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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第9話 金貨が教えてくれた真実

シャルクスは、手の中の金貨を見つめた。


脈打つような熱が、掌に伝わってくる。


淡い光が指の隙間から漏れ、鼓動のように明滅していた。


シャルクス:「……導いてくれているのか」


小さく呟き、顔を上げる。


その視線の先――

窓際に立つリリィナを、真っ直ぐに捉えた。


リリィナ:「……」


リリィナは何も言わない。


だが、氷の仮面のように動かなかったその顔が、わずかに揺れていた。


彼女の視線は、シャルクスの手元に釘付けになっている。


光を放つ、一枚の金貨に。


シャルクスはその反応を見て、口元を吊り上げた。


シャルクス:「こいつも欲しいか!」


戦場の喧騒を裂くように、声を張り上げる。


その瞬間――


リリィナ:「ぐっ……!」


リリィナの顔が苦悶に歪んだ。


思わず、視線を逸らす。


シャルクスは金貨を強く握り直した。


そして――


シャルクス:「バルデンの……最後の黄金だ!」


腕を振りかぶる。


シャルクス:「受け取れ!」


ヒュッ――


金貨が宙へ放たれた。


光の尾を引きながら、ゆるやかな弧を描いて飛んでいく。


その先にいるのは――リリィナ。


「――!」


リリィナの瞳が、大きく見開かれた。


迫りくる金貨が、彼女の視界いっぱいに映る。


くるくると回転する金貨。


その表面に刻まれていたのは――

一人の女性の横顔だった。


気高く、誇り高い面影。


それは。


若き日の、リリィナ自身だった。


リリィナ:「……私は、何ということを……」


かすれた声が、ぽつりと漏れる。


彼女の瞳は、宙を舞う金貨を追っていた。


その手が、ゆっくりと伸びていく。


まるで、抗えない何かに導かれるように。


――その瞬間。


クリス:《雷よ!》


鋭い詠唱が、空気を裂いた。


メディルの猛攻のわずかな隙を突き、クリスの杖先から稲妻が走る。


黒い爪の脇をすり抜け――

一直線に、宙を舞う金貨へ。


バリバリッ――!!


雷をまとった金貨が、爆ぜるような眩い光を放った。


だが。


リリィナは、ためらわなかった。


灼けるような輝きを放つ金貨を、迷いなく握りしめる。


次の瞬間――


リリィナ:「ぐぎゃああああああッ!!」


部屋に響き渡ったのは、リリィナの声ではなかった。


それは――

メディルの断末魔だった。


同時に、クリスと対峙していたメディルの分身が、霧のように崩れ落ちる。


黒い輪郭がほどけ、空気に溶けるように消えていった。


衛兵たちは、その異様な光景に息を呑む。


だが、異変はまだ終わらない。


リリィナの身体が、ぐにゃりと歪んだ。


皮膚が波打つ。


骨が軋む。


肉体が内側から引き裂かれるように、形を変えていく。


リリィナ。


次の瞬間には、メディル。


そして――ガスパー。


三つの姿が、目にも留まらぬ速さで入れ替わった。


まるで、三つの魂がひとつの肉体を奪い合っているかのように。


衛兵:「な、なんだこれは……」


震える声が漏れる。


それでも変化は止まらない。


リリィナへ。


メディルへ。


ガスパーへ――。


狂ったように姿が入れ替わり続ける。


そして、やがて。


ぴたりと、止まった。


そこに立っていたのは――

ガスパーだった。


直後。


ガスパーの胸元から、ふっと二筋の光が抜け出した。


淡く揺らめく、二つの光。


それは――

リリィナとメディルの魂だった。


二つの光は絡み合うように寄り添いながら、ゆっくりと宙へ昇っていく。


天井へ届く頃には、無数の淡い光の粒となり――

静かに消えていった。


あとに残ったのは。


重く落ちる静寂と――

その場に立ち尽くす、ガスパーの身体だけだった。


ガスパー:「……はっ」


ガスパーは、呆然と息を漏らした。


ガスパー:「儂は……何を……?」


混乱した視線が、室内をさまよう。


そのとき――


シャルクス:「ふざけんな」


低い声が、静寂を切り裂いた。


シャルクスだった。


漆黒の剣を肩に軽く当て、コツンと鳴らす。


シャルクス:「たとえお前の意思じゃなかったとしても――お前がやったことを、俺は絶対に許さねぇ」


鋭い視線が、ガスパーを射抜く。


その横で、クリスも杖を肩に担いだ。


クリス:「それに……女の後ろに隠れて逃れようなんて、男のすることじゃありませんよ」


冷ややかな声だった。


ガスパー:「……」


二人の視線に射抜かれ、ガスパーはわずかに後ずさる。


喉が鳴った。


やがて、助けを求めるように視線をさまよわせ――

残っていた三人の衛兵へ向ける。


ガスパー:「お、おい……お前ら! 何をしておる! こいつらを斬れ!」


だが。


衛兵たちは、動かなかった。


やがて一人が、静かに剣を下ろす。


衛兵:「我々は……化け物の兵ではない」


ガスパー:「なにぃ……?」


ガスパーの顔が引きつった。


三人の衛兵は互いに顔を見合わせ、小さく頷き合う。


そして――

くるりとガスパーに背を向けた。


そのまま、何も言わず部屋を出ていく。


重い扉が。


ドン……と鈍い音を立てて閉まった。


広い室内に、虚しい残響だけが残る。


その静寂の中。


クリスは倒れた衛兵のそばに転がっていた剣を拾い上げた。


くるりと軽く回し――


ヒュッ。


ゆるやかな放物線を描いて、ガスパーの足元へ投げる。


カラン、と乾いた音が響いた。


クリス:「最後くらい――ご自分で戦ったらどうです」


ガスパーは、足元の剣を見下ろしたまま動かない。


ただ、呆然と立ち尽くしていた。


その姿に――

シャルクスの苛立ちが、ついに弾けた。


シャルクス:「来いよ、ガスパー」


漆黒の剣を構える。


低く、はっきりとした挑発だった。


シャルクス:「かかって来いと言ってるんだ!」


怒号が室内に響く。


ビクッ、とガスパーの肩が大きく震えた。


ガスパー:「う、うがっ……」


怯えたように後ずさる。


だが、次の瞬間。


ガスパー:「うがあああああッ!!」


ガスパーは足元の剣を掴み取った。


獣のような叫び声を上げ、一直線にシャルクスへ突進する。


だが。


シャルクス:「フン」


シャルクスは、ほんの一歩。


軽く身体をずらしただけだった。


ガスパーの剣が、虚しく空を切る。


その瞬間――

無防備にさらされた胴へ。


漆黒の刃が、静かに閃いた。


ザシュッ。


ガスパー:「ぐああっ!」


ガスパーの身体が大きくよろめき、床へ転がった。


そのまま――

ぴくりとも動かなくなる。


静寂。


シャルクスはゆっくりと剣を下ろし、短く息を吐いた。


そして、ぽつりと呟く。


シャルクス:「……終わったよ、兄さん」


手に握られていた漆黒の剣は――

霧が溶けるように、静かに消え去った。

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