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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第1章 光の道筋を行け

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第6話 クリストファー・アーポットの襲来

ブルトス:「おい……まずいぞ。まさかアーポットが出てくるとはな」


ブルトスは低く呟いた。


周囲に聞こえないよう声を殺しながら、そっとカミーアの隣へ歩み寄る。


カミーア:「分かってる」


短く、吐き捨てるような返事だった。


眉間には深い皺が刻まれ、苛立ちは隠しきれていない。


だが――その瞳だけは、冷えていた。


感情に呑まれているわけではない。


目の前の状況を見極めようとする鋭い光が、まっすぐ前方へ向けられている。


ジャン:「姉さん、ここは引いたほうがよさそうですぜ」


ジャンも声を潜めて言った。


普段なら軽口の一つも叩く男だが、今はそんな余裕など欠片もない。


その顔には、はっきりと焦りが浮かんでいた。


カミーア:「……」


けれど、カミーアは答えなかった。


ただ――クリストファーと対峙するシャルクスの背中を、じっと見つめている。


シャルクス:「なんのことかな」


シャルクスは肩をすくめ、わざとらしくとぼけてみせた。


無駄だということは分かっている。


それでも、ほんの少しでも時間を稼げるなら――。


だが。


クリストファー:「お惚けか。やめときな」


クリストファーは余裕めいた笑みを浮かべたまま、ゆっくりと首を横に振った。


クリストファー:「また吹っ飛ばされるだけだぞ」


言葉は軽い。


まるで冗談でも言っているかのようだった。


しかし、その瞳の奥には、はっきりと攻撃の気配が宿っている。


シャルクス:「……っ」


シャルクスは言葉を失った。


額に汗が滲む。


喉が、嫌なほど渇いていた。


クリストファーの魔法の威力は、つい先ほど嫌というほど思い知らされたばかりだ。


シャルクス:(渡すしかないか……)


ゆっくりと、シャルクスは懐へ手を入れた。


指先に触れたのは――盗み出した小さな箱。


シャルクス:(……だけど)


これは、ただの盗品ではない。


バルデンの黄金へと繋がる、唯一の手がかり。


こんなところで、簡単に手放すわけにはいかなかった。


シャルクス:(もう……引くに引けねぇんだよ。こっちはよぉ)


シャルクスは静かに息を吐いた。


腹は括った。


あとは、口を開くだけ――。


その時だった。


カミーア:「あんたに先を越されてたようだね、シャル」


背後から、聞き慣れた声が飛んできた。


シャルクス:「カミーア……」


シャルクスはゆっくりと振り返る。


視線がぶつかった。


カミーアの瞳には、いつもの強気な光が宿っている。


だが、その奥には――言葉にしない何かが潜んでいた。


シャルクスは、それを一瞬で察した。


カミーア:「仕方ないね」


カミーアは肩をすくめ、わざとらしくため息をつく。


カミーア:「あたいらは、おとなしく退散することにするよ」


そう言って、ちらりとブルトスとジャンへ目配せした。


二人は無言でうなずく。


そして三人は、そのまま背を向け、ゆっくりと森の奥へ歩き出した。


その背中へ、からかうような声が飛ぶ。


クリストファー:「おいおい。彼氏が困ってるってぇのに、見捨てる気かぁ?」


カミーアの足が、ぴたりと止まった。


ゆっくりと振り返る。


カミーア:「そ、そんなんじゃない!」


頬がわずかに赤く染まる。


カミーアは慌てたように視線を逸らした。


その声には焦りと――ほんの少しだけ、否定しきれない響きが混じっていた。


カミーア:「あたいはね、伝説の冒険者の息子にケンカ売るようなバカじゃないんだよ!」


クリストファー:「へぇ」


クリストファーは、にやりと口角を上げた。


クリストファー:「俺はそういうバカ、けっこう好きだけどな」


余裕たっぷりの笑みだった。


シャルクス:「……もう、こいつらは関係ないだろ」


その時、シャルクスが静かに口を開いた。


懐へ手を入れ、小さな箱を取り出す。


クリストファー:「ほう」


クリストファーの視線が、カミーアからシャルクスの手元へと移った。


シャルクス:「あんたが用があるのは……こいつだろ」


シャルクスは、箱を差し出した。


クリストファー:「いい心掛けだ」


クリストファーが手を伸ばす。


――その瞬間。


カミーア:「今だ!」


カミーアの叫びが、夜の森に響いた。


同時に、ブルトスとジャンが弾かれたように走り出す。


三人は一斉に森へ向かい、全速力で駆け出した。


クリストファーの視線が、ほんの一瞬だけそちらへ流れる。


その刹那。


シャルクス:「カミーア!」


シャルクスは差し出したはずの箱を素早く引き戻し、疾走するカミーアへ向かって思いきり放り投げた。


箱は夜空を滑るように飛ぶ。


美しい放物線を描きながら、一直線にカミーアのもとへ向かった。


カミーアの手が伸びる。


パシッ。


小さな箱は、見事にその手の中へ収まった。


シャルクス:「よし……!」


シャルクスは小さく拳を握りしめた。


胸の奥から、安堵の息が漏れる。


――だが。


クリストファーの笑みは、まったく崩れていなかった。


クリストファー:「やるな」


むしろ、楽しそうですらある。


クリストファー:「だが――」


その瞳が、鋭く細まった。


クリストファー:「俺はそんなに甘くねぇぞ」


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