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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第4章 それが君の宿命

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第10話 それが君の宿命

レックス:「その意気なら……大丈夫そうだね」


カミーア:「何がだ?」


小首を傾げるカミーアを前に、レックスはふっと笑みを消した。


さっきまでの軽い調子が、ほんの少しだけ影を潜める。


レックス:「君なら、宿命を果たせそうだってことさ」


カミーア:「また宿命……」


カミーアは眉を寄せた。


カミーア:「なんだって言うんだよ。その宿命ってのは」


苛立ちを隠さない問いだった。


レックスは一瞬だけ言葉を選ぶように黙り、それから静かに口を開いた。


レックス:「バルデンが遺した黄金には、“因縁”がかけられているんだ」


カミーア:「因縁……?」


レックス:「その黄金に関わった者は、みんな不幸に見舞われてきた。君のお父さんも――たぶん、その一人だ」


カミーア:「親父も……」


低く呟き、カミーアは唇を噛んだ。


テーブルの上で、拳がぎゅっと握り締められる。


ロッドの背中。


ワッツの顔。


盗賊団で過ごした日々。


いくつもの記憶が、胸の奥でざわりと揺れた。


けれど――。


カミーア:「あたいは――そんなものには負けない!」


力強い声が、酒場の喧騒を押しのけた。


周囲の笑い声も、杯の鳴る音も、その一瞬だけ遠のいたように感じられる。


その宣言を聞いて、レックスは柔らかく微笑んだ。


レックス:「その因縁を祓って、黄金を使い、君自身が幸せになる」


そこで一度、言葉を切る。


レックス:「それがバルデンの望みであり……君に課せられた宿命なんだ」


カミーア:「……それが、あたいの宿命」


ぽつりと呟き、カミーアはそっと目を閉じた。


それから、ゆっくりと天井を仰ぐ。


その瞬間、脳裏に浮かんだのは――シャルクスの顔だった。


カミーア:「シャル……」


かすれるような声が、静かに零れる。


カミーア:「あたいのために、動いてくれてたのか」


レックス:「シャル?」


レックスは少しだけ目を細め、からかうように口元を緩めた。


レックス:「君の、心強い仲間かな」


カミーア:「……そうだね」


照れを隠すように、カミーアは視線を逸らした。


けれど、その声はどこか柔らかかった。


カミーア:「シャルとなら、なんでもできる気がする」


その言葉に、レックスは満足そうに頷く。


――そこへ。


セドウィック:「その心強いお仲間というのは、ひょっとしてラスパルという名ではないか?」


横から、セドウィックが口を挟んだ。


カミーア:「えっ?」


カミーアは怪訝そうに振り向く。


カミーア:「よくわかりましたね」


セドウィックの表情は、いつになく真剣だった。


セドウィック:「ラスパルは、君が因縁に立ち向かえるように、バルデンが遣わした弟子の一人だよ」


カミーア:「……」


その言葉が、胸の奥へ静かに沈んでいく。


カミーア:(それじゃあ……運命だったんだ。シャルとは)


じんわりと、温かなものが広がった。


偶然だと思っていた出会い。


遠回りだと思っていた時間。


そのすべてが、今の自分へ繋がっていたのだとしたら――。


セドウィック:「運命は、確実に君へ収束している」


セドウィックは静かに続けた。


セドウィック:「今こそ因縁を晴らし、宿命を果たす時だ」


カミーアは息を呑んだ。


そして、神妙な面持ちで深く頷く。


――と。


レックス:「いやあ、実を言うとさ。正直、ホッとしてるんだよね」


しんみりとした空気をぶち壊すように、レックスが明るい声を上げた。


カミーア:「……?」


思わず、カミーアは目を瞬かせる。


レックス:「うちは冒険者の宿屋をやっててさ。君の黄金を預かってるような形になってたんだ」


軽く肩をすくめる。


レックス:「これでやっと、肩の荷が下りたよ」


カミーア:「は、はあ……」


レックス:「いつウチの金食い虫が見つけ出して、ネコババするんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだ。いやあ、持ち主が見つかってよかったよ」


カミーア:「よ、よかったですね……」


あまりにあっけらかんとした告白だった。


さっきまで胸に沈んでいた重さが、少しだけほどける。


カミーアの口元にも、思わず苦笑が浮かんだ。


レックス:「兄さんに会ってるなら、今頃シャル君はアーポット亭に来て、黄金を受け取ってるはずだ」


レックスはグラスを軽く揺らしながら言う。


レックス:「戻れば合流できると思うけど……どうする?」


その問いに、カミーアの表情が再び引き締まった。


彼女は静かに首を振る。


カミーア:「いや。ファーミスト領に行きます」


レックス:「ファーミスト領?」


カミーア:「シャルは、そこに行くはずです」


迷いのない声だった。


カミーア:「自分の因縁を晴らすために」


カミーアには、わかっていた。


シャルクスはきっと、立ち止まらない。


自分のために動いてくれたあの男は、今度は自分自身の過去へ向かって歩き出す。


ならば――。


カミーア:(今度は、一緒に行くよ。シャル)


胸の内で、そっと呟く。


もう迷いはなかった。


シャルクスが自分の運命へ進むのなら、自分もまた、その隣へ行く。


その決意を受け止め、レックスは力強く頷いた。


レックス:「わかった。行こう。ファーミスト領に」


一瞬だけ、彼の表情が引き締まる。


だが、それもすぐにいつもの柔らかな笑みに戻った。


レックス:「ま、それは明日にしてさ」


明るい声で、レックスは杯を掲げる。


レックス:「今日はもう――パァーッと飲もうよ!」


カミーア:「ふふ……そうですね」


ようやく、カミーアの顔に明るい笑みが戻った。


彼女はそっとグラスに手を伸ばす。


冷たい硝子の感触が、指先に触れた。


もう、俯いているだけの夜ではない。


カミーアはグラスを持ち上げ、レックスたちと共に、その夜を迎えた。



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