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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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エピローグ

バルデンの黄金を巡る騒動が終わってから――

気がつけば、半月が過ぎていた。


アーポット亭に預けられていた黄金は、最終的にシャルクスの判断で、ラスパル家復興の資金として使われることになった。


その管理を任されたのは、アーポット商会。


もちろん、その決定に納得していない者もいる。


リーア:「なんで全部持ってっちゃうのよ」


腕を組み、リーアはぷくっと頬を膨らませた。


目の前にあった黄金の山。

結局、ほとんど手をつけることもなく終わったのだから、文句の一つも言いたくなる。


一方、その黄金を託した当のシャルクスはというと――


今は王都オーディビルで、クリストファー・アーポットのもとに身を寄せていた。


アーポット商会の一員として、商いを学ぶ日々。


帳簿。

取引。

交渉。


これまで剣ばかり握ってきた男が、今では羽ペン片手に、数字と格闘している。


そして、その暮らしを同じ屋根の下で見ているのが、カミーアだった。


父から受け継いだ盗賊団は、すでに解散させた。

ブルトスやジャンたち、彼女に賛同した者たちとともに、新しい道を歩み始めている。


商隊の護衛。


盗むのではなく、守る仕事。

それが、今のカミーアたちの生業だった。


そして今――


彼らは久しぶりに、レクリコスの街を訪れていた。


場所は、冒険者や荒くれ者が集うことで知られる、シドの酒場。


昼間だというのに、店の中は相変わらず騒がしい。

酒の匂い。

笑い声。

怒鳴り声。

木の椅子が軋み、ジョッキがぶつかる音があちこちで響いている。


その喧騒の中で――


彼らは、再び顔を揃えていた。


レックス:「ははは。兄さんらしいね」


グラスを傾けながら、レックスが腹を抱えて笑う。


クリストファー:「だろう?」


クリストファーも豪快に笑い、隣で小さくなっているシャルクスの肩を、バンバンと叩いた。


クリストファー:「こいつが思った以上に使える奴で助かってるんだよ」


その勢いに押され、シャルクスは困ったように笑うしかない。


シャルクス:「い、いや……そんな……」


だが――


クリストファー:「それよりもよぉ」


ふいに、クリストファーの声が変わった。


陽気に笑っていた口元が止まる。

鋭い視線が、まっすぐレックスへ向けられた。


クリストファー:「オメェ、この間シャルクスになんか吹き込んだだろ」


その一言に、シャルクスの顔がみるみる引きつった。


シャルクス:「……っ」


視線が泳ぐ。


一方のレックスは、少しも動じない。

ゆっくりとグラスを口元へ運んだ。


レックス:「なんのことでしょうか?」


涼しい声だった。


クリストファー:「とぼけんじゃねぇよ」


クリストファーは舌打ちまじりに言う。


クリストファー:「こいつに、ぼこぼこに言い負かされたんだよ」


シャルクス:「あ、あれは……!」


慌てて言い訳しようとしたシャルクスを、レックスが片手を上げて制した。


レックス:「どうせあなたが短気を起こして、シャル君を困らせたんでしょう」


椅子に深くもたれ、レックスは両腕を広げて肩をすくめる。


レックス:「魔力と態度ばかりでかくなりやがって。シャル君はよくやってますよ」


そう言うと、身を乗り出し――ポン、とシャルクスの肩を軽く叩いた。


クリストファー:「うるせぇな……!」


気まずさを誤魔化すように、クリストファーはグラスを掴み、酒をぐいっとあおる。


クリストファー:「バカのくせに口ばっか達者になりやがって……覚えてろよ、この野郎」


レックス:「もう忘れました」


即答だった。


あまりにも迷いのない返事に、クリストファーの眉がぴくりと跳ねる。


クリストファー:「もう忘れただと!?」


顔を真っ赤にし、手にしていたグラスをドンッとテーブルへ叩きつけた。

酒が縁から少し跳ねる。


レックス:「お、やりますか?」


レックスは椅子に座ったまま、のんびりと肩を回した。

そして、両拳を軽く揺らしてみせる。


レックス:「喧嘩弱ぇのにやりますか? またぼこぼこになりますよ」


クリストファー:「ぐっ……!」


痛いところを突かれたクリストファーが、悔しそうに歯を噛みしめる。


しばらく唸ったあと――


クリストファー:「やらねぇよ!」


乱暴に吐き捨てた。


クリストファー:「どうせ汚ねぇ真似するんだろ、お前は!」


レックス:「それ、兄さんのことじゃないですか」


さらりと返すレックス。


そのすぐ横で。


シャルクスはそっと席を立ち、気配を消すように離れていった。


クリス:「ご苦労様です」


柔らかな声がかかる。


カウンター席で酒を飲んでいたクリスの隣へ、シャルクスは静かに腰を下ろした。


シャルクス:「あの二人、昔からあんな調子なのかい」


呆れ半分の声で問いながら、シャルクスは店内へ視線を向ける。


そこでは、レックスとクリストファーが、まだテーブルを挟んで火花を散らしていた。

今にも殴り合いになりそうな勢いである。


シャルクスは苦笑し、カウンター越しに声をかけた。


シャルクス:「シド。あの二人、昔からあんな感じなのか?」


店主シドはグラスを磨きながら、その様子を楽しそうに眺めていた。


シド:「変わんねぇよ、あいつらは」


肩を揺らして笑う。


シド:「ガキの頃からずっとあんな調子だ」


シャルクス:「そうか……」


その笑い声を聞きながら、シャルクスはふと視線を落とした。


脳裏をよぎるのは、兄――ドナルドの姿。


一瞬だけ、胸の奥に懐かしいものが触れた。


すると、シドがふっと笑う。


シド:「これからは、あいつらが身内みてぇなもんだ」


そう言って、シドはカウンターの上に酒の入ったグラスを置いた。


シド:「面白ぇ奴らでよかったじゃねぇか」


にかっと笑う店主に、シャルクスもつられて小さく笑った。


シャルクス:「……ああ」


グラスを軽く掲げ、静かに酒を口へ運ぶ。


そのとき――


クリス:「あっちでも、なにかやってますよ」


クリスが、ふと店の奥を指差した。


シャルクスがそちらへ視線を向けると――


リーアとエリーゼが、何やら激しく言い争っていた。


リーア:「だから、それは違うって言ってるでしょ!」


エリーゼ:「違いませんわ! あなたの考え方が乱暴すぎるんです!」


その真ん中で、カミーアが両手を広げていた。


カミーア:「おいおい、二人とも落ち着けって!」


クリス:「あらあら……」


クリスは苦笑しながら肩をすくめる。


クリス:「カミーアさん、お気の毒に」


シャルクスとクリスは、どこか他人事のようにその光景を眺めながら、ゆっくりと酒を飲んだ。


笑い声。

怒鳴り声。

グラスのぶつかる音。


今日も、シドの酒場は変わらず騒がしい。


                       ――アーポット亭の黄金 完


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