第8話 最後の元凶
リリィナの鋭い声が、静まり返った室内を切り裂いた。
リリィナ:「衛兵!」
その瞬間――。
バンッ!!
左右の扉が弾け飛ぶように開いた。
赤い甲冑をまとった衛兵たちが、一斉に雪崩れ込んでくる。重い鎧がぶつかり合い、金属音が広い室内に不気味な余韻を残した。
リリィナは顎をわずかに上げる。
その氷のような視線が、シャルクスを捉えた。
リリィナ:「やっておしまいなさい」
静かな一言。
だが、それだけで十分だった。
衛兵たちの視線が、一斉にシャルクスへ突き刺さる。
次の瞬間。
何本もの剣が抜き放たれた。鋭い刃先が、逃げ場を塞ぐように彼へ向けられる。
シャルクス:「くそっ……!」
舌打ちと同時に、シャルクスは剣を構えた。
だが、リリィナへ踏み込むより早く、二人の衛兵が左右から間合いを詰めてくる。
逃げ道を塞がれた。
シャルクス:「チッ……!」
やむなく剣を振り上げる。
――ガキィンッ!!
金属同士がぶつかり合う甲高い音が、室内に弾けた。
火花が散る。
シャルクスは歯を食いしばり、振り下ろされた刃を受け止めた。
だが、衛兵は二人だけではない。
赤い甲冑の影が、次々と彼を取り囲んでいく。
その一方で――。
クリスは杖を振り上げ、短く詠唱を放った。
クリス:「《雷よ!》」
次の瞬間。
バリバリッ!!
杖の先から解き放たれた稲妻が、蛇のようにうねりながらメディルと周囲の衛兵たちへ走った。
轟音。
閃光。
電撃を受けた衛兵たちが悲鳴を上げ、次々と床に倒れ込む。焼け焦げた鎧の匂いが、室内に漂った。
だが――。
メディル:「無駄だよ」
メディルだけは、平然とそこに立っていた。
雷を受けたはずの身体に、傷ひとつない。
まるで、その攻撃など最初から存在しなかったかのように。
直後。
ヒュンッ!
黒い爪が鋭く振り抜かれた。
クリス:「……本体は、あちらですか」
クリスは杖で爪を受け流しながら、ちらりと奥へ視線を向ける。
その先。
窓際に立つリリィナが、静かに微笑んでいた。
冷たい笑みだった。
まるで、シャルクスとクリスが自分のもとへ辿り着くことなど、最初からあり得ないとでも言うように。
クリス:(さて……どうしますかね)
一瞬、思案がよぎる。
その刹那――。
メディル:「おりゃあ!」
黒い爪が、勢いよく振り下ろされた。
ガキィンッ!!
間一髪。
クリスは杖を横に構え、その一撃を受け止める。
メディル:「おらああ! よそ見してるんじゃないよ!」
メディルは爪に力を込め、ぐいっと押し込んできた。
杖が軋む。
足元が、床を削るようにじりじりと後ろへ下がる。
クリス:「そ、そのようですね……」
苦笑いを浮かべながら答える。
だが、その額には、うっすらと汗が滲んでいた。
ザンッ――!
鋭い一閃が空気を裂いた。
シャルクスの剣が、衛兵の鎧の隙間を正確に捉える。
衛兵:「ぐあっ……!」
赤い甲冑が膝から崩れ落ち、重い音を立てて床に倒れた。
だが、終わりではない。
残る三人の衛兵が、剣先を向けたままじりじりと距離を詰めてくる。
シャルクスは息を整えながら、横目でクリスの様子をうかがった。
クリス:「くっ……!」
黒い爪が、休む間もなく振るわれている。
クリスは杖でそれを受け流しているが、明らかに押されていた。
シャルクス:(まずいな……)
三人の斬撃を受け流しながら、シャルクスは次の手を探る。
そのときだった。
シャルクス:「……なんだ!?」
ポケットの中が、急に熱を帯びた。
じんわりとした熱が、みるみる強くなっていく。
同時に――。
淡い光が、布越しに滲み出した。
シャルクスは衛兵の剣を弾き返し、その隙に片手をポケットへ突っ込む。
シャルクス:「なんだ、これ……」
指先に触れたのは、熱を持った金属だった。
それを摘まみ上げた瞬間――。
まばゆい光が、一気に溢れ出した。
シャルクス:「うおっ……!」
突然の輝きに、衛兵たちがたじろぐ。
数歩、後ろへ下がった。
その光を見たリリィナの表情が――わずかに歪む。
リリィナ:「あれは……」
氷のように冷静だった顔に、一瞬だけ動揺が走った。
シャルクスの手の中で輝いていたのは、一枚の金貨。
バルデンの黄金で造られた、特別な金貨だった。
アーポット亭で使って以来、なんとなくポケットに入れたままになっていたもの。
だが今、その金貨は――。
まるで意思を持つかのように、強い光を放っていた。




