第11話 楽しみのソード・ダンス
カミーア:「そりゃああっ!」
地を蹴った瞬間、カミーアの姿が掻き消えた。
次に現れたのは、ワッツの懐。
低く滑り込んだ体勢から、レディの剣がしなやかに振り抜かれる。
銀の軌跡が、空気を裂いた。
ワッツ:「っ……!」
咄嗟にグラディウスを立てる。
ガキィンッ!!
刃と刃が激しく噛み合い、青白い火花が散った。
だが、カミーアは止まらない。
受け止められても、弾かれても、構わない。
一歩。
半歩。
爪先で地面を刻むように位置を変え、レディの剣を次々と走らせる。
右へ。
左へ。
上段から斬り下ろし――返す刃で、今度は足元を狙う。
流れるような連撃。
その剣筋はしなやかで、鋭く、それでいてどこか弾んでいた。
ワッツ:(……なにがあった)
さっきまで、苦悶に顔を歪めていたはずだ。
それなのに今のカミーアは、まるで舞台の中央に立つ踊り子のように、生き生きと剣を振るっている。
ワッツは眉をひそめながら、襲い来る斬撃を受け流した。
そして、ふと視線を横へ流す。
ワッツ:(……は?)
目を見開いた。
カミーアの背後で――レックスが、同じ動きをしていた。
同じ足運び。
同じ間合い。
同じ剣筋。
レディの剣を介して、レックスの動きがそのままカミーアへ流れ込んでいる。
まるで、二人で一本の剣を振るっているかのように。
レックス:「奴に向けるのは、怒りや悲しみじゃない」
静かな声が、刃音の合間に落ちた。
レックス:「楽しみだ。今、この時を――この瞬間を、思いっきり楽しむんだ」
カミーアの足が、さらに弾む。
レックスの動きと重なり、剣の軌道が迷いなく伸びていく。
ワッツ:「……チッ、ふざけやがって!」
苛立ちが、声に滲んだ。
だがカミーアは、その怒声すら拍子に変えるように踏み込んでくる。
踊るように。
笑うように。
剣舞は、さらに鋭さを増していった。
ワッツ:「なめんなッ!」
押し込まれていたワッツが、獣のように吠えた。
次の瞬間――
ブンッ!!
大振りの一撃が唸りを上げ、カミーアのレディの剣を強引に弾き飛ばす。
その勢いのまま、ワッツはグラディウスを振り回した。
空気が裂ける。
刃が暴風のように襲いかかる。
カミーア:「くっ……!」
怒涛の斬撃。
その荒々しさに、カミーアの足が一瞬だけ止まった。
その――ほんの一瞬。
レックス:「恐れるな」
背後から、静かな声が届いた。
同時に、伸びてきた腕がカミーアの肩をそっと押し下げる。
そして次の瞬間。
スッ――
レックスの身体が、滑るように前へ出た。
レックス:「恐れは、相手を喜ばせるだけだ」
振り下ろされるグラディウス。
だが、レックスは慌てない。
カン――
キィン――
彼の剣が触れた瞬間、ワッツの一撃はするりと横へ流された。
力任せの斬撃が、次々と逸らされていく。
ワッツ:「チッ……!」
露骨な舌打ち。
顔に苛立ちが浮かぶ。
レックス:「ワッツに楽しみも喜びもやるな」
静かな声。
けれどその言葉は、刃のようにまっすぐカミーアへ届いた。
カミーアは息を吸う。
胸の奥で固まっていたものが、ふっとほどけた。
カミーア:「……はい!」
力強く頷いた、その瞬間――
レックスの背中が、わずかに開いた。
カミーアはその隙を見逃さない。
トンッ!
地を蹴り、前へ飛び出す。
レディの剣が再び宙を舞った。
踊るように。
しなやかに。
そして、鋭く――
ワッツへ向かって、怒涛の連撃が叩き込まれる。
ワッツ:「こなくそがああッ!」
怒号が弾けた。
ワッツはカミーアの剣を受け流しながら、獣のような勢いで踏み込む。
次の瞬間――
ブンッ!
グラディウスが唸りを上げ、反撃の刃が閃いた。
だが。
スッ――
その前へ、またしてもレックスが滑り込む。
レックスの剣が水の流れのように絡みつき、ワッツの乱暴な斬撃を受け流した。
重いはずの一撃が、刃に触れた瞬間――
するりと横へ逸れていく。
ワッツ:「チッ……!」
ワッツは止まらない。
さらに荒々しく剣を振るい、力任せの斬撃を次々と叩きつける。
しかし――
レックスが守り、カミーアが攻める。
二人の呼吸は、完全に噛み合っていた。
レックスが流した隙へ、カミーアの剣が入り込む。
カミーアが踏み込めば、レックスがその背を守る。
まるで、長年組んできた剣士同士のように。
やがて、ワッツの乱撃が少しずつ鈍り始めた。
ワッツ:「くそが……二対一は流石にねぇだろ」
ついに剣を振るう手を止め、額の汗を乱暴にぬぐう。
肩がわずかに上下していた。
レックス:「勝っちゃあいいんだよ。勝っちゃあな」
レックスは肩の力を抜いたまま、淡々と言った。
レックス:「そうだろ、ワッツ」
静かな言葉が、戦場の空気を揺らす。
その――ほんの一瞬。
ワッツの足が止まった。
カミーア:「はあっ!」
カミーアはその隙を逃さない。
レックスの影から、弾かれるように飛び出した。
レディの剣が閃く。
しなやかに。
鋭く。
光の軌跡を描きながら――
容赦なく、ワッツへ襲いかかった。
ワッツ:「ぐっ……!」
金属音が連続して弾ける。
カミーアの剣は、止まらない。
一撃。
二撃。
三撃。
その刃は、ワッツの守りを削るように、さらに深く踏み込んでいった。




