第10話 カミーア対ワッツ
静まり返った広大な庭園に、重い金属音が鳴り響いていた。
剣と剣がぶつかるたび、空気が震える。
ワッツ:「おら、おら、おらああ!」
剣闘士の剣を豪快に振り回し、ワッツは後退するカミーアへ踏み込んでいく。
唸りを上げる刃が、目前をかすめた。
一撃でもまともに受ければ――それだけで終わる。
カミーア:「くっ……!」
カミーアはレディの剣を握りしめ、迫る刃を受け止めた。
ガキンッ!
青白い火花が散る。
腕が軋む。
だが、押し返せない。
力の差が、あまりにも大きい。
ワッツ:「おりゃああああッ!」
次の瞬間、ワッツの足が跳ね上がった。
ドンッ――!
腹部へ、衝撃がめり込む。
カミーア:「がっ……!」
身体が宙に浮き、そのまま地面へ叩きつけられた。
砂が跳ねる。
肺の奥から、息が抜けた。
ワッツ:「そんな調子じゃあ、ロッドの仇は討てねぇぞ」
倒れたカミーアへ、間髪入れずに剣闘士の剣が振り下ろされる。
巨大な刃の影が、彼女を覆った。
カミーア:「っ……!」
カミーアは地面を蹴った。
片膝をついた姿勢のまま跳ね起き、レディの剣を振り上げる。
ガキィンッ!
刃と刃が噛み合った。
火花が弾け、金属が軋む。
震える腕で、それでもカミーアは受け止める。
ワッツの鋭い眼光を、真正面から睨み返した。
カミーア:「ま……だ……っ」
歯を食いしばり、押し潰されそうな刃を押し返す。
足元は揺れている。
呼吸も荒い。
それでも、視線だけは逸らさなかった。
ワッツ:「どりゃあああッ!」
ワッツの咆哮が庭園に響いた。
剣闘士の剣が、再び唸りを上げる。
容赦など、最初からない。
重い斬撃が次々と叩き込まれた。
ガンッ!
ギィンッ!
金属音が連続して弾ける。
一撃ごとに空気が震え、足元の砂が跳ねた。
カミーアは剣で受け流し、受け止め、必死に踏みとどまる。
だが、じりじりと下がらされていく。
そして――
ガッシンッ!
背後で、鋭い金属音が弾けた。
カミーア:「……!」
ワッツの振り下ろした剣闘士の剣は、彼女の背後から割り込んできた一本の剣によって、真っ向から受け止められていた。
レックス:「間に合ったな」
落ち着いた声が、静かに響いた。
カミーア:「レックスさん……!」
振り返るカミーアの肩を、レックスが軽く押す。
自然な動きで、二人の位置が入れ替わった。
そのまま、レックスは一歩前へ出る。
そして剣を横薙ぎに振り抜いた。
ブォン――!
鋭い風圧が砂埃を巻き上げ、視界が揺れる。
ワッツ:「ちっ……!」
ワッツは舌打ちし、地面を蹴った。
ドンッ――!
軽々と宙へ跳び、大きく後方へ着地する。
砂煙がゆっくりと晴れていく。
その向こうで、レックスは剣先をわずかに下げ、静かに構えていた。
ワッツ:「邪魔するか。アーポット」
低く唸る声。
ワッツの目が、獣のようにレックスを射抜く。
今にも噛みつきそうな眼光だった。
だが――
レックス:「邪魔はしねぇよ」
レックスはあっさりと言い放つと、くるりと踵を返した。
堂々と、ワッツに背を向ける。
レックス:「お前とダンスするのは、俺じゃあねぇ」
そう言って、荒い息をつくカミーアの隣に並んだ。
ワッツ:「ダンスだと……?」
ワッツの眉がぴくりと動く。
その言葉が気に入らないのか、口元が歪んだ。
カミーア:「レックスさん……」
カミーアはレックスを見上げた。
息はまだ整わない。
レディの剣を握る腕も、かすかに震えている。
レックスは、その視線を受けると、ほんの少しだけ口角を上げた。
レックス:「俺がリードを取ってやる。踊ってみろ」
そう言って、剣を振り上げる。
レックス:「カミーアさん」
カミーア:「!」
名を呼ばれた瞬間。
カミーアの手が動いていた。
気がつけば、レディの剣をレックスと同じように振り上げている。
その瞬間だった。
じんわりとした不思議な力が、剣から流れ込んでくる。
腕へ。
胸へ。
全身へ。
重かった身体が、少しずつ目を覚ましていく。
カミーアは小さく息を吸った。
そして、口元を吊り上げる。
カミーア:「……あいよ!」
レックス:「さあ、はじめようか」
静かな号令。
カミーアの視線が、ワッツを捉えた。
レックス:「ソード・ダンス・楽」
次の瞬間――
カミーアは地を蹴った。




