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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第5章 人生は楽しんだ者の勝ち

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第1話 回想:シャルクスとワッツとカミ―アと

警備兵A:「いたか?」


警備兵B:「いや……こっちには来てないみたいだ」


廊下の角で鉢合わせた二人の警備兵は、短く言葉を交わすと、それぞれ別の方向へ視線を走らせた。


宝石商の屋敷は、無駄に広い。


磨き上げられた床に、いくつもの足音が反響している。

あちこちで松明の火が揺れ、建物全体が張り詰めた緊張に包まれていた。


彼らが追っているのは、真夜中に忍び込んだ侵入者。


だが、その影は――いまだ捕らえられていない。


警備兵B:「……もう逃げちまったんじゃないのか?」


弱音混じりの声。


だが警備兵Aは、即座に首を横へ振った。


警備兵A:「手ぶらで逃げるとは思えん。あっちを当たるぞ」


警備兵B:「了解」


二人は再び駆け出し、薄暗い廊下の奥へと消えていった。


――その直後。


シャルクス:「《闇よ。姿を見せよ》」


囁くような呪文が、静かな廊下に落ちた。


次の刹那。


闇そのものが形を得るように、壁際の影がゆらりと揺らぐ。


そこから現れたのは――シャルクス、カミーア、ジャンの三人だった。


シャルクス:「……行ったか」


遠ざかる足音を確かめ、シャルクスは小さく息を吐いた。


ジャン:「す、すんません……シャルクスさん。助かりました」


息を切らしながら駆け寄ってきたジャンが、深々と頭を下げる。


シャルクス:「礼はここを抜けてからだ。行くぞ」


そう言って歩き出そうとした、その時だった。


カミーア:「待って」


背中に、カミーアの声がかかる。


シャルクスは足を止め、振り返った。


カミーア:「このまま手ぶらで帰ったら、ワッツに何を言われるかわからないよ」


不安げに眉を寄せるカミーア。


それを見て、シャルクスは軽く肩をすくめた。


シャルクス:「大丈夫だろ。あいつが俺たちに期待するわけねぇよ。せいぜい嫌味を二つ三つ浴びせられるくらいだ」


あまりにも投げやりな返答だった。


カミーアの眉間に、ぐっと皺が寄る。


カミーア:「その“嫌味”を聞かされるのが嫌なんだよ」


心底うんざりしたような声音。


シャルクスは一瞬だけ、意味ありげにカミーアを見た。


カミーア:「……なんだよ」


シャルクス:「別に。なんでもねぇ」


小さく言い捨てると、シャルクスは前を向いた。


シャルクス:「とにかく、警備兵に捕まるよりはマシだ。行くぞ」


カミーア:「あ、ちょっと……!」


ぶっきらぼうに告げて歩き出したシャルクスの背中を、カミーアとジャンは慌てて追う。


その途中。


ジャン:「なかなか振り向いてもらえませんねぇ、シャルクスさん」


ジャンがすり寄ってきて、にやつきながら小声で茶化した。


シャルクス:「やかましいわ」


ジャン:「いたっ」


シャルクスはカミーアの死角で、ジャンの脇腹を軽く小突いた。


そのやり取りを横目で見て、カミーアは思わずくすりと笑う。


――その時だった。


ピィーーーーッ!


甲高い笛の音が、屋敷中にけたたましく響き渡った。


カミーア:「見つかったか!?」


反射的に身構えたカミーアが、鋭い目で周囲を見回す。


だが、シャルクスはすぐに首を振った。


シャルクス:「いや」


耳を澄ませる。


廊下の向こう。

遠くで怒号が上がり、何かがぶつかり合うような音が響いていた。


シャルクス:「……向こうが騒がしい」


カミーア:「玄関の方だな」


ジャン:「まさか……」


三人は顔を見合わせた。


嫌な予感が、同時に胸をよぎる。


シャルクス:「行くぞ。だが、音を立てるな」


カミーアとジャンは、神妙な面持ちで頷いた。


ジャン:「……了解っす」


三人は気配を殺しながら、玄関ホールへと足を向けた。


*  *  *


ワッツ:「おおりゃあッ!」


玄関ホールに、野太い雄叫びが轟いた。


同時に、ワッツの剣闘士の剣が大きく振り抜かれる。


荒々しい斬撃が風を裂き、迫っていた警備兵たちは思わずのけぞった。


紙一重で刃をかわしながら、彼らは必死に距離を取る。


ワッツ:「ほぉ……なかなかやるじゃねぇか。――ん?」


ふと気づけば、屋敷中に散らばっていた警備兵たちが、ぞろぞろと玄関ホールへ集まり始めていた。


増えていく敵影。


それを前にして、ワッツはむしろ楽しげに口角を吊り上げる。


ワッツ:「ちったぁ楽しませてくれそうだな」


迫りくる兵たちを眺め、獣じみた笑みを浮かべる。


そこへ――。


カミーア:「ワッツ!」


奥の廊下から、カミーア、シャルクス、ジャンの三人が駆け込んできた。


ワッツ:「おお。オメェら、まだくたばってなかったようだな」


四人は自然と背中を合わせる形で陣形を組み、周囲を取り囲む警備兵たちに向き直った。


カミーア:「何しに来たのよ。あんたは行くなって、親父に言われてただろ」


ワッツ:「決まってんだろ」


ワッツは剣を肩に担ぎ、不敵に笑った。


ワッツ:「おめぇらの生ぬるいやり方じゃ、見てられねぇんだよ。だから、お手本ってやつを見せに来てやったんだぜ」


カミーア:「……ただ暴れたいだけでしょ」


呆れたように言うカミーア。


ワッツは否定もせず、にやりと笑った。


シャルクス:「ここの警備は手強いぞ。油断するな」


横からシャルクスが低く警告する。


ワッツ:「ああ。そのようだな」


ワッツは凶悪な笑みをさらに深くし、一歩前へ出た。


剣を担いだまま、周囲の警備兵たちをざっと見渡す。


ワッツ:「ここはズラかるぞ。ケツは持ってやる」


カミーア:「……いいのかい? お手本を見せてくれるんじゃなかったのかよ」


嫌味混じりに返すカミーア。


ワッツは振り返りもせず、鼻で笑った。


ワッツ:「そいつはまた今度だ。今は――逃げ道をこじ開ける方が先だろうが」


そして、低く咆哮する。


ワッツ:「――行け!」


それが合図だった。


警備兵たちが一斉に動き出す。


シャルクスが闇の刃で迫る剣を弾き、カミーアがその横をすり抜ける。


ジャンは低い姿勢で兵の足元をくぐり、隙を作った。


そしてワッツは、後方から迫る敵をまとめて薙ぎ払う。


ガキィンッ!


剣と剣がぶつかり合う甲高い音。


怒号。


足音。


割れた壺の破片が床を滑り、磨き上げられた玄関ホールに火花が散る。


その混乱の中、四人は迫りくる警備兵たちを次々といなしながら、出口へ向かって駆け抜けた。


玄関ホールは、怒号と剣戟の音で満ちていった。


*  *  *


四人はどうにか警備兵たちの包囲網を突破し、夜明け前の闇に紛れてアジト――プラント盗賊団の砦へと戻った。


石造りの広間で彼らを待っていたのは、盗賊団の頭領、ロッドだった。


ワッツ:「カシラァ。あそこに盗みに入るのはまだ早いって、言ったじゃないですか」


戻るなり、ワッツはずかずかと歩み寄り、ロッドに噛みついた。


ロッド:「お前が“いける”と言ったから、カミーアたちを行かせたんだがな」


椅子にもたれたまま、ロッドは面倒くさそうに返す。


ワッツ:「俺ならいける、って言ったんですよ。他のもんにやらせちまうなんて、話が違うでしょうが」


カミーア:「あんたが行ったら、盗みじゃなくて強盗になるでしょ。めちゃくちゃにして終わりよ」


横から呆れた声が飛ぶ。


ワッツはちらりとカミーアを見やり、鼻で笑った。


ワッツ:「ふん。手ぶらで帰ってきた奴に言われたかねぇな」


カミーア:「ぐっ……! あんたが勝手に撤退させたんじゃないか!」


痛いところを突かれ、カミーアは悔しそうに顔を歪める。


そのやり取りを少し離れた場所で眺めていたシャルクスが、無言のまま一歩前へ出た。


隣にいたジャンが、何かを察したように目を瞬かせる。


ワッツ:「……なんだ?」


怪訝そうに睨むワッツ。


シャルクスは答えず、懐から小さな袋を取り出した。


シャルクス:「手ぶらで帰ってきたのは、誰かな?」


しゃらり。


乾いた音が、広間に響いた。


袋の口が開かれる。


その瞬間――中からいくつもの宝石が、こぼれ落ちるように光を放った。


ワッツ:「なっ……!」


カミーア:「……いつの間に」


その場にいた全員が、目を見開く。


ジャンは思わず口をぽかんと開け、ロッドは低く笑った。


ロッド:「お前の負けだな、ワッツ」


ワッツ:「くっ……!」


悔しさを噛みしめ、ワッツは舌打ちする。


一方、シャルクスは宝石を袋に戻しながら、わずかに口元を緩めた。


勝ち誇るでもなく。


ただ、悪戯がうまくいった子どものように。


シャルクス:「だから言っただろ。礼は、ここを抜けてからだって」

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