第6話 三つ巴の闘い
空から舞い降りたカミーアは、その勢いを殺さぬまま剣を振りかざし――。
レックスめがけて、一気に振り下ろした。
レックス:「っと――」
だが、レックスは退かない。
ほんのわずかに身体をひねる。
刃は鼻先をかすめるように空を裂き、そのまま地面へ叩きつけられた。
土煙が跳ねる。
ワッツ:「何やってやがる、カミーア!」
怒声が飛んだ。
再び剣を振り上げようとしていたカミーアの肩が、ぴくりと震える。
その動きが、止まった。
ワッツ:「オメェはエルフを抑えろって言っただろうが!」
苛立ちを隠そうともせず、ワッツが詰め寄る。
だがカミーアは、レックスから視線を外さなかった。
カミーア:「……こいつは、アーポットだよ」
鋭い眼差し。
まっすぐに、レックスを睨み据えている。
ワッツ:「アーポットだと?」
怪訝そうに眉をひそめ、ワッツはレックスへ視線を向けた。
レックス:「……確かにアーポットだけど……」
レックスは少し間の抜けた顔で、自分の顔を指差した。
カミーア:「こいつは、お前だけじゃ無理だ。あたいもやる」
言い終わるより早く、カミーアは地面を蹴った。
長剣が、再びレックスへ襲いかかる。
レックス:「おっと」
レックスは戸惑いを浮かべながらも、軽やかにその斬撃をかわした。
ワッツ:「余計なことするんじゃねぇ!」
怒鳴り声と同時に、ワッツが剣闘士の剣を振り上げる。
ガシンッ!!
カミーアの剣を、力任せに受け止めた。
ワッツ/カミーア:「ぐっ……!」
火花が散る。
刃と刃が噛み合い、重い金属音が響いた。
互いの顔が、ぶつかりそうなほど近づく。
睨み合う二人。
ワッツも、カミーアも、一歩も引かない。
激しい鍔迫り合いが始まった。
レックス:(さて……どうすっかな)
その光景を横目に、レックスは周囲へ視線を巡らせる。
レックス:(早いとこ片付けて、隊長たちの助けに入りたいんだけどなあ……)
完全に蚊帳の外だった。
とはいえ、一歩でも動けば、あの二人が同時に剣を向けてくるのは目に見えている。
しかも、まとめて相手にするとなれば――。
レックス:(……骨が折れるどころじゃ済まなそうだね)
その時。
荷馬車の近くに立つセドウィックの姿が、視界の端に入った。
レックス:(お、セドウィックさん)
レックスがちらりと視線を送る。
するとセドウィックは、親指を立てた拳を掲げ、にっこりと笑った。
次の瞬間。
くるりと背を向け、荷馬車の方へ駆け出していく。
レックス:(頼りにしてますよ、セドウィックさん)
レックスは小さく微笑んだ。
そして――。
ワッツとカミーアの鍔迫り合いへ、割って入るように魔剣を振るう。
ワッツ/カミーア:「!」
二人は咄嗟に鍔迫り合いを解いた。
そのまま同時に、レックスへ剣を振るう。
ガシンッ!!
三本の刃が激突した。
硬質な衝撃音が、空気を震わせる。
レックス:「まとめてお相手しますよ、お二人さん」
魔剣を構え直し、レックスは不敵に笑った。
その目が、すっと鋭くなる。
レックス:「――さあ、始めようか」
ワッツ:「なめんな!」
ワッツが吼えた。
剣闘士の剣が、唸りを上げて振り下ろされる。
一拍遅れて、カミーアの長剣も閃いた。
レックスはその二つの刃を前に、軽く息を吐く。
そして――。
三つの刃が、戦場のただ中で激しく交錯した。
レックスを中心に、凄まじい剣戟が巻き起こった。
ワッツの重い斬撃。
カミーアの鋭い踏み込み。
その二つを前にしても、レックスの動きは乱れない。
カミーア:「でやぁっ!」
気合いとともに、カミーアが渾身の突きを放つ。
一直線に伸びる、鋭い一撃。
だが――。
レックスは、まるで舞でも踊るように身体をひねった。
刃は紙一重で空を裂く。
カミーア:「っ……!」
突き切った勢いで、ほんのわずかに体勢が流れる。
その隙を、レックスは見逃さなかった。
青白い魔剣が、頭上から振り下ろされる。
ガキンッ!!
カミーアは咄嗟に剣を跳ね上げた。
間一髪。
振り下ろされた刃を、どうにか受け止める。
カミーア:「ぐっ……!」
重い。
ただ速いだけではない。
上から押し潰すような一撃が、腕にずしりとのしかかってくる。
カミーアは歯を食いしばり、剣の柄を握りしめた。
だが、その瞬間。
レックス:「!」
レックスの表情に、ほんの一瞬だけ焦りが走った。
次の刹那――。
レックスは、躊躇なくカミーアの頭を鷲掴みにした。
レックス:「しゃがめ」
カミーア:「えっ?」
返事を待つ気など、最初からない。
レックスが身を沈めると同時に、押さえつけられたカミーアの膝も強引に折られる。
その直後。
ブオォォンッ!!
二人の頭上を、銀色の閃光が唸りを上げて通り抜けた。
ワッツの剣闘士の剣だった。
ワッツ:「おりゃあああっ!!」
雄叫びを上げ、ワッツが剣を振り回しながら突っ込んでくる。
味方を巻き込むことなど、気にしていない。
ただ目の前の敵を叩き斬る。
そんな乱暴な一撃だった。
レックス:「まったく……!」
レックスはカミーアを横へ突き飛ばすと、自身は後ろへ跳んだ。
そのまま距離を取りながら、ワッツの猛攻を迎え撃つ。
地面を転がったカミーアも、すぐさま立ち上がろうとした。
だが――。
カミーア:「痛っ……!」
膝に鋭い痺れが走る。
さっきレックスにしゃがまされた瞬間、膝同士をぶつけられていたのだ。
カミーアは片膝をついたまま、悔しげに歯を食いしばった。
その背後では、すでに刃と刃が激しくぶつかり合っている。
ワッツ:「潰れろやぁっ!」
ワッツの剣が、嵐のように振り下ろされる。
一撃ごとに地面が震え、空気が唸った。
レックスはそれを受け流し、かわし、弾き返す。
そして――。
レックス:「そりゃあ」
ほんの一瞬。
ワッツの剣筋が大きく開いた。
その隙へ、レックスは魔剣を勢いよく振り上げる。
ガキィンッ!!
甲高い音とともに、ワッツの剣闘士の剣が弾き上げられた。
ワッツ:「なっ――!」
巨剣に引っ張られるように、ワッツの体勢が崩れる。
そこへ、間髪入れずレックスの斬撃が走った。
ワッツ:「ぐがっ!」
ワッツは咄嗟に身体をひねった。
斬撃をまともに受ける寸前、無理やり地面を転がって距離を取る。
土煙を巻き上げながら立ち上がったワッツは、荒い息を吐きながらレックスを睨みつ
けた。
ワッツ:「……バケモンが」
対するレックスは、涼しい顔のままだった。
魔剣を肩に担ぎ、不敵に笑った。




