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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第1章 光の道筋を行け

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第7話 カミ―アの意地

深い森の闇の中。


木々の影に溶け込むように身を潜めながら、エリーゼ・アーポットは静かに戦況を見極めていた。


その瞳は、獲物を見据える鷹のように鋭い。


そして――。


疾風のごとく駆け抜けるカミーアが、シャルクスから放り投げられた箱を見事に受け取った。


その瞬間。


エリーゼの口元が、わずかに歪んだ。


「……そこね」

小さく呟き、彼女は背負った矢籠へと静かに手を伸ばす。


無数に並ぶ矢の中から、一本を選び取る。

しなやかな指先が矢羽に触れ、弦へとかかる。


弓が、ゆっくりと引き絞られた。


狙いは――人ではない。


もっと上。


満天の星が瞬く、夜空そのものだった。


ピン――。


夜の静寂を震わせるように、弓弦が鳴る。


放たれた矢は闇を裂き、一直線に夜空へと駆け上がった。

まるで意思を持つかのように、黒々とした森の上へ吸い込まれていく。


そして、次の瞬間。


ヒュッ!!


森の奥から、鋭い風切り音が響いた。


ズドンッ!!


一本の矢が、カミーアたちの眼前の地面へ深々と突き刺さる。


その場にいた全員の足が、まるで地面へ縫い止められたかのように止まった。


一瞬で、空気が張り詰める。


カミーアたちは弾かれたように顔を上げ、矢の飛んできた森の奥へ視線を向けた。


カミーア:「くっ……仲間がいたか」


忌々しげに歯を噛みしめ、カミーアが低く唸る。


シャルクス:「そんな……」


シャルクスは、余裕の笑みを浮かべたままのクリストファーを睨みつけた。


怒りで、握りしめた拳が震える。


クリストファー:「警告はしたよ」


軽く肩をすくめ、クリストファーは涼しい顔で言った。


そして――。


ひらりと片手を上げる。


それは、森の闇に潜む仲間への合図だった。


その先。


木々の影の中で、エリーゼは静かに弓を構え直していた。


次の瞬間。


ヒュン――。


ヒュン、ヒュンッ!


立て続けに弓弦が鳴り、矢が夜空へと放たれる。


一本、二本ではない。


次から次へと放たれた矢が、風を切り裂きながら漆黒の空へ吸い込まれていく。


まるで、夜空そのものに溶けていくかのように。


そして――。


カミーア:「!」


ふと、カミーアが違和感に気づき、振り返った。


その瞬間だった。


夜空に消えたはずの無数の矢が、星の光を受けてきらめきながら、一斉に降り注いできた。


矢の雨。


シャルクス:「お前たち、逃げろぉおおおっ!!」


シャルクスは叫び、仲間たちのもとへ駆け寄ろうとする。


だが――。


その行く手に、一つの影が立ちはだかった。


クリストファー:「わりぃな」


月明かりの下、クリストファーがゆっくりと歩み出る。


その口元には、変わらぬ余裕の笑み。


クリストファー:「俺は敵には容赦しねぇたちでね」


シャルクス:「ぐっ……!」


圧倒的な威圧感が、周囲の空気ごと押し潰す。


見えない鎖に縛られたかのように、シャルクスの足は動かなかった。


一歩も。


その間にも、空からは矢が迫ってくる。


カミーア:「ジャン!」


カミーアは叫びながら、手にした箱をジャンへ向かって放り投げた。


ジャン:「うおおおおっ!」


ジャンは雄叫びを上げ、飛びつくように箱を受け取る。


すぐさまブルトスと顔を見合わせる。


次の瞬間、二人は迷わなかった。


ブルトスとジャンは、森の奥へ向かって一目散に駆け出す。


振り返ることもなく。


足を止めることもなく。


その背を見送る余裕すらなく、カミーアは腰の長剣を一気に引き抜いた。


迫り来る矢の雨。


それに真正面から向き合う。


カミーア:「そりゃああああっ!!」


鋭い剣閃が夜気を裂いた。


キィン!


ガキンッ!


振るわれた長剣が空を走り、降り注ぐ矢を次々と弾き落としていく。


火花が散る。


折れた矢が舞う。


それでもカミーアは、一歩も退かなかった。


まるで鋼の壁のように。


彼女は、その場に立ち続けていた。


夜空から降り注いだ矢の嵐――。


そのすべてを、カミーアは剣一本で凌ぎきった。


だが。


その代償は、あまりにも大きかった。


カミーア:「はぁ……はぁ……っ」


荒い息が、夜気にこぼれる。


肩で呼吸をしながら、カミーアの膝がぐらりと揺れた。


今にもその場に崩れ落ちそうなほど、全身から力が抜けている。


カミーア:(……シャル……)


霞む視界の向こうで、彼女は必死に顔を上げた。


そこにいたのは――シャルクスだった。


心配そうに、こちらを見つめている。


カミーア:(どうして……逃げないんだい……?)


だが、次の瞬間。


カミーアは気づいた。


違う。


シャルクスは逃げないのではない。


逃げられないのだ。


見えない何かが、彼の足を地面に縫い止めている。


空気そのものが重く沈み込み、動こうとする意思を押し潰しているようだった。


カミーア:「……こいつのせいか」


カミーアは歯を食いしばり、前方を睨みつける。


そこには――。


ゆっくりと歩み寄ってくる男がいた。


クリストファー。


その身から滲み出る圧倒的な圧力が、森の闇をさらに濃くしている。


クリストファー:「おめぇは逃げねぇんだ」


口元に浮かんでいるのは、冷たい笑み。


その言葉に、カミーアはもう一度だけシャルクスへ視線を向けた。


何もできず、歯を食いしばっているシャルクスの姿が見える。


その悔しげな顔を見た瞬間――。


カミーア:「……逃げないよ……ッ!」


短く、強く言い放った。


次の瞬間。


カミーアは残された力を脚に叩き込み、地面を蹴る。


一気に間合いを詰める。


そして――。


カミーア:「――はああっ!!」


渾身の力を込め、長剣を振り下ろした。


だが。


その刃が届く寸前――。


クリストファー:《風の刃よ、鋼を砕け》


冷たい詠唱が、夜の森に響いた。


ビュオッ!!


突如として巻き起こった暴風が、カミーアの剣に絡みつく。


次の瞬間。


パキンッ!!


鋼の刃が、まるで薄い硝子のように砕け散った。


カミーア:「っ……!?」


信じられない光景に、カミーアの目が見開かれる。


砕けた刃の破片が、月明かりを受けて夜空へ散った。


クリストファー:「残念だったな」


淡々と告げる声。


だが、それで終わりではなかった。


クリストファー:《風よ、吹き飛ばせ》


続けざまに紡がれる呪文。


次の瞬間――。


ゴォォォォッ!!


激しい突風が、カミーアの身体を真正面から叩きつけた。


カミーア:「うわああああっ……!」


身体が宙へ弾き飛ばされる。


踏ん張ることも、受け身を取ることもできない。


そのまま――。


ドンッ!!


背後の大木へ、背中から激突した。


鈍い衝撃が、全身を貫く。


カミーア:「……がっ……!」


血を吐きながら、カミーアはそのまま地面へ崩れ落ちた。


それでも。


クリストファーの瞳には、ほんの欠片の感情も浮かんでいなかった。


ただ冷たく、倒れたカミーアを見下ろしている。


クリストファー:「元カレのために剣を振るうなんて、健気だねぇ?」


侮蔑を含んだ声が、闇の中に落ちる。


その言葉に――。


カミーアの指が、地面を掴んだ。


震える腕で土を押し、ゆっくりと身体を起こす。


カミーア:「……そんなんじゃ……ないって……」


息は乱れている。


視界も揺れている。


立っていることすら、もう限界に近い。


それでも。


カミーア:「……言った……だろ……ッ」


その瞳には、まだ光が残っていた。


折れていない。


屈していない。


まだ、戦う意志が消えていない。


闇に沈む森の中で。


カミーアの瞳だけが、鋭く燃えていた。


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