表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第4章 それが君の宿命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/47

第7話 動き出す因縁

カミーア:(……なんだろう)


胸の奥で、何かがざわめいていた。


痛みでもない。恐怖でもない。


けれど、妙に懐かしい感覚だった。


カミーア:(まるで……親父に稽古をつけられてるみたいだ)


脳裏に浮かぶのは、父――ロッドの姿。


「剣は言い訳を許さねぇ」


低く、厳しい声。


「折れるか、折られるかだ」


その言葉が蘇った瞬間。


カミーアの背筋に、熱が走った。


レックス:「これで終わりかなぁ?」


軽い調子の声が耳に届く。


挑発するように笑うレックスの顔が――


一瞬だけ、父の笑みと重なった。


その瞬間。


胸の奥で、何かが弾けた。


カミーア:「――ッ!」


世界が、白く染まる。


音が遠のく。


痛みも、疲れも、足の痺れも、膝の軋みも。


全部、どうでもよくなった。


視界に映るのは――ただ一人。


目の前に立つ、越えなければならない相手だけ。


カミーア:(いくぞ、親父)


次の瞬間。


カミーアは地を蹴った。


地面を裂くような踏み込み。


砂煙が爆ぜ、彼女の身体が一直線にレックスへ迫る。


ワッツ:「ンなわけねぇだろがー!」


同時に、ワッツも剣を構えた。


正眼。


迷いのない構え。


その気配に応じるように、レックスも静かに魔剣を構える。


レックス:「お先にどうぞ」


余裕の笑み。


二人が踏み出そうとした――その刹那。


カミーア:「でやあああああッ!!」


咆哮が、戦場を裂いた。


レックス:「な――っ!?」


爆ぜるような勢いで、カミーアが突っ込んでくる。


振り抜かれた剣閃は、まるで閃光。


レックスは咄嗟に身をひねり、辛うじてその一撃をかわした。


だが――


終わらない。


ガキン!


ガガン!


キィン!


次の瞬間には、嵐のような連撃が襲いかかっていた。


重く、速く、荒々しい。


けれど、ただの力任せではない。


剣筋の奥に、確かな意志がある。


ワッツ:「……っ!」


その迫力に、思わずワッツの足が止まった。


カミーアはレックスの魔剣を押さえ込み、刃と刃の隙間から鋭い視線を突き刺す。


カミーア:「――あたいの“宿命”って、なんだ」


レックス:「は?」


唐突な問いに、レックスの表情がわずかに崩れた。


カミーア:「ふざけんなよ……!」


怒号とともに、剣が振り下ろされる。


ガキィン!


火花が散り、砂煙が舞った。


レックス:「ちょ、ちょっと! なに言ってんだ、君は!」


受け止めながら、レックスが一歩、二歩と後退する。


カミーアの剣は止まらない。


怒りに任せているようでいて、踏み込みは鋭く、狙いは的確だった。


ワッツ:「カミーア……」


片眉を上げ、ワッツはその様子を見守る。


カミーア:「あんたが言ったんだろ――“親父ィ”!!」


叫びが、戦場に響き渡った。


レックス:「親父……?」


レックスの顔に、困惑が浮かぶ。


カミーアは剣を下段に構え直した。


じり、と間合いを詰める。


荒い息。


燃える瞳。


そこにあるのは、敵意だけではなかった。


怒り。


迷い。


そして、ずっと胸の奥で燻っていた問い。


それらすべてを叩きつけるように、カミーアはレックスを睨み据える。


レックス:「……錯乱してるのか……!」


焦りを滲ませながら、レックスはさらに一歩、後ろへ下がった。



――その時だった。


セドウィック:《眠りの精よ、行け》


静かな詠唱が、戦場に落ちた。


次の瞬間。


淡い光の粒が、ふわりと宙に舞い上がる。


それは風に乗り、雪のように静かにカミーアの体へ降り注いだ。


カミーア:「……ふ、ぅ……」


小さく息が漏れる。


張り詰めていた力が、すっと抜けた。


膝が崩れる。


カミーアの身体が、地面へ倒れ込もうとした――その瞬間。


レックス:「っと!」


レックスが素早く踏み込み、その身体を腕の中で受け止めた。


眠りに落ちたカミーアは、もう動かない。


荒く乱れていた呼吸だけが、かすかに残っている。


その一瞬を、ワッツは見逃さなかった。


ワッツ:「……!」


剣を構え直し、地面を蹴る。


だが――。


ゴォォォォッ!!


突風が、戦場を横殴りに吹き抜けた。


砂塵が舞い上がり、ワッツの視界を奪う。


踏み込んだ足が、わずかに止まった。


その風の中から――


一人の男が姿を現す。


長い外套をはためかせ、静かに歩み出るその姿は、まるで風そのものが人の形を取ったかのようだった。


セドウィック。


レックス:「セドウィックさん……!」


カミーアを抱えたまま、レックスが声を上げる。


その背後。


ワッツのもとへ、もう一つの影が近づいていた。


ブルトス:「ワッツ」


低い声。


振り返らずとも分かる。


ブルトスだった。


ブルトス:「撤収だ。これ以上は、やべぇ」


ワッツ:「……っ」


ワッツの拳が震えた。


奥歯を噛みしめ、剣の柄を握る手に力がこもる。


悔しさは、隠しようもなかった。


だが――。


やがて、ワッツはゆっくりと剣先を下ろした。


セドウィック:「彼女は預からせてもらうよ」


静かな声だった。


それから、穏やかな顔のまま続ける。


セドウィック:「返すつもりはないけどね」


その一言に、ワッツの目が鋭く光った。


ワッツ:「そいつの宿命ってぇのは……“黄金”のことか」


セドウィック:「そうだよ」


短い答え。


ただ、それだけ。


一瞬の沈黙が落ちる。


冷たい風が、二人の間を通り抜けた。


ワッツはじっとセドウィックを睨みつける。


セドウィックもまた、静かにその視線を受け止めていた。


やがて――。


ワッツ:「……そうか」


ぽつりと呟く。


それ以上、何も言わなかった。


ワッツは踵を返す。


ワッツ:「撤収だ! けぇるぞぉ!」


怒鳴り声が、街道に響き渡った。


その声を合図に、盗賊たちが一斉に退いていく。


ブルトスも短く息を吐き、ワッツの後に続いた。


やがて、砂煙の向こうに、彼らの背中は消えていった。


残されたのは、夕暮れの風と、静まり返った街道だけ。


レックス:「……どういうことです?」


カミーアを抱えたまま、レックスがセドウィックへ詰め寄る。


セドウィックは、遠ざかっていくワッツたちの背中を見送りながら、静かに口を開いた。


セドウィック:「君のところの“黄金”の件さ」


レックス:「黄金……」


セドウィック:「どうやら――因縁が動き出したようだね」


その言葉に、レックスの眉がぴくりと動く。


すぐに思い当たる顔があった。


レックス:「兄さんだな……また余計なことを」


呆れたように呟く。


セドウィックは、くすりと笑った。


セドウィック:「あのクリストファーらしいじゃないか」


レックス:「押し付けられる方の身にもなってくださいよ」


苦笑しながら、レックスは肩をすくめる。


腕の中のカミーアが、かすかに身じろぎした。


レックスは反射的に抱え直し、その顔を見下ろす。


眠る彼女の表情は、さっきまでの激しさが嘘のように静かだった。


セドウィック:「いいじゃないか」


柔らかな声だった。


セドウィックはカミーアへ視線を落とす。


セドウィック:「――さ、彼女を街まで連れて行こう」


レックス:「……はい」


短く頷く。


二人は背を向け、街道を歩き出した。


夕暮れの風が、ゆっくりと砂を撫でていく。


その背後で――。


誰もいなくなった戦場に、ただ風だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ