは――忘れちゃいけねぇぜ」


カミーア:「……えっ?」


シャルクス:「……」


二人が戸惑う中、クリストファーはそれ以上何も言わなかった。


くるりと背を向け、暗い夜道へと歩き出す。


クリストファー:「因縁を晴らして――未来を掴んで来い」


振り返らないまま、言い残す。


クリストファー:「二人ともな」


その言葉を最後に、クリストファーの背中は夜の森の奥へと消えていった。


あとに残ったのは、静かな夜風。


そして――シャルクスの手の中に収まった、一枚の金貨だけだった。



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