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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第1章 光の道筋を行け

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第3話 回想:始まりここから

薄暗い部屋の奥。


揺れる灯りの下で、年老いた男とエルフの賢者が、静かに向かい合って座っていた。


男の名は――バルデン・ローガス。


かつて世界中を渡り歩き、いくつもの伝説を打ち立てた大冒険者である。


だが、今そこにいるのは、栄光に包まれた英雄ではなかった。


背はわずかに丸まり、肩まで伸びた白髪が、かすかな風に揺れている。



かつて剣を振るい、幾多の魔物を斬り伏せてきた腕も、今では見る影もなく痩せ細っていた。


バルデン:「黄金の鉱脈、か……」


ぽつりと、老人は呟いた。


その目は、向かいに座るエルフの賢者を見てはいない。



もっと遠く――もう二度と戻らない、遥かな過去を見つめていた。


バルデンは、貧しい家に生まれた。


誰かに守られたことなどない。



誰かに手を引かれたこともない。


それでも彼は、たった一人で剣を握り、道を切り開いた。



富を手に入れ、名を上げ、やがて世界にその名を知られる冒険者となった。


だからこそ、世間は彼をこう呼んだ。


――成り上がり者。


蔑みと嫉妬の混じったその言葉を、バルデンは幾度となく浴びせられてきた。


だが、不思議と腹は立たなかった。


なぜなら――彼には仲間がいたからだ。


命を預け合い、背中を守り合い、剣を並べて死地を越えた仲間たち。



危険な冒険の果てに手に入れた黄金を分け合い、安酒を片手に夜が明けるまで笑い合った日々。


あの時間だけは、本物だった。


今でも、その記憶だけは、老いた胸の奥を静かに温めてくれる。


だが――。


故郷へ戻ったとき、彼を待っていたものは、まるで別のものだった。


黄金の匂いを嗅ぎつけ、どこからともなく群がってきた親族たち。



血のつながりを盾にしながら、その目だけは遺産を数えている。


まるで、獲物に群がるハイエナだった。


そして、それだけではない。


かつて友情を誓い合ったはずの友人たちもまた、いつの間にか金に取り憑かれていた。


笑顔は作り物になり、言葉には値札がつき、差し出される手の奥には、必ず別の欲が透けて見えた。


バルデン:「仲間、か……」


低く、乾いた声が落ちる。


その皺だらけの顔に、深い影が差した。


富は、人を変える。


友情を裂き、信頼を腐らせ、時には家族さえも別のものに変えてしまう。


バルデン・ローガスの人生は、栄光だけで彩られていたわけではない。


勝利の隣には、いつも裏切りがあった。



黄金の輝きの裏には、必ず誰かの醜い欲望が張りついていた。


向かいに座るエルフの賢者は、何も言わなかった。


ただ静かに目を閉じ、老人の独白に耳を傾けている。


部屋に沈黙が満ちる。


その沈黙は、どんな慰めの言葉よりも重く、どんな問いかけよりも深く――



バルデンという男が歩んできた長い年月と、その胸に刻まれた傷を物語っていた。


やがて、バルデンはかすかに唇を動かした。


バルデン:「……アルジェリカ」


その名が、静かな部屋に落ちる。


途端に、空気がわずかに張りつめた。


灯りの揺れる音さえ聞こえてきそうなほど、深い静寂。


しばらくの沈黙のあと、バルデンは目を伏せた。


バルデン:「すまなかった」


それは、誰に聞かせるための言葉でもなかった。


過去に置き去りにした誰かへ向けた、老いた冒険者のかすかな独白だった。


そのとき。


トン、トン。


扉を叩く音が、静寂を破った。


バルデンはゆっくりと顔を上げる。


バルデン:「……入りなさい」


老いた声は低く、静かだった。



だがその響きには、かつて数多の死地を越えてきた者だけが持つ重みがあった。


ギィ……。


扉が軋みを立てて開く。


その向こうに立っていたのは――


二人の若者だった。


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