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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第2話 ガスパー、見参

片手で、今しがた投げつけたばかりの剣闘士の剣(グラディウス)を指している。


シャルクス:「ワッツ! ガスパーは――」


その隙を逃さず、シャルクスは全身をひねった。


手首を掴んでいた衛兵の腕を強引に振りほどき、一歩、前へ出る。


ワッツ:「来るよ」


短く、それだけ言って。


ワッツは静かに振り返った。


視線の先は、開け放たれた屋敷の玄関。


重たい影の奥から、ひとりの男がゆっくりと姿を現す。


でっぷりと肥えた体。


高価な衣服に包まれた腹が、歩くたびに揺れる。


だが、その目だけは違っていた。


脂ぎった顔に似合わぬほど、冷たく、淀んだ光を宿している。


シャルクス:「……ガスパー」


喉の奥から、その名が漏れた。


ガスパー・ラッズ。


かつてファーミスト領を治めていたラスパル家を潰し、その地位を奪い取った男。


ガスパーは、ちらりとシャルクスを見た。


ほんの一瞬だけ。


そして、鼻で笑う。


ガスパー:「なんだ……ラスパルの生き残りか」


退屈そうな声だった。


その一言で、シャルクスの内側に火がついた。


拳が震える。


嵌められた手錠の鎖が、かすかに鳴った。


陽光に白く照らされた屋敷の前で――


ついに、因縁の相手が姿を現した。


ガスパー:「……まさか、これがお前の言っていた“面白いもの”か?」


大きなあくびをし、目尻に涙をにじませながら、ガスパーはのっそりと玄関をくぐる。


歩みは遅い。


靴音もだらしなく、石畳を引きずるように響いた。


外へ出ることすら面倒だと言わんばかりの態度だった。


シャルクス:「……これが、だと?」


ガスパーを睨みつけるシャルクスの目が、さらに鋭くなる。


拳の震えが強くなった。


カチャリ、と鎖が鳴る。


しかし、当のガスパーはそれに気づいていないのか。


あるいは、気づいたうえで無視しているのか。


羽虫でも見るような目でシャルクスを一瞥すると、すぐに興味を失ったように視線を外した。


ワッツ:「そいつじゃねぇ」


低い声が落ちた。


ワッツが前へ出る。


幌馬車に突き刺さっていた巨大な剣闘士の剣(グラディウス)を、片手で軽々と引き抜いた。


木片が、ぱらぱらと石畳に落ちる。


そのままワッツは荷台へ足をかけ、中へ踏み込んだ。


しばらくして――


荷台の中で何かを探る音が止まる。


再び姿を現したワッツの手には、鈍く黒光りする鉱物が握られていた。


陽光を浴びても、黄金の輝きはどこにもない。


ただの鉄くず。


そう言われても、誰も疑わないような塊だった。


ガスパー:「なんだ、それは」


ガスパーの声が低くなる。


あからさまに不機嫌な声だった。


シャルクスも目を凝らす。


シャルクス:(……なんだ、あれは)


違う。


明らかに違う。


自分が積み込んだ黄金とは、色も、質感も、何もかもが違っていた。


ワッツはその塊を、片手で軽く持ち上げる。


ワッツ:「こいつらが持ってきた黄金さ」


意味ありげに笑い、わざとらしく言葉を区切った。


ガスパー:「なんだとっ!!」


ガスパーの顔が、一瞬で紅潮する。


シャルクス:「バカな……」


かすれた声が漏れた。


あり得ない。


積み込んだ時は、間違いなく黄金だった。


ロイドス:「ほら、やっぱりだ」


ロイドスだけが、嬉しそうに声を弾ませた。


ロイドス:「石っころを掴ませようとしたんですね」


勝ち誇った笑み。


だが――


シャルクス:「違う」


鋭い声が、それを断ち切った。


シャルクスの視線が、まっすぐロイドスを射抜く。


ロイドス:「うっ……」


ロイドスが思わず一歩退いた。


ガスパー:「ふん。くだらん物を見せおって」


ガスパーは鼻を鳴らし、興味をなくしたように背を向ける。


豪奢な衣を揺らし、そのまま屋敷へ戻ろうとした。


シャルクス:「待て……!」


シャルクスが一歩踏み出す。


ガスパーの背中を追おうとした、その瞬間――


ワッツ:「そうとも限らねぇぜ」


低く、余裕を含んだ声が響いた。


ワッツだった。


これまで静かに成り行きを見ていた男が、ようやく動く。


手の中の鉱物を、ひょいと放り上げた。


――カン。


乾いた音が鳴る。


ただの鉄くずにしては、妙に重く、硬い響きだった。


ガスパーの足が止まる。


ガスパー:「……どういう意味だ」


振り返った声には、苛立ちが混じっていた。


ワッツは口の端を吊り上げる。


ワッツ:「これが、バルデンの残した黄金ってわけだ」


ガスパー:「なんだと?」


ガスパーの眉が、ぴくりと動いた。


その時だった。


レックス:「その通りだ」


澄んだ声が、正門の方から響いた。


全員が一斉に振り返る。


陽光を背に、五つの影が屋敷へ向かって歩いてきていた。


レックス。


カミーア。


クリス。


リーア。


セドウィック。


五人は、まるで散歩でもしてきたかのような足取りで、堂々と屋敷の前へ進んでくる。


レックス:「そいつは、正真正銘、本物の黄金だよ」


静かに告げると、五人は幌馬車の前で足を止めた。


シャルクス:「遅かったな。アーポット」


シャルクスがぼやく。


レックス:「そこのでっかい門の前で手こずってね」


レックスは肩をすくめた。


ワッツ:「うそつけ」


ワッツは鼻で笑い、手の中の鉱物をレックスへ放る。


無造作な投げ方だった。


だが、レックスはそれを片手であっさり受け止める。


ガスパーが目を細めた。


ガスパー:「アーポットか……説明してもらおうじゃないか。そいつのどこが黄金なんじゃ」


苛立ちと疑念の混じった声だった。


レックス:「んー。そうだな」


レックスは、手の中の金属塊を軽く持ち上げる。


鈍い色。


輝きなど、どこにもない。


だが――


レックスは、不敵に笑った。


レックス:「こいつは特別でね」


その目が、ガスパーをまっすぐ射抜く。


レックス:「悪党の前では輝かない黄金なんだ」 

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