第9話 不愉快な真実
キャラバン隊が町へ辿り着いた頃には、夜の帳がすっかり降りていた。
道中ではバンブス盗賊団の襲撃を受けた。
だが、失ったのは積み荷の一部だけ。
幸い、人にも馬にも命に関わる怪我はなく、一行はどうにか無事に町へ滑り込むことができた。
宿に荷を放り込むと、レックスたちはその足でカミーアを連れ、町の酒場へ向かった。
――だが。
席についてからというもの、カミーアはずっと黙り込んだままだった。
目の前に置かれたグラスにも手をつけない。
肩をすぼめ、俯いたまま、じっとテーブルの木目を見つめている。
酒場には、客たちの笑い声やジョッキのぶつかる音が満ちていた。
だというのに、カミーアの周りだけが、ぽつんと切り離されたように静かだった。
まるで、彼女だけが別の場所に取り残されているかのように。
そんな様子を、レックスは困ったような、けれどどこか優しい目で見つめていた。
レックス:「まあ、そうだよねぇ。こんな状況で気楽にしろって言われても、無理だよねぇ」
気まずさを和らげるように笑い、柔らかく声をかける。
セドウィック:「ついさっきまで命の取り合いをしていた仲だしねぇ。そりゃ仕方ないよねぇ」
隣で腕を組みながら、セドウィックがどこか楽しげに相槌を打った。
レックスは横目でじろりと睨む。
レックス:「また他人事みたいな顔してぇ。高みの見物はずるいですよ、セドウィックさん」
セドウィック:「元々クリストファー絡みなんだろ。君が話を通さないでどうするんだよ」
レックス:「押し付けられる身にもなってくださいよぉ……」
情けない声でぼやいた、そのときだった。
カミーアが、ふいに顔を上げる。
カミーア:「……あんた、クリストファー・アーポットじゃないのか」
レックスは一瞬きょとんとした。
それから、すぐに口角を上げる。
レックス:「やっぱりね。俺を兄さんと間違えてたか」
カミーア:「兄さん……?」
レックス:「俺はレックス・アーポット。クリストファー・アーポットの弟だよ」
そう言って、レックスは片手を差し出した。
カミーアは、まだ警戒を解ききってはいない。
差し出された手と、レックスの顔を交互に見る。
少しだけ迷って――
おずおずと、その手を握り返した。
カミーア:「……なんだ」
ぽつりと、小さな声がこぼれる。
カミーア:「あいつじゃなかったんだ」
安堵なのか。
戸惑いなのか。
その声は、酒場のざわめきの中へ静かに溶けていった。
レックスは握られた手を軽く包み、そのまま声の調子を落とした。
レックス:「君さ。兄さんと会ったとき、何か引っかかることを言われたんだろ?」
カミーア:「……なんで、そのことを」
穏やかな問いかけに、カミーアの肩がぴくりと揺れる。
レックス:「君の仲間から聞いたんだ。ずっと気にしてたってね」
カミーアは視線を逸らした。
しばらく、何も言わない。
言うべきか。黙っているべきか。
迷うように、唇をきゅっと噛む。
カミーア:「……あたいの宿命が、どうのこうのって……」
ぽつりと呟いた。
カミーア:「なんの話か、あんたにわかるかい」
恐る恐る投げかけられた問いに、レックスは静かに微笑んだ。
レックス:「君は、バルデンが残した黄金のことで兄さんと会ったんだよね」
カミーアは、小さく頷く。
レックス:「その黄金――君のものだよ」
カミーア:「……は?」
あまりにも唐突だった。
言葉の意味を理解する前に、思考が止まる。
カミーア:「ど、どういう事だよ……」
レックスは、落ち着いた口調のまま続けた。
レックス:「バルデンは、自分の愛人の子供に黄金を残したんだ」
一拍。
レックス:「つまり――君は、その愛人の“孫”ってことになる」
カミーアは、ただ呆然とレックスの顔を見つめ返すしかなかった。
カミーア:「……そんな……」
かすれた声が漏れる。
カミーア:「なんで、あたいがそうだって言えるんだい?」
その問いを受け、レックスは一瞬だけ困ったように眉を寄せた。
レックス:「君は、盗賊のロッド・プラントの娘だよね」
カミーアは黙ったまま、ゆっくりと頷く。
レックス:「だからだよ」
カミーア:「……よく、わからないけど?」
声が、わずかに震えていた。
レックスは静かに言葉を続ける。
レックス:「ロッドさんは、君の実の父親じゃない」
カミーアの表情が、わずかに曇った。
レックス:「バルデンがつけたんだ。愛人の息子――つまり、君の父親の護衛としてね」
カミーア:「……親父が……」
カミーアはぽつりと呟く。
カミーア:「あたいの実の親父じゃない……」
レックス:「気持ちはわかるよ。でもさ――」
慌てて言葉を継ごうとした、そのときだった。
カミーア:「……当たり前だ」
低い声が、レックスの言葉を遮った。
カミーアは顔を上げる。
その瞳には、はっきりとした光が宿っていた。
カミーア:「血の繋がりなんて関係ない」
きっぱりと言い切る。
カミーア:「親父は親父。あたいはロッド・プラントの娘だ」
レックスを射抜くような目で見据える。
カミーア:「それ以外、何がある」
その迫力に、レックスは一瞬、言葉を失った。
やがて――苦笑する。
レックス:「……余計なお世話だったね」
軽く肩をすくめた。
レックス:「すまなかった」
参った、とでも言うように、にこやかに頭を下げる。
カミーア:「わかりゃいいんだよ」
素直に謝られたことで、少しだけ気が抜けたのか。
カミーアは視線を外し、ふっと息を吐いた。




