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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第7話 ガスパー屋敷の二人

ガスパーの屋敷へ忍び込んだシャルクスとクリスは、身を低くしたまま、薄暗い廊下を進んでいた。


壁に掛けられた燭台の火は少なく、長い通路の奥は闇に沈んでいる。

靴音ひとつ立てれば、屋敷中に響き渡りそうな静けさだった。


クリス:「……大丈夫ですか?」


隣を進むシャルクスの顔色を確かめるように、クリスが小声で囁く。


シャルクス:「ああ。これくらいで、なんともねぇよ」


そう答えながら、シャルクスは右腕を軽く押さえた。


先ほど受けた傷が、じくりと疼く。

それでも視線は前へ向けたまま、少しも緩まない。


シャルクス:「あいつらだって、自分たちの因縁と戦ってるんだ」


ぽつりと、声が落ちる。


シャルクス:「……俺だって、負けられねぇ」


クリスは、その横顔を一瞬だけ見つめた。


クリス:「そうですね……」


静かに頷いた、その時だった。


コツ、コツ、コツ。


通路の奥から、規則正しい足音が近づいてきた。


二人は言葉を交わさなかった。


同時に動く。


壁際へ身を寄せ、柱の影へ滑り込む。

闇に溶けるように、息を殺した。


ガチャ、ガチャ……。


鎧の擦れる音が近づいてくる。


衛兵だ。


足音は迷いなく、こちらへ向かっていた。


距離が詰まる。

あと数歩。

腕を伸ばせば、触れられるほどの距離。


シャルクスもクリスも、微動だにしない。


衛兵の影が、目の前を横切った。


ガチャ……。


一歩。

また一歩。


やがて衛兵は、二人のすぐ脇を通り過ぎ、そのまま通路の角を曲がっていった。


コツ、コツ、コツ……。


足音が遠ざかる。


完全に消えたあとも、二人はしばらく動かなかった。


沈黙。


それからようやく、シャルクスとクリスは柱の影から姿を現す。


互いに目を合わせる。

言葉はない。


小さく頷き合うだけで十分だった。


二人は再び身を低くし、屋敷の奥へと進んでいく。


やがて――


シャルクス:「……ここだな」


廊下の突き当たり。

重厚な大扉の前で、シャルクスは足を止めた。


隣に立つクリスも、静かに頷く。


クリス:「ここですね」


二人は一瞬だけ視線を交わした。


次の瞬間。


バタンッ!!


シャルクスが扉を押し開く。


重い扉が壁に当たり、広い室内へ音が反響した。


そこは、驚くほど何もない部屋だった。


家具もない。

飾りもない。

ただ、がらんとした広間だけが広がっている。


そして――


その一番奥。


大きな窓の前に、一人の女が立っていた。


リリィナ。


差し込む陽光が逆光となり、その姿を黒い影のように浮かび上がらせている。

細い輪郭が、床の上へ長く伸びていた。


シャルクスは、一歩踏み出した。


シャルクス:「……お前が元凶か」


押し殺した声が、広間に落ちる。


リリィナの目が、すっと細められた。


リリィナ:「恩知らずの……ラスパルの息子か」


冷えた声だった。


そこには、隠す気のない侮蔑があった。


シャルクス:「恩知らず?」


眉がわずかに動く。


リリィナは鼻で笑った。


リリィナ:「目をかけてやったというのに……我ら一族を裏切りおって」


言葉が終わるより早く、シャルクスの左手に黒い魔力が渦巻いた。


シャルクス:《闇の剣よ》


闇が集まり、刃を成す。


次の瞬間、シャルクスの手には、漆黒の剣が握られていた。


切っ先が、まっすぐリリィナへ向けられる。


シャルクス:「だからガスパーになり代わって、ウチを潰したのか」


静かな声だった。


だが、その奥には燃えるものがある。


シャルクス:「……だったら覚悟しな。お前も仇だ」


リリィナは動じなかった。


むしろ、冷たい笑みを浮かべる。


リリィナ:「無駄なことを」


その瞬間。


彼女の足元の影が、ぐにゃりと歪んだ。


床に落ちていた影が、生き物のように蠢き、広がり、伸びていく。

黒い泥が盛り上がるように形を変え――やがて、一つの人影となった。


メディルだった。


メディル:「あはは……また痛い目に遭いたいのかなあ?」


にたりと笑い、メディルが爪を振り上げる。


鋭い黒爪が、シャルクスへ振り下ろされた。


ギィン!!


甲高い音が弾ける。


メディルの爪は、シャルクスへ届く寸前で止められていた。


クリスの杖によって。


クリス:「同じ手は通じないよ」


静かな声。


次の瞬間、クリスは杖を大きく振り抜いた。


バッ!!


弾かれたメディルの身体が、数歩後ろへ下がる。


メディル:「……小賢しい坊やだね」


憎々しげな視線が、クリスへ向けられた。


クリスは一歩、前へ出る。


シャルクスを庇うように。

そして、メディルをまっすぐ見据えた。


クリス:「あなたのお相手は――僕ですよ」


わずかに口元を引き締める。


クリス:「魔女さん」

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