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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第5章 人生は楽しんだ者の勝ち

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第4話 ワッツのターン

カキン、カキン――!


鋭い金属音が、夜の林道に弾けた。


幌馬車の天幕の上。


激しく揺れる不安定な足場で、リーアと傭兵の剣が火花を散らしていた。


リーアは揺れに逆らわない。


むしろ、その揺れさえ踏み台にするように跳び、滑り、身を翻す。


まるで大地の上で舞っているかのように、軽やかに刃を交えていた。


リーア:「やるわね」


巧みに間合いを詰めてくる傭兵に、リーアは思わず笑みを浮かべた。


追い詰められているはずなのに、その顔にはどこか楽しげな色さえある。


短剣と長剣が噛み合う。


火花が散り、夜気を裂いた。


――そのとき。


ガタガタと暴れていた幌馬車の揺れが、ふっと落ち着いた。


リーア:(……シャルクスが立て直した?)


一瞬だけ、リーアの視線が揺れる。


だが、すぐに両手の短剣を逆手に構え直した。


天幕をしっかりと踏み締め、息を整える。


リーア:「――そりゃあっ!」


次の瞬間。


リーアの姿が、風になった。


正面から振り下ろされた傭兵の剣を紙一重でかわし、その懐へ滑り込む。


駆け抜けざま、閃光のように短剣が走った。


傭兵:「ぐはっ……!」


遅れて血飛沫が舞う。


傭兵は声にならない息を漏らし、その場に崩れ落ちた。


ワッツ:「ずいぶんと余裕があるじゃねぇか」


低く、含みのある声。


振り向くと、いつの間にかワッツが天幕の上に立っていた。


リーア:「手加減しないと、旦那がうるさいんだよ」


リーアは肩をすくめ、軽口で返す。


ワッツ:「そうかい。じゃあ――俺にもしてくれよ」


次の瞬間。


ワッツの剣が、唸りを上げた。


先ほどの傭兵とは、まるで次元が違う。


重く、速く、そして容赦がない。


リーア:「っ……!」


リーアはとっさに身を沈めた。


頭上すれすれを、凶暴な風圧がかすめていく。


リーア:「手加減はいらないみたいだけど」


挑発混じりに笑ってみせる。


だが、その額にはうっすらと汗がにじんでいた。


ワッツの猛攻は止まらない。


一撃。


さらに一撃。


続けざまに叩き込まれる斬撃を、リーアは柳のように身体をしならせてかわしていく。


ワッツ:「かもな。だけどよ――」


ワッツが剣闘士の剣を大きく横へ薙いだ。


リーアは反射的に身を捻り、大きく後ろへ跳ぶ。


その瞬間。


ワッツの口元が、にやりと歪んだ。


ワッツ:「油断は大敵だぜ。後ろを見な」


リーア:「えっ――」


振り返った、その刹那。


横合いの木から突き出た太い枝が、目前まで迫っていた。


リーア:「ぐっ!」


リーアは反射的に天幕へ伏せる。


頭上を、太い枝が唸りを上げて通り過ぎた。


ワッツ:「おりゃああっ!」


だが、ワッツはその枝を軽々と飛び越えていた。


起き上がろうとしたリーアの腹部へ、容赦なく蹴りが叩き込まれる。


リーア:「しまっ――!」


衝撃が身体を貫いた。


視界が反転する。


リーアの身体は宙へ放り出され――


そのまま、幌馬車の外へと落下していった。


クリス:《雷よ!》


次の瞬間。


ワッツの足元で、幌幕が内側から弾け飛んだ。


ビリィィィィッ!!


布を突き破り、青白い閃光が天へと立ち上る。


ワッツ:「危ねぇ」


落下したリーアを確認しようと縁へ向かっていたワッツは、反射的に後ろへ跳んだ。


電撃は彼の足元をかすめ、焦げた布と煙だけを残して消える。


ワッツ:「チッ……クソが」


舌打ちと同時に、ワッツは迷わず剣闘士の剣を天幕へ突き立てた。


そして、そのまま力任せに引き裂く。


ビリッ、と布が裂ける。


ワッツは開いた穴へ身を躍らせ、荷台へ飛び降りた。


ドンッ、と重い着地音が響く。


同時に、クリスが杖を振り下ろした。


クリス:「はああっ!」


ガキンッ!!


だが、その一撃はワッツの左手に握られた剣闘士の剣に、あっさりと受け止められた。


衝撃が荷台を震わせる。


ワッツ:「魔法使いにしちゃあ、やるようだがな」


余裕を含んだ声。


クリス:「なっ……!」


クリスの目が見開かれる。


次の瞬間。


ワッツの右手が無造作に伸び、杖を掴んだ。


そのまま力任せに押し込む。


クリス:「ぐっ……!」


クリスの身体が後方へ弾かれ、荷台の壁へ叩きつけられた。


圧倒的な腕力。


まるで大人が子どもを扱うような差だった。


ワッツ:「テメェじゃ俺には敵わねぇよ」


ワッツは鼻で笑うと、杖ごとクリスを軽々と持ち上げた。


クリス:「うわああああっ……!」


そのまま振り回し――荷台の乗降口へ放り投げる。


ゴンッ、と縁に身体がぶつかり、クリスは半ば外へ投げ出された。


クリス:「おっとっと……!」


必死に縁を足で挟み、そのまま踏ん張る。


下を見れば、闇に沈んだ林道がものすごい速さで流れていた。


ワッツ:「とっとと落ちろや」


ワッツが、ゆっくりと歩み寄る。


だが――


シャルクス:「――《闇の手よ。掴め!》」


御者台から、低く通る声が響いた。


シャルクスの詠唱。


ワッツの足元の影が、不自然に揺らぐ。


次の瞬間。


影の中から黒い手が伸び、ワッツの足首をがっしりと掴んだ。


ワッツ:「……シャルクス」


歩みが止まる。


ワッツは忌々しげに、その名を吐き捨てた。


御者台では、シャルクスが手綱を引いていた。


馬の速度が少しずつ落ち、幌馬車の揺れがわずかに緩んでいく。


クリス:「ダメだああっ!」


だが、踏ん張りが利かなかった。


クリスの身体は荷台から外れ、そのまま地面へと転がり落ちていく。


シャルクス:「クリス!」


シャルクスは叫ぶ。


だが御者台からでは、クリスがどうなったのか分からない。


そこへ、速度の落ちた幌馬車に追いついた傭兵が、横へ並んだ。


シャルクス:「くそっ……!」


並走する傭兵が剣を抜く。


その時だった。


シュッ。


背後から一本の矢が飛来し、傭兵の胸を貫いた。


傭兵:「ぐはっ……!」


剣を振り上げたまま、傭兵は馬上から崩れ落ちる。


シャルクス:「なんだ? 今の矢はどこから……」


思わず振り返りかける。


しかし、何が起きているのか判断している余裕はない。


それでも――幌馬車を止めるわけにはいかなかった。


シャルクスは歯を食いしばり、手綱を握り直した。


荷台から放り出されたクリスの身体は、林道へと落ちていく。


クリス:「うわああああっ――!」


地面が迫る。


だが、次の瞬間。


ドサッ――ゴロゴロッ!


クリスはとっさに身体を丸め、肩から滑るように転がった。


土煙を巻き上げながら数回転し、最後は膝をついて止まる。


クリス:「いったたた……」


顔をしかめながらも、骨は無事だった。


受け身は成功している。


ほっと息を吐いた、そのとき。


クリス:「……ん?」


耳に届いたのは、規則正しい蹄の音。


パッパカ、パッパカ、パッパカ――!


林道の奥。


一頭の馬が、一直線に駆けてくる。


月明かりを背に、その影が徐々に大きくなっていく。


そして――騎手の姿がはっきりと見えた瞬間。


クリス:「……!」


クリスの目が大きく見開かれた。


クリス:「レックスさん!」


馬上の男は、一瞬だけクリスへ視線を向けた。


その瞳は揺るがない。


状況をすべて見抜いている者の、冷静で鋭い光が宿っていた。


レックス:「――あとは任せろ」


短い言葉。


だが、そこには絶対の自信と、仲間へ向けた信頼が込められていた。


レックスはクリスの横を疾風のように駆け抜ける。


そして、闇の林道を走る幌馬車へ向かって、一直線に駆けていった。

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