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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第6章 悪党に前では輝かない黄金

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第1話 仇敵の道のりは、まだ遠く

幌馬車が屋敷へ辿り着いた頃には、太陽はすでに高く昇っていた。


朝の柔らかな光はとうに消え、石造りの壮麗な建物は、白く眩しいほどに輝いている。


近くで見上げると、それはもはや屋敷というより――小さな城だった。


ワッツ:「止まれ」


短い一言だった。


シャルクスは黙って手綱を引く。


馬は鼻を鳴らしながら速度を落とし、やがて重厚な玄関扉の前で静かに止まった。


二人が御者台から飛び降りた、その瞬間――。


ガシャッ。


金属音が鳴った。


赤い甲冑に身を包んだ衛兵たちが、左右から素早く歩み寄る。


シャルクス:「なっ――」


言い終えるより早く、両手を取られた。


冷たい鉄が手首に嵌められる。


カチリ。


重い感触が、骨まで伝わった。


手錠だった。


シャルクス:「……おい」


睨みつける。


だが衛兵は無言のまま、まるで石像のように表情ひとつ動かさなかった。


ワッツは振り返りもせずに言う。


ワッツ:「そこで待ってろ」


それだけ告げると、衛兵へ小さく目配せし、そのまま堂々と玄関の中へ入っていった。


重厚な扉が閉まる音が、やけに大きく響く。


シャルクス:「…………」


取り残されたシャルクスは、両脇を衛兵に挟まれたまま立ち尽くした。


シャルクス:(ふざけやがって……)


胸の内で毒づく。


だが、顔には出さない。


小さく息を吸い、手の中へ意識を集中させる。


シャルクス:《闇の剣よ》


ごく小さな声で、呪文を紡いだ。


次の瞬間。


手のひらの内側に、わずかな闇が生まれる。


だが――。


パチン。


小さな音を立てて、闇は一瞬で霧散した。


シャルクス:「ちっ」


舌打ちが漏れる。


視線を落とすと、手首に嵌められた鉄輪が、陽光を受けて鈍く光っていた。


シャルクス:(魔法封じの手錠か……)


ただの拘束具ではない。


魔力の流れそのものを断ち切る代物だ。


シャルクス:(さて、どうしたものか)


考えを巡らせた、その時だった。


ギィ……。


重厚な玄関扉が、再び開いた。


衛兵たちが、わずかに姿勢を正す。


扉の向こうからゆっくりと姿を現したのは――ロイドスだった。


整えられた銀髪。


皺一つない服装。


そして、どこまでも作り物めいた優雅な微笑み。


ロイドス:「ごきげんよう、シャルクスさん」


軽やかに一礼し、そのまま真っ直ぐシャルクスの前へ歩み寄る。


シャルクス:「……馴れ馴れしいぞ、ロイドス」


露骨に顔をしかめるシャルクス。


ロイドスは、わざとらしく肩をすくめた。


ロイドス:「おやおや。わざわざガスパー様のために黄金を持参してくださったのですよ? それなりの歓迎は必要でしょう」


にこやかな口調。


だが、その目は少しも笑っていない。


シャルクス:「これのどこが“それなりの歓迎”だ」


シャルクスは両手を持ち上げ、手錠をわざとらしく鳴らした。


ガチャリ。


ロイドス:「まあ……ざまあありませんね」


楽しげに、くすくすと喉を鳴らす。


シャルクスのこめかみが、ぴくりと動いた。


ロイドス:「さて」


ロイドスは両手を揉み合わせる。


ロイドス:「では、黄金を拝見させていただきましょうか」


その視線が、幌馬車の荷台へ向いた。


シャルクス:「待て!」


鋭い声が飛ぶ。


ロイドス:「……なんです?」


振り返ったロイドスの目から、さきほどまでの軽薄さがわずかに削ぎ落ちていた。


シャルクス:「ガスパーが見に来るんじゃないのか」


低く問う。


ロイドスは小首を傾げた。


ロイドス:「何を焦っているのです?」


探るような声だった。


シャルクス:「……別に焦っちゃいねぇよ」


睨み返す。


強がりだと分かっていても、目だけは逸らさなかった。


ロイドスは小さく息をつき、くすりと笑う。


ロイドス:「確認ですよ。あなたがガスパー様に“偽物”を掴ませようとしている可能性もありますからね」


口元に、うっすらと意地の悪い笑みを浮かべる。


シャルクス:「偽物を用意する時間なんてねぇよ。それに……」


言いかけて、シャルクスは歯を噛みしめた。


シャルクス:「……アーポット亭にあった黄金は本物だ」


声が、はっきりと響く。


シャルクス:「メディルが見て知ってるはずだ。お前のお仲間のな」


その名を聞いた瞬間。


ロイドスの瞳が、すっと細くなった。


ロイドス:「……確かに、メディルさんは黄金を見ていましたね」


不快そうに顔をしかめる。


忌々しげに、毒を吐くような声だった。


ロイドス:「――ですが」


次の瞬間、ロイドスの唇がゆっくりと吊り上がる。


消えかけていた意地の悪い笑みが、再び濃く戻った。


ロイドス:「あなたがガスパー様にお会いする必要はありません。衛兵」


短い号令。


次の瞬間、シャルクスの両脇を固めていた二人の衛兵が、がっちりと彼の腕を掴んだ。


鉄のような握力だった。


シャルクス:「てめぇ……!」


シャルクスが歯を剥く。


だがロイドスは、涼しい顔のまま続けた。


ロイドス:「あなたのように、ガスパー様に恨みを抱く人間をお通しするわけにはいきません。――連れて行きなさい」


衛兵たちが、シャルクスを引きずろうとする。


シャルクス:「くそっ!」


身体をひねり、もがく。


だが両腕を完全に押さえ込まれ、びくともしない。


シャルクス:(離れろ……!)


その間にも――ロイドスは悠然と幌馬車へ歩み寄っていく。


ロイドス:「ガスパー様にお見せする前に……まずは私が確認させていただきますよ」


そう言って、荷台へ手を伸ばしかけた。


その時だった。


――ドォンッ!!


凄まじい衝撃音が弾けた。


巨大な剣闘士の剣(グラディウス)が、ロイドスの目の前を横切り、幌馬車の荷台へ突き刺さった。


木板が砕け、破片が宙を舞う。


刃は、ロイドスの鼻先をかすめていた。


ロイドス:「ひっ――!!」


情けない悲鳴を上げ、ロイドスはその場に尻もちをつく。


ワッツ:「余計なことをするなよ。ロイドス」


低く、落ち着いた声。


玄関の扉の向こうから、悠然と歩み出てきたのは――ワッツだった。

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