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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第5話 あいつの背を追いかけて

クリス:《雷よ!》


高らかな詠唱が、戦場の空気を震わせた。


次の瞬間――空が裂ける。


幾筋もの蒼白い稲妻が天より落ち、赤い甲冑の衛兵たちの頭上へ容赦なく叩きつけられた。


バチィィィンッ!!


密集していた隊列を、暴れ狂う電流が一気に駆け抜ける。


「ぐああああっ!?」


悲鳴が連鎖した。


焦げた金属の匂いが立ち込め、白煙がもうもうと上がる。槍も盾も意味をなさず、衛兵たちは次々と膝をついた。


リーア:「そりゃそりゃそりゃああっ!」


雷光の残滓を切り裂き、リーアが地を蹴った。


その姿は、一陣の風。


両手の短剣が閃くたび、火花が散り、赤い甲冑に亀裂が走る。


すれ違いざまに一人。


振り向きざまに、もう一人。


声を上げる暇すら与えない。


衛兵たちは糸の切れた人形のように、次々と地面へ崩れ落ちていった。


レックス:「はあっ!」


鋭い踏み込み。


迫る剣を紙一重で受け流し、突き出された槍を身体をひねってかわす。


流れるような足さばきで戦場を抜け、レックスは銀の剣を振るった。


キィンッ――!


衛兵の武器が宙を舞う。


体勢を崩したその懐へ、迷いのない一閃が叩き込まれた。


誰ひとり、その軌跡を捉えられない。


気づいた時には、もう遅い。


レックスの剣は次の敵へと向かっていた。


カミーア:「はあっ!」


振り抜いた刃から、青白い光が奔った。


ビシィッ――!


光の軌跡が宙を裂き、傷を負ったシャルクスへ迫っていた衛兵たちをまとめて薙ぎ払う。


甲冑ごと弾き飛ばされた男たちが、石畳の上を転がった。


カミーアは一歩も退かない。


背後には、膝をつくシャルクス。


そして、その傷を癒やすセドウィックがいる。


ならば――ここは通さない。


シャルクス:「ぐっ……!」


歯を食いしばり、シャルクスが身体を起こそうとした。


前に立つカミーアの背中が、視界に焼きついて離れない。


だが。


セドウィック:「まだ治癒が終わっていない。無理をするな」


淡い治癒の光を絶やさぬまま、セドウィックが制した。


シャルクス:「……もう、大丈夫だ」


それでもシャルクスは、ふらつきながら立ち上がる。


膝が笑う。


それでも、立つ。


ザンッ!


カミーアの一閃が、最後の衛兵を斬り伏せた。


赤い飛沫が舞い、戦場に一瞬の静けさが落ちる。


カミーアはすぐさま踵を返し、シャルクスのもとへ駆け寄った。


カミーア:「ここは場所が悪い。向こうへ行こう」


三人がその場を離れようとした――その時。


ワッツ:「そいつもロッドも、結局――黄金の因縁からは逃げられなかった」


背後から、低い声が落ちた。


三人は、はじかれたように振り向く。


ワッツ:「それはお前も俺も同じだ。……なあ、カミーア」


そこには、いつの間にかワッツが立っていた。


剣闘士の剣を背負い、いつものように不敵に笑っている。


だが、その目だけは笑っていなかった。


カミーア:「……ワッツ……」


ワッツ:「ついてきな」


ワッツは顎をしゃくる。


ワッツ:「終わらせようじゃないか――この、くそったれな因縁をよぉ」


吐き捨てるようにそれだけ言い残し、ワッツは背を向けた。


迷いのない足取りだった。


呼び止める余地もない。


拒む余地もない。


ただ、その背中だけが遠ざかっていく。


カミーア:「……」


カミーアは動けなかった。


追わなければならない。


そう分かっているのに、足が前へ出ない。


気づけば、拳は白くなるほど握りしめられていた。


シャルクス:「……なにやってるんだ」


背後から声がした。


カミーアは、はっとして振り返る。


カミーア:「シャル……」


シャルクスは、まだ顔色が悪い。


それでも、こちらをまっすぐ見ていた。


シャルクス:「いつだって、あいつの背中を追いかけてたんだろ?」


カミーア:「……」


シャルクス:「今行かないで、どうする」


その一言に、カミーアの視線が揺れた。


けれど、すぐに唇を噛む。


カミーア:「……だけど」


シャルクス:「行くんだ、カミーア」


シャルクスは一歩も引かなかった。


シャルクス:「俺なら大丈夫だ」


そして、ワッツが消えていった方へ目を向ける。


シャルクス:「あいつの背中を追いかけて――追い抜かしてやれ」


カミーアは顔を上げた。


その目に、もう迷いはなかった。


カミーア:「……うん。行ってくる」


強く頷く。


次の瞬間、カミーアは地を蹴った。


ワッツの背中を追って、一直線に駆け出していく。


その姿が遠ざかっていくのを見送りながら、セドウィックが静かに近づいてきた。


セドウィック:「……これで、よかったのかな」


シャルクスはしばらく黙っていた。


やがて、かすかに笑う。


シャルクス:「ああ……お前らが、勝たせてくれるんだろ」


弱々しい声だった。


それでも、その瞳には確かな信頼があった。


セドウィックは、ふっと微笑み返す。


シャルクス:「俺も行かなきゃ……うっ」


一歩、踏み出した瞬間。


ぐらり、と身体が傾いた。


膝が折れ、そのまま前のめりに崩れかける。


セドウィック:「だから、無理をするなと言っただろ」


すかさず背後から支え、シャルクスの身体を抱き留める。


治癒の光は、まだ完全に傷を塞ぎきっていなかった。


シャルクス:「奴は……俺が……」


震える声。


視線の先には、ガスパーが消えていった屋敷の玄関扉がある。


あの男だけは、自分の手で――。


その時だった。


クリス:《雷よ!》


鋭い詠唱が、空気を裂いた。


次の瞬間、シャルクスの視界の端で――


バチィィッ!!


忍び寄っていた衛兵に、蒼白い稲妻が直撃する。


黒煙を上げ、男は悲鳴もなく地に倒れ伏した。


焦げた匂いが漂う中、クリスがゆっくりと歩み寄ってくる。


その顔には、場違いなほど穏やかな笑みが浮かんでいた。


クリス:「一緒に行こう」


そう言って、クリスはシャルクスの肩に手を置いた。


その温もりが、背中を押す。


シャルクス:「……すまない、クリス」


二人は視線を交わした。


そして――同時に地を蹴る。


目指すは、ガスパーの屋敷。


すべての決着が待つ場所へ。

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