第5話 シャルクスの怒り
シャルクスの言葉を聞いた瞬間――
カミーアは、きょとんと目を丸くした。
カミーア:「……え?」
本気で意外そうな顔だった。
シャルクス:「なんだよ」
少しばかりむっとした声で、シャルクスが返す。
カミーアは腕を組み、まじまじと彼を見つめた。
カミーア:「あんたも、ワッツと同じでさ。財宝だの黄金だの、そういうもんには興味ないと思ってたんだけどね」
わずかに首を傾げる。
カミーア:「違ったのかい?」
シャルクスは、ふっと視線を落とした。
ほんの一瞬だけ、何かを思い出すように沈黙する。
やがて、小さく苦笑した。
シャルクス:「……まあな」
肩をすくめる。
その仕草は軽かった。
だが、次に口を開いたときの声は、驚くほど静かだった。
シャルクス:「とにかく、俺は君たちを敵に回したくない」
カミーアの表情が、わずかに変わる。
冗談ではない。
シャルクスの目が、真っ直ぐに彼女を捉えていた。
シャルクス:「だから、教えてくれ」
その瞳に、鋭い光が宿る。
シャルクス:「誰が黄金を狙っている?」
まるで、隠された真実ごと射抜こうとするような視線だった。
カミーアは一瞬、目を伏せた。
言うべきか。
言わないべきか。
短い沈黙が、夜気の中に落ちる。
だがすぐに、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
カミーア:「……ガスパー・ラッズだよ」
シャルクス:「……なにっ」
その名を聞いた瞬間――
シャルクスの表情が、凍りついた。
カミーア:「ワッツは、ガスパーの手下だったんだ」
カミーアは続ける。
けれど、言葉を紡ぎながらも、彼女はそっとシャルクスの顔を窺っていた。
そこに浮かんでいたのは、驚きではない。
恐れでもない。
――怒りだった。
カミーア:「……シャル?」
思わず呼びかける。
だが、シャルクスは答えなかった。
その瞳の奥で、炎のような感情が燃え上がっている。
シャルクス:「……ガスパーも狙ってやがるのか」
低く、唸るような声だった。
シャルクス:「黄金を」
ぎり、と。
握りしめた拳に、力がこもった。
必死に怒りを押し殺そうとしているのは、誰の目にも明らかだった。
けれど――震える肩だけが、内側で渦巻く感情を隠しきれていない。
ジャン:「ど、どうしたんですか、シャルクスさん……?」
不安げにジャンが声をかける。
ブルトス:「なんか、様子がおかしいぞ……」
ブルトスも眉をひそめた。
その時だった。
???:「ガスパーってやつに、よほど恨みでもあるんじゃねぇのか?」
背後から――
やけに呑気な声が響いた。
ブルトス&ジャン:「うわっ!?」
二人が同時に飛び退く。
慌てて振り向いた先に、いつの間に現れたのか、一人の男が立っていた。
クリストファー。
男は、楽しげに口元を歪めていた。
シャルクス:「ちっ……追いつかれたか」
舌打ちと同時に、シャルクスは身構える。
カミーア:「……何者だい」
カミーアも警戒を露わにしながら、ゆっくりと長剣を抜いた。
シャルクス:「さっき商館で、俺を吹っ飛ばした奴だ」
苦々しく吐き捨てる。
シャルクス:「巻いたと思ったんだけどな」
クリストファーは不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと一歩踏み出した。
クリストファー:「そりゃ無理だな」
軽く肩をすくめる。
クリストファー:「こんなところでカワイ子ちゃんといちゃついてるから、足が鈍るんだよ」
ニヤニヤと笑う。
クリストファー:「なあ、シャルクス」
シャルクス:「なっ……!」
その瞬間、シャルクスの目が見開かれた。
シャルクス:「なぜ、俺の名を……」
驚きが、声に滲む。
だが次の瞬間には、その瞳に鋭い警戒の光が宿っていた。
カミーア:(あの男……いったい何者だ)
カミーアは目を細め、クリストファーを睨みつける。
シャルクスの名を知っている。
しかも、本人の反応を見る限り、ただの追っ手ではない。
指先が、自然と剣の柄を握り直した。
シャルクス:「……なぜ、俺の名を知っている?」
低く問いかける。
その声は、わずかに震えていた。
驚き。
戸惑い。
そして、思い出したくない何かへ触れられたような緊張。
だが、対するクリストファーはどこ吹く風だった。
まるで旧友と再会したかのように、余裕の笑みを浮かべている。
クリストファー:「おめぇとは、一度会ったことがあるんだが……覚えてねぇか?」
ニヤリ、と口元を歪める。
その挑発的な笑みが、シャルクスの記憶の奥をかすかに揺さぶった。
シャルクス:(こいつ……誰だったか……)
シャルクスは眉をひそめ、クリストファーの顔をじっと見据える。
だが、記憶の糸はなかなか結びつかない。
そんな彼を見て、クリストファーは少しだけ呆れたように肩をすくめた。
クリストファー:「おめぇの兄貴とは、飲み友達だったんだけどなぁ」
その一言で――
凍りついていた記憶が、弾けるように繋がった。
シャルクス:「……お前」
シャルクスの表情が変わる。
シャルクス:「クリストファー・アーポットか」
その名が口にされた瞬間、場の空気がぴんと張り詰めた。
カミーア:「なに……こいつが……あのアーポット……!?」
カミーアの声が、思わず震える。
クリストファー・アーポット。
伝説的な冒険家として名を轟かせた、アーポット夫妻の息子。
そして、自らもまた“偉大な魔法使い”として知られる冒険家。
その男が今、目の前に立っていた。
クリストファー:「お、思い出してくれたか」
クリストファーは軽く笑った。
だが――その目から、ふっと温度が消える。
クリストファー:「じゃあ、話は早いな」
一歩。
クリストファーが前へ出る。
クリストファー:「俺の物を返してくれ」
静かな声だった。
けれどそこには、冗談も、遊びも、容赦もなかった。
シャルクス:「くっ……!」
シャルクスは拳を強く握りしめる。
ぎり、と奥歯を噛み締めた。




