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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第5章 人生は楽しんだ者の勝ち

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第2話 運命に立ち向かう者たち

目の前に広がるのは、どこまでも続く平原。


そして、その向こうで風に揺れる深い森だった。


草原と森の境を縫うように、一台の幌馬車がゆっくりと進んでいく。


アーポット亭で黄金を手に入れたシャルクスは、その一部を荷台へ積み込み、一路――因縁の地、ファーミスト領を目指していた。


クリス:「もうすぐファーミスト領だよ」


御者をリーアと交代したクリスが、軽い足取りで荷台へ戻ってくる。


そして、座っていたシャルクスの隣へ腰を下ろした。


シャルクス:「本当に良かったのか。俺について来て。忙しかったんだろ」


申し訳なさそうに視線を向けるシャルクス。


それに対し、クリスはいつもの柔らかな笑みを浮かべた。


クリス:「大丈夫だよ。アーポット亭なら、ワードックさんとミアラさんだけでも回るだろうしね。いざとなったら、シドさんも手伝ってくれるさ」


その言い方に、シャルクスは少しだけ肩の力を抜いた。


クリス:「僕たちはね、君みたいに“運命に立ち向かう人”の支援もしてるんだよ。それがアーポット亭さ」


胸を張るクリスの横顔は、どこか誇らしげだった。


シャルクス:「運命に立ち向かう人、か……」


シャルクスは座ったまま、遠くの地平線を見つめる。


風に揺れる草の波。


その先にあるはずの、因縁の地。


シャルクス:「確かに……そうかもしれないな」


ぽつりとこぼれた声は、幌馬車の揺れに紛れて消えていく。


クリス:「なんか変わったね。シャルクス」


クリスは、地平線を見つめるシャルクスへ、そっと視線を向けた。


シャルクス:「……そうかぁ?」


どこか気の抜けた返事。


だが、その横顔にはわずかな警戒が滲んでいる。


クリス:「うん。昔はもっと取っ付きにくかったよ。近寄ると刺されそうな雰囲気だった」


シャルクス:「刺さねぇよ……」


ぼそりと返し、シャルクスは視線を逸らす。


その耳が、ほんの少し赤くなっていた。


クリスはそれを見逃さない。


クリス:「カミーアって子と会ったからかな」


シャルクス:「なっ!?」


一瞬で、シャルクスの顔が跳ね上がった。


目を見開き、あからさまに狼狽する。


シャルクス:「な、何言ってんだ! 関係ねぇよ!」


語尾がわずかに裏返った。


クリス:「何慌ててんだよ」


くすくすと笑いながら、クリスは肘で軽く小突く。


その顔は、完全に楽しんでいた。


シャルクス:「慌ててねぇ!」


完全に慌てていた。


そんな二人のやり取りを遮るように――


前方から、低い声が飛んできた。


リーア:「――待ち伏せされているわよ」


御者台で手綱を握ったまま、リーアが告げる。


その声音に、冗談の余地はなかった。


荷台の空気が、ぴたりと止まる。


クリスはすぐに腰を上げ、御者台へ向かった。


クリス:「また賊ですか。今日はやけに人気ですね、僕たち」


軽口まじりに言いながらも、目は笑っていない。


だが、リーアは首を横に振った。


リーア:「違うわ。格好は賊っぽいけど……動きが違う。たぶん、傭兵」


その一言で、周囲の音が一段遠のいた。


草を撫でる風の音。


車輪の軋む音。


馬の鼻息。


そのすべてが、妙にはっきり聞こえる。


クリス:「よく見えますね……どういう目をしてるんですか」


半ば本気で呟きながら、クリスは慌てて望遠鏡を取り出した。


リーアが示した方角へ向けて覗き込む。


だが――


見えるのは、ただ風に揺れる草原だけだった。


荷台でその会話を聞いていたシャルクスが、ゆっくりと顔を上げる。


その表情は、すでに険しかった。


シャルクス:「……ガスパーの子飼いだな」


低く、押し殺した声だった。


シャルクス:「野郎……俺と会う気はねぇってことか」


乾いた舌打ちが、幌馬車の中に落ちる。


リーアが横目で問う。


リーア:「どうするの?」


クリスはしばし黙った。


視線を草原から森の境へ走らせ、道と距離を測る。


そのとき――


シャルクス:「……ワッツ」


ぽつりと、その名がこぼれた。


クリス:「ワッツ? 誰です?」


クリスが振り返る。


シャルクスは奥歯を噛み締め、答えた。


シャルクス:「俺が盗賊団にいた頃の兄貴分だ。率いてるのは、たぶん奴だろうな」


拳が、わずかに震えている。


シャルクス:「奴は勝つためなら手段を選ばない。用心しろ」


その声には、軽く聞き流せない重みがあった。


クリスは一瞬だけ目を伏せる。


そして、すぐに顔を上げた。


クリス:「なら、あそこの分かれ道を曲がって森を行きましょう。平原は見通しが良すぎる」


指し示す先には、森へ続く細い道があった。


クリスの声に迷いはない。


クリス:「リーアさん、シャルクスと御者を交代してください。あなたは幌の上で見張りを。僕は荷台で守りを固めます」


淀みのない指示だった。


シャルクス:「了解」


リーア:「わかったわ」


二人は同時に頷く。


次の瞬間、三人は無駄のない動きで持ち場へ散った。


手綱が引かれる。


馬が進路を変えた。


幌馬車は草原を離れ、木々の影へと滑り込んでいく。


ワッツ:「あそこで気づかれたか。……ずいぶん遠くでバレたもんだな」


小高い丘の上。


草むらに身を伏せた男が、静かに呟いた。


ワッツは、遠見の魔法をかけた望遠鏡越しに、森へ滑り込んでいく幌馬車を見送っていた。


揺れる幌。


進路を変える馬。


その判断の速さは、ここからでもはっきり分かる。


ワッツ:「判断も悪くねぇ。……シャルクスめ」


口元が、わずかに吊り上がった。


ワッツ:「なかなか優秀なのを味方につけたな」


かつての弟分の顔を思い浮かべ、鼻で笑う。


やがて望遠鏡を外し、ゆっくりと振り返った。


そこには、盗賊まがいの粗野な装いをした一団が控えていた。


だが、その立ち姿は素人のそれではない。


無駄口を叩く者はいない。


ふざけている者もいない。


ただ、ワッツの次の言葉を待っている。


ワッツ:「さて――」


ワッツは立ち上がり、外套を翻した。


ワッツ:「テメェらはどうかな?」


挑発するような声だった。


何人かが不敵に笑い、何人かは無言で頷く。


ワッツは馬に跨る。


手綱を握り、森へ消えた幌馬車の方角を見据えた。


ワッツ:「いくぞ」


短い号令。


次の瞬間、馬蹄が丘を蹴った。

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