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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第3話 悪党の前では輝かない黄金

ガスパー:「悪党の前では輝かない黄金……だと?」


ガスパーの眉間に、深い皺が刻まれた。


セドウィック:「ああ。この鉱物はね、特定の魔力を当てることで“黄金”へと変わる」


セドウィックはレックスから鉱物を受け取ると、右の掌にそっと乗せた。


セドウィック:「見せてやるよ」


次の瞬間。


セドウィック:「――はあああっ!」


気合とともに、掌の上に眩い光球が生まれた。


純白の光が渦を巻き、鉱物を包み込む。


広間の空気が震えた。


肌を刺すような魔力が、石壁を、床を、そこに立つ者たちの身体を撫でていく。


ガスパー:「お、おおっ……!」


光の中で、くすんだ鉱石が変わっていく。


灰色だった表面が、薄皮を剥がされるように剥がれ落ち、その奥からまばゆい黄金色が溢れ出した。


やがて、光が弾けるように消える。


セドウィックの掌に残っていたのは――誰が見ても本物と疑わない、重厚な黄金の塊だった。


ガスパー:「……こんな鉱物、見たこともないぞ」


喉の奥から絞り出すような声だった。


視線は黄金に釘付けになっている。


セドウィックは、その目を気にも留めず、黄金の塊をひょいと放り上げた。


ずしり。


重みのある音を立てて、黄金が再び掌へ戻る。


セドウィック:「バルデンは、黄金の鉱脈を見つけたわけじゃない」


一拍置く。


セドウィック:「――この魔力で“作った”のさ」


ガスパー:「……なんじゃと?」


広間から、音が消えた。


誰もが言葉を失い、セドウィックの掌にある黄金を見つめる。


セドウィック:「この魔力はね。魔族が“欲に駆られた人間”を生み出すために、バルデンへ与えた力だ」


その言葉が、冷たい石床へ落ちた。


誰もすぐには口を開けなかった。


セドウィック:「バルデンはうまく立ち回って利用した……と言いたいところだけど」


セドウィックは肩をすくめ、苦笑する。


セドウィック:「利用された、と言うべきかもしれないね」


カミーア:「……じゃあ」


カミーアは黄金を見つめたまま、小さく呟いた。


カミーア:「この黄金は、最初から呪われていたってことか」


セドウィック:「ああ」


セドウィックは静かに頷く。


セドウィック:「だからこそ、バルデンは誰にもこの魔力を継がせなかった」


カミーア:「え……でも」


カミーアが顔を上げる。


カミーア:「今、セドウィックさんが黄金に変えたじゃないですか」


セドウィックの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


セドウィック:「あれは、バルデンの魔力じゃない」


そう言って、彼は足元を軽く叩いた。


セドウィック:「アーポット亭にかかっている魔力だよ」


シャルクス:「……アーポット亭に?」


シャルクスが眉を上げる。


その横で、クリスが一歩前に出た。


クリス:「アーポット亭には、回復や能力強化の魔法が常時かかっているんです」


穏やかな声だった。


クリス:「だから“冒険者の宿屋”なんですよ」


シャルクス:「……なるほど」


シャルクスは頷きながら、ちらりとクリスへ視線を送った。


その手首で、鉄の手錠がじゃらりと鳴る。


クリスも、手錠へ視線を落とし、小さく頷いた。


セドウィック:「その魔力で、この鉱物が“黄金に変わるよう”に作り変えたんだ。長い年月をかけて、ゆっくりとね」


あまりにもさらりとした口ぶりだった。


だが、その言葉の中身は、とても気軽に聞き流せるものではない。


レックス:「いや、絶対よく分からないだろ、それ」


すかさず、横からレックスの声が飛んだ。


レックス:「俺もさっぱりだ」


身も蓋もない一言に、張り詰めていた空気がわずかに揺れる。


だが、次の瞬間。


レックスの顔から、冗談めいた色が消えた。


レックス:「とにかくな」


レックスはまっすぐガスパーを見据える。


レックス:「この黄金は、もう“アーポット亭の黄金”なんだ」


一歩、前へ出る。


レックス:「呪われた黄金なんかじゃない」


その言葉に応えるように。


セドウィックの掌に宿っていた光球が、ふっと輝きを失った。


同時に、眩い黄金がみるみる色を失っていく。


黄金色は剥がれ落ち、黒ずんだ鉱物へ戻っていった。


鈍い音を立てて、石のような塊が掌に転がる。


セドウィック:「アーポットの魔力を扱える者にしか、この鉱物は黄金にならない」


セドウィックは指先をひらひらと振った。


セドウィック:「扱えるのは……指で数えられる程度さ」


――俺がいなければ、使い物になりませんから。


かつて聞いた捨て台詞が、ガスパーの脳裏に蘇る。


ガスパー:「……なるほど」


ぎり、と歯が鳴った。


ガスパー:「それは確かに、使い物にはならんな」


低く落ちた声には、憎悪が滲んでいた。


レックス:「その黄金は、もう悪党の前では輝かない」


レックスが、さらに一歩踏み出す。


レックス:「未来を目指す者を照らす光だ!」


その叫びと同時――


クリス:「《雷よ》!」


澄み切った詠唱が、広間を鋭く裂いた。


次の瞬間。


蒼白の雷光が一直線に駆ける。


その先にいたのは――すでに地を蹴っていたシャルクス。


ガスパーへ向かって疾走する、その腕だった。


ガシャンッ!!


雷が、寸分違わず手錠を撃ち抜く。


火花が爆ぜた。


砕けた鉄片が宙へ舞い、鎖が音を立てて弾け飛ぶ。


焼けつくような痺れが、シャルクスの腕を駆け抜けた。


だが、足は止まらない。


シャルクス:「……っ!」


自由になった右手を、振り上げる。


シャルクス:《闇の剣よ》


低く、力強い詠唱。


その瞬間、空間が歪んだ。


黒い霧がシャルクスの掌へ集まっていく。


渦を巻き、凝縮し、一本の形を成す。


生まれたのは――光を呑み込む、漆黒の刃。


柄を握った瞬間、どくん、と脈打つような感触が手の中に伝わった。


シャルクスは一気に間合いを詰める。


ガスパーの目が見開かれた。


シャルクス:「――そりゃあああっ!!」


裂帛の気合とともに、漆黒の剣を大きく振りかぶる。


そして。


一直線に――振り下ろした。

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