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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第5章 人生は楽しんだ者の勝ち

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第3話 幌馬車上の攻防

鬱蒼と生い茂る木々が、頭上で幾重にも絡み合っていた。


昼だというのに、林道は薄暗い。


湿った土の匂いが鼻をつき、馬車の車輪がぬかるみを蹴るたびに、泥が激しく跳ね上がる。


その林道を――一台の幌馬車が、狂ったような速度で駆け抜けていた。


御者台に座るシャルクスは、手綱を握りしめたまま歯を食いしばる。


シャルクス:「くそっ……!」


車輪が軋む。


幌が揺れる。


荷台が悲鳴を上げる。


だが、速度は落とせない。


落とした瞬間、終わる。


リーア:「来るぞ。来るぞ。来るぞ」


幌の上に立つリーアが、森の奥を睨み据えたまま、低く告げた。


次の瞬間――。


脇の獣道から、土煙を巻き上げて騎影が飛び出した。


先頭を駆けるのは、ワッツ。


その後ろに続く傭兵たちが、馬蹄で林道を叩き割るような勢いで迫ってくる。


ワッツが片手を高く掲げた。


それを合図に、数名の傭兵が疾走したまま馬上で弓を引き絞る。


弦が鳴った。


矢が、一斉に放たれる。


リーア:「そりゃあっ!」


だが、リーアは伏せなかった。


揺れる幌の上で軽やかに身を翻し、迫る矢を短剣で次々と叩き落とす。


キィンッ!


甲高い金属音が弾けた。


砕けた矢が、湿った空気の中へ散っていく。


その背後。


荷台の中から、凛とした詠唱が響いた。


クリス:《雷撃よ――地を走れ》


バリバリバリバリィッ!!


青白い閃光が、地面を這った。


蛇のようにうねる電撃が林道を駆け抜け、追撃してくる傭兵たちの馬の足元へ噛みつく。


轟音。


悲鳴。


馬の嘶きが重なり、追撃の隊列が大きく乱れた。


クリス:「シャルクス! 速度そのまま! 抜けるまで持たせるよ!」


鋭い指示が飛ぶ。


シャルクス:「言われなくても……!」


シャルクスは奥歯を噛みしめ、手綱をさらに強く握った。


林道は、まだ終わらない。


乱れた隊列の奥。


土煙の向こうから、ワッツが再び馬を飛ばしてくる。


ワッツ:「やぁぁぁぁっ!」


崩れかけた陣形の中から、態勢を立て直した数名の傭兵がその後に続く。


その中から二騎。


馬腹を蹴り、ワッツを追い越して前へ躍り出た。


砂利が弾ける。


馬蹄が林道を叩く。


クリス:《雷よ!》


詠唱と同時に、二騎へ向けて青白い閃光が走った。


――が。


二騎は左右へ分かれた。


疾走したまま身を伏せ、雷撃の軌道を紙一重でかわす。


稲光が大地を焼き、土を爆ぜさせた。


だが、わずかに届かない。


クリス:「ちっ……!」


二騎はそのまま滑り込むように、幌馬車の両脇へ逃れた。


クリス:「そっちに行ったぞ、シャルクス!」


警告を飛ばすや否や、クリスは視界から消えた敵を追うのを切り捨てた。


代わりに、後方から迫るワッツたちへ向けて、再び魔力を練る。


クリス:《雷よ!》


バチィッ!


放たれた電撃が、一直線にワッツへ走る。


ワッツ:「喰らうかああっ!」


ワッツは馬上で剣闘士の剣を振り抜いた。


分厚い刃が雷を叩き割り、青白い火花が四方へ散る。


その後ろから、傭兵たちが弓を構えた。


狙いは、荷台のクリス。


ヒュンッ!


矢が飛ぶ。


クリス:「うわっ!」


クリスが慌てて奥へ下がった直後、足元に矢が突き刺さった。


木板が割れ、破片が跳ねる。


シャルクス:「抜かせるかよ!」


御者台で叫び、シャルクスは手綱を強く引いた。


幌馬車が大きく蛇行する。


左へ。


右へ。


巨体が林道いっぱいに揺れ、並走しようとする傭兵の進路を荒々しく塞いだ。


クリス:「うわわわっ!」


荷台の中で、クリスの身体が右へ左へ大きく振られる。


リーア:「ちょ、ちょっと……!」


幌の上でも、リーアの身体が跳ねた。


慌ててしゃがみ込み、幌布にしがみつく。


頬をふくらませて抗議するが、シャルクスの耳には届かない。


その一瞬。


ほんの瞬きほどの隙。


左側の傭兵が、馬をさらに加速させた。


強引に馬体をねじ込み、御者台の横へ躍り出る。


シャルクス:「っ……!」


傭兵は馬上で剣を抜いた。


そして次の瞬間、鞍を蹴り、御者台へ飛び移ってくる。


同時に――。


リーア:「つっ……!」


リーアの頭上で、幌布が沈んだ。


右側から、もう一つの影。


いつの間にか馬から飛び移っていた傭兵が、幌の上へ這い上がっていた。


迷いなく剣を抜き、その切っ先をリーアへ向ける。


リーア:「……っ」


不安定な足場。


揺れる幌。


踏み外せば、即座に林道へ転落する。


それでもリーアは短剣を構え、迫る傭兵と対峙した。


林道は、まだまだ続く。


シャルクスは傭兵と取っ組み合いながらも、幌馬車を走らせ続けていた。


御者台は狭い。


そのうえ、馬車は凹凸だらけの林道を猛スピードで突っ走っている。


少しでも足を滑らせれば、そのまま車輪の下だ。


飛び移ってきた傭兵も、まともに剣を振るえない。


だが、シャルクスも同じだった。


手綱を離せば馬車が暴走する。


敵を突き落としたくても、その隙がない。


互いに襟元を掴み合い、腕を絡め、体勢を崩し合う。


ぎりぎりの均衡。


そのまま、数秒。


いや、もっと長く感じる時間が過ぎた。


その時だった。


ガタンッ!


車輪が林道の凹みに引っかかり、幌馬車が大きく跳ね上がった。


シャルクス:「ぐっ!」


傭兵:「うおっ……!」


衝撃で傭兵の身体がぐらりと揺れる。


後ろへ、大きくのけぞった。


そこへ――。


クリス:《雷よ!》


荷台から、鋭い詠唱が響いた。


放たれた電撃が、一直線に傭兵を撃ち抜く。


傭兵:「ぐはっ!」


傭兵の身体が弾け飛んだ。


御者台から投げ出され、林道へ転げ落ちていく。


シャルクス:「ふう……」


荒い息を吐きながら、シャルクスは一瞬だけ後ろを振り返った。


荷台の奥で、クリスが小さく笑っている。


シャルクスは親指を立てた。


クリスも、それに応えるように軽く笑みを返す。


だが、安堵している暇はない。


シャルクスはすぐに前を向き、手綱を握り直した。


まだ、終わっていない。


森の道は、さらに奥へ続いている。

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