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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第1章 光の道筋を行け

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第4話 月下の元に集いし者たち

ザッ……ザッ……。


湿った土の匂いが、夜の森に濃く漂っていた。


頼りない月明かりが木々の隙間からこぼれ、足元にまだらな影を落としている。その影を縫うようにして、シャルクスは音もなく森の中を駆け抜けていた。


背後には――確かな気配。


追ってきている。


シャルクス:(……ここまで来れば、ひとまず大丈夫か)


胸の内でそう呟き、彼はようやく足を止めた。


軽く息を整える。


それから、ゆっくりと振り返った。


そこに立っていたのは――予想通りの顔だった。


シャルクス:「相変わらず足が速いな。追いつかれるかと思って、ヒヤヒヤしたぜ?」


月明かりに照らされたその顔を見て、シャルクスはわずかに目を細めた。


懐かしさ。


そして、どこか安堵にも似たものが、その表情に浮かぶ。


カミーア:「あんたも相変わらずだね。そのキザっぽいところ」


返ってきた声は、ひどく冷ややかだった。


カミーア・プラント。


かつて、同じ盗賊団に身を置いていた仲間。


そして――シャルクスが密かに想いを寄せていた女だった。


シャルクス:「そこが俺の良さだろ?」


カミーア:「ほんとムカつく」


ぴしゃりと斬り捨てられる。


シャルクスは困ったように笑い、後頭部をかいた。


シャルクス:(……こりゃ、まだ怒ってるな)


カミーアの瞳は冷たい。


だが、その奥にはほんのかすかに、寂しさのような色が揺れている。


カミーア:「そんなことより」


彼女が一歩、前に出た。


カミーア:「あんた、あの商館で何してたんだい?」


淡々とした問いだった。


けれど、その声を聞いた瞬間、シャルクスの表情がわずかに曇る。


シャルクス:「……俺はもう一味じゃない。何をしようと、俺の勝手だろ」


その言葉に――


カミーアの肩が、ほんの一瞬だけ落ちた。


けれど次の瞬間には、彼女はもういつもの冷たい顔に戻っていた。


カミーア:「そうだねぇ」


皮肉げに、口元を歪める。


カミーア:「あたいとあんたの間には、何もなかったしね」


シャルクス:(……さすがに、まずかったか)


気まずそうに、シャルクスは視線を逸らした。


シャルクス:「……そうは言ってないだろ」


その時だった。


木陰の奥から――


ザッ、と枯れ葉を踏む音がした。


二つの影が、ゆっくりと姿を現す。


ブルトス:「一味にいたって言ってもよ……半年くらいしかいなかっただろ、お前」


低く、ぼそりと呟いたのはブルトスだった。


無精髭を生やし、不機嫌そうな顔をした男だ。


ジャン:「そうそう」


隣でジャンが肩をすくめ、軽薄な笑みを浮かべる。


ジャン:「むしろ、なんかある方がおかしいですぜ」


場の空気が、じっとりと湿り気を帯びる。


カミーア:「……うるさい」


カミーアが鋭く睨みつけた。


だが、その視線を受けても、二人は顔を見合わせるだけだった。


そして、にやにやと笑う。


シャルクス:「なんだ」


シャルクスは小さく肩をすくめた。


シャルクス:「お前らもいたのか」


そこで一度、言葉を切る。


そして――ぽつりと、小さく付け加えた。


シャルクス:「……ちょっと残念だな」


その一言に、カミーアの眉がぴくりと動いた。


シャルクス:「それで、そっちこそ――あそこで何してたんだ?」


何気ない問いのようでいて、その声には探るような響きがあった。


その瞬間――


カミーアたちは、ほんの一瞬だけ沈黙した。


湿った森の中を、夜風が静かに吹き抜けていく。


三人は互いにちらりと視線を交わした。


言うべきか。


言わざるべきか。


そんな短い駆け引きのあと、カミーアが小さく息を吐いた。


カミーア:「……あたいらの狙いは、バルデンの黄金さ」


その言葉に――


シャルクス:「……なに?」


ぴくり、とシャルクスの眉が動いた。


次の瞬間、彼の表情から軽さが消える。


それまで口元に浮かんでいた余裕の笑みは消え、瞳に鋭い警戒の色が宿った。


ジャン:「頭の命令で、あの商館を探れって言われたんすよ」


そんな空気を読んでいるのか、いないのか。


ジャンは調子よく肩をすくめ、手を揉みながらにやりと笑った。


ジャン:「何か見つけませんでしたか? シャルクスさん」


だが、シャルクスは笑わなかった。


シャルクス:「……ワッツの命令か?」


低く、押し殺した声だった。


その名を口にした途端、シャルクスの顔つきがさらに険しくなる。


ワッツ・バンプス。


盗賊団の元若頭。


そして――シャルクスにとっては、かつて兄貴分のような存在だった男だ。


カミーア:「ワッツはね」


カミーアは、吐き捨てるように肩をすくめた。


カミーア:「最初っから、それが狙いでウチに入ったのさ」


その声には、隠しきれない嫌悪が滲んでいた。


シャルクス:「なんだって……本当か?」


思わず、シャルクスの目が見開かれる。


カミーアは静かに頷いた。


迷いはなかった。


シャルクス:「あいつは……」


シャルクスは眉根を寄せた。


シャルクス:「金品よりも、暴力の方が好きそうな男だったけどな」


信じられない。


そんな思いが、その声には滲んでいた。


カミーア:「クライアントがいたのさ」


短く、カミーアが答える。


シャルクス:「クライアント?」


シャルクスは目を細めた。


シャルクス:「誰だ、そいつは」


その瞬間――


ブルトス:「おっと」


横から、ブルトスが口を挟んだ。


無精髭に覆われた口元が、にやりと歪む。


ブルトス:「そこまで知りてえならよ」


腕を組み、じろりとシャルクスを見据える。


ブルトス:「お前も、あそこで何してたか吐きな」


そして、試すように笑った。


ブルトス:「それが駆け引きってもんだろ?」


その言葉に、シャルクスはふっと苦笑した。


シャルクス:「……そうだな」


軽く肩をすくめる。


まるで観念したように。


けれど、その目だけは少しも笑っていなかった。


シャルクス:「俺の狙いも、お前らと同じだよ」


一拍。


夜の森が、静かに息を潜める。


そして、シャルクスは告げた。


シャルクス:「バルデンの黄金さ」


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