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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第12話 勝ちゃあいいんだよ

ワッツは振り下ろされる斬撃を受け止めながら、じりじりと後退していた。


ギリ……ッ。


靴底が砂を削る。

踏ん張るたび、地面に深い跡が刻まれていく。


荒い息。

上下する肩。

握りしめた剣闘士の剣(グラディウス)の柄にも、血と汗が滲んでいた。


そのとき――


レックス:「どうした、ワッツ!」


鋭い声が、庭園に響き渡った。


レックス:「お前の勝利への執念……その程度かあ!」


叱咤か。

挑発か。


その叫びに、ワッツの目がぎらりと光った。


ワッツ:「ふざけんなあッ!」


怒号とともに、ワッツが踏み込む。


だが、その狙いはカミーアではなかった。


レックス。


ブンッ!!


剣闘士の剣(グラディウス)が大きく振り上げられ、一直線に振り下ろされる。

空気を叩き割るような剛剣が、レックスへ迫った。


――だが。


ガキィンッ!!


激しい金属音が弾けた。


ワッツの刃を受け止めたのは、レックスではない。


カミーアだった。


レディの剣が剣闘士の剣(グラディウス)を真正面から受け止める。

火花が散り、二人の足元で砂が跳ねた。


レックスはそれを見て、ニヤリと笑う。


そして、何事もなかったように一歩、後ろへ下がった。


カミーア:「言ったろ……」


押し込まれながらも、カミーアは笑っていた。


カミーア:「お前の相手は、“あたい”だって」


ワッツ:「……なんだと?」


ワッツは思わず目を見張る。


今まで見たことのない顔だった。


怯えはない。

迷いもない。


ただ、剣を交えるこの瞬間を、真正面から受け止めている目だった。


カミーア:「もっと楽しもうじゃないか、ワッツ」


レディの剣を構え直す。


カミーア:「お互いにな」


ワッツ:「……言ってくれるじゃねぇか」


ワッツは小さく息を吐いた。


それから、ゆっくりと剣闘士の剣(グラディウス)を下げる。

正面から、カミーアと向き合った。


カミーア:「そりゃあっ!」


ワッツ:「おりゃあッ!」


ガキィンッ!!


二人の剣が激しくぶつかり、火花が弾け飛ぶ。


カミーアは風のように踏み込んだ。

右へ。

左へ。

上段から斬り込み、次の瞬間には足元を狙う。


休む間もない連撃。


だが、ワッツも退かない。


ドンッ!!


振り抜かれた剣闘士の剣(グラディウス)が、カミーアの剣ごと身体を押し返す。


速さのカミーア。

力のワッツ。


鋭い刃と、豪快な剛剣。

まるで嵐と岩がぶつかり合うような激突だった。


カミーアの刃が、ワッツの腕を裂く。

ワッツの剛剣が、カミーアの足元を抉る。


一撃ごとに傷が増えていく。

一合ごとに呼吸が荒くなる。


それでも――


二人の口元には、いつしか笑みが浮かんでいた。


レックス:「そうだ……」


少し離れた場所で、レックスが腕を組んだまま呟く。


レックス:「もっとだ。もっと楽しめ」


剣戟の音が、庭園に響き続ける。


レックス:「楽しめば楽しむほど、それは力になる」


その視線は、真っ直ぐ二人へ向けられていた。


レックス:「未来を手にする力となるんだ」


いつの間にか、庭園の入口に二つの影が立っていた。


リーアとセドウィックだ。


二人は何も言わない。

ただ、中央でぶつかり合う二人の剣を見つめていた。


さらに――


屋敷の扉が開く。


シャルクスとクリスが外へ出てきた。


シャルクス:「カミーア……ワッツ……」


思わずこぼれた声。


だが、誰も止めない。

誰も口を挟まない。


庭園の中央で、二人の剣だけが何度も何度もぶつかり合っていた。


やがて――


カミーアの剣筋が、わずかに鈍る。


ワッツの一撃からも、少しずつ勢いが消えていく。


互いに限界は近い。


それでも二人は、ふらつく足を踏みしめ、ゆっくりと距離を取った。


荒い呼吸だけが、庭園に残る。


レックス:「オメェらの未来は、この先にある」


その声に、二人は再び剣を構えた。


折れかけた膝を持ち上げる。

震える指で、柄を握り直す。


最後の一撃へ。


レックス:「その力を使って――未来を掴み取れぇ!」


レックスが拳を高く掲げた。


その瞬間。


シャルクス:「カミーア!」


叫びが、火蓋を切った。


カミーア:「あああああああッ!」


ワッツ:「おおおおおおッ!」


二人は同時に地を蹴った。


限界を超えた身体を、無理やり前へ押し出す。

一直線に。

互いの刃だけを見据えて。


ワッツの剣闘士の剣(グラディウス)が唸りを上げる。


カミーアは、迫る刃を紙一重でかわした。


風が頬を裂く。

髪が舞う。


そして、次の瞬間。


ズブッ。


鋭い感触とともに、刃が肉を貫いた。


ワッツの胸を貫いていたのは――


レディの剣だった。


カミーア:「……」


カミーアは剣を突き刺したまま、そっと目を閉じる。


震える呼吸。

止まった剣戟。

静まり返る庭園。


やがて――


ワッツ:「いい女になったじゃねぇか……」


かすれた声が、漏れた。


カミーアは、はっと目を開く。


ワッツ:「やっぱ俺の見立て通りだったな……」


血に濡れた口元で、ワッツはうっすらと笑っていた。


カミーア:「……わりぃな」


声が震える。


カミーア:「お前の女になれなくて」


ぽたり、と。

カミーアの頬を涙が伝った。


ワッツ:「いいんだよ……」


ワッツは苦しげに息を吐きながら、ゆっくりと顔を上げた。


その視線は、カミーアの向こうへ向かう。


ワッツ:「これからの……長い人生……」


その先には、シャルクスが立っていた。


ワッツ:「あいつと……いっぱい楽しみな」


シャルクス:「ワッツ……」


シャルクスは、ただ名を呼ぶことしかできなかった。


カミーア:「……あばよ」


短く呟き、カミーアはレディの剣を引き抜いた。


ズルリ、と刃が抜ける。


ワッツの身体が、ぐらりと揺れた。


カミーアは振り返らない。


そのまま静かに歩き出す。


向かった先は――シャルクスの元だった。


二人は言葉を交わさなかった。


ただ自然に、互いの身体を抱き寄せる。


カミーアの肩が、小さく震えていた。


その背後で――


ワッツ:「勝ちゃあいいんだよ……!」


突然、声が響いた。


ワッツ:「勝ちゃあなッ!!」


叫びとともに、ワッツの膝が折れる。


ドサッ。


重い音を立てて、ワッツの身体が地面へ倒れ込んだ。


静寂。


誰も動かない。

誰も言葉を発しない。


レックス:「見事だ……ワッツ」


その場に立ったまま、レックスは静かに呟いた。


レックス:「実に、見事だった」

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