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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第4章 それが君の宿命

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第3話 頼れる剣士とエルフの精霊使い

真昼を少し過ぎたロメオドス街道。


頭上にあった太陽は、ゆっくりと傾き始めていた。


乾いた土の匂いが漂う道を、十台の荷馬車が列をなして進んでいく。


ぎし、ぎし、と車輪が軋む。


ゆっくりと。


だが確実に。


長く伸びたその隊列は、遠目には荒野を這う巨大な蛇のようにも見えた。


荷馬車には、それぞれ二、三人の商人が付き添い、馬が歩を進めている。


さらにその周囲を固めるのは、十五人ほどの屈強な護衛たち。


なかなかの大所帯だった。


その先頭付近で――。


商人:「隊長」


馬に跨った商人の一人が、護衛隊の隊長へ声をかけた。


呼ばれた隊長は手綱を緩め、振り返る。


商人:「予定より、だいぶ遅れているようだが? この調子では、日が暮れる前に着

けるかどうかも怪しいぞ」


露骨に不満げな顔だった。


眉間に皺を寄せ、苛立ちを隠すつもりもない。


隊長:「……お気持ちは分かります。ですが」


隊長は困ったように表情を曇らせる。


隊長:「この辺りは、いつ賊が出てもおかしくない危険地帯です。急ぎすぎれば、それこそ命取りになります。どうか、ご理解を」


丁寧な説明だった。


しかし、商人の顔は晴れない。


商人:「だがな、これ以上遅れれば商売に響く。客にも迷惑がかかるんだ。どうにか

ならんのか?」


隊長は小さく息を吐いた。


ほんの少しだけ考え込む。


隊長:「……分かりました。少しだけ速度を――」


言いかけて、顔を上げた。


その瞬間。


商人の表情が、凍りついていた。


隊長:「……?」


商人は空を見上げたまま、目を見開いている。


口をぱくぱくと動かしているが、声になっていない。


つられるように、隊長も視線を上げた。


隊長:「なっ……!」


空が、赤かった。


視界を埋め尽くすほどの火矢。


無数の赤い軌跡が、雨のように降り注いでくる。


隊長:「敵襲だああああっ!! 止まれぇぇぇぇ!!」


怒号が街道を震わせた。


ヒヒィィン!!


馬たちが一斉に嘶き、前脚を跳ね上げる。


荷馬車が軋み、隊列が大きく乱れた。


蹄の音が、乾いた道にばらばらと打ちつけられる。


その混乱の中――。


キャラバン後方から、澄んだ声が飛んだ。


セドウィック:「火の精霊よ、頼む!」


馬上で身を起こした、一人のエルフ。


セドウィックが片手を掲げた瞬間、空気がびりっと震えた。


彼の魔力に呼応するように、空を覆っていた火矢の群れが揺らぐ。


そして――。


ボシュッ!!


乾いた音を立てて、火矢が次々と燃え尽きた。


赤い光は煙のようにほどけ、空へ溶ける。


一瞬で、何も残らない。


街道に静寂が落ちた。


だが、その静けさは長く続かなかった。


ワッツ:「いくぞぉぉぉ!!」


盗賊団員:「おおおおおおおお!!」


丘の向こうから、咆哮が轟いた。


次の瞬間。


砂煙を巻き上げ、武器を掲げた男たちが一斉に姿を現す。


四十。


いや、五十近い。


血に飢えた盗賊たちが、獣の群れのように街道へなだれ込んできた。


隊長:「……来たか」


隊長は低く呟き、周囲を見渡した。


護衛たちはすでに剣を抜き、槍を構えている。


馬も、どうにか落ち着きを取り戻していた。


だが――。


荷馬車の陰では、商人たちが青ざめた顔で震えている。


隊長:(……まあ、無理もないか)


その時だった。


レックス:「隊長!」


若い剣士が馬から飛び降り、剣を携えて駆け寄ってくる。


隊長:「おお、レックスか」


その顔に、わずかな安堵が浮かんだ。


レックス:「俺とセドウィックさんで、主力を抑えます。隊長は商人と荷馬車の守りを!」


隊長は迷わず頷いた。


隊長:「頼んだぞ。奴らの勢いを止めてくれ」


レックスは剣を軽く肩に担いだ。


そして、にやりと笑う。


レックス:「任せてください」


ひゅう、と乾いた風が吹き抜ける。


レックスは迫り来る盗賊たちを見据えたまま、ぽつりと言った。


レックス:「俺、宿屋の親父なんでね――」


その声は軽い。


けれど、不思議とよく通った。


レックス:「人を止めるのは、得意なんです」


その瞬間。


戦場の空気が、わずかに冷えた気がした。


砂煙を巻き上げながら、バンブス盗賊団がキャラバン隊へ突進してくる。


まるで獲物を見つけた猛獣の群れだった。


その進路の先――。


逆方向から、二つの影が疾風のように駆けてくる。


一人は、鋭い眼光を宿した若き剣士。


もう一人は、風の精霊をまとったエルフの魔術師。


ワッツ:(来やがったな……やっぱり、あの二人か)


ワッツは馬上で目を細め、その姿を見据えた。


最近、盗賊団の仕事をことごとく邪魔している凄腕の冒険者。


間違いない。


――あいつらだ。


ワッツ:「分かってんだろうなぁ、カミーア!」


並走する馬の上から、ワッツが怒鳴った。


カミーア:「……分かってる」


カミーアはちらりとワッツを一瞥し、淡々と答える。


その声に迷いはない。


ワッツ:「散れぇっ!!」


怒号と同時に、ワッツは手綱を強く引いた。


馬の進路が、大きく右へ切れる。


カミーア:「はっ!」


カミーアも無駄のない手綱さばきで、反対側――左へと馬首を向けた。


それを合図にしたかのように、後続の盗賊たちが一斉に動く。


ワッツとカミーアを中心に、群れが左右へ割れた。


砂煙が広がる。


盗賊団は大きな波のように左右へ流れ、そのままキャラバン隊を呑み込むように迫っ

ていった。


レックス:「――っと、止まれぇ!」


目の前まで迫っていた盗賊の塊が、突然、ざあっと左右へ散った。


まるで、波が岩を避けるように。


あまりに異様な動きだった。


レックスは思わず手綱を引き、馬を急停止させる。


レックス:「お、おい……?」


少し後方を走っていたセドウィックも、慌てて手綱を引いた。


盗賊たちは二人を避けるように進路を変え、そのまま一直線にキャラバン隊へ向かっていく。


レックス:「どうどうどう……よしよし」


レックスは馬から飛び降りると、落ち着かせるように首筋を撫でた。


それから、ゆっくりと背後を振り返る。


その視線の先。


盗賊団は、すでに動き終えていた。


乱暴な突撃に見えて、その動きは妙に整っている。


左右へ広がった盗賊たちは、あっという間にキャラバン隊の周囲へ回り込み、包囲を作り上げていた。


レックス:「なるほど……そう来ましたか」


セドウィック:「賊にしては、なかなかの統率だね」


セドウィックが感心したように肩をすくめる。


レックスも苦笑した。


だが、その顔から余裕が消えるのは早かった。


二人は、互いに目を合わせる。


言葉はいらない。


レックスは右へ。


セドウィックは左へ。


次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。


砂煙が跳ね上がる。


疾風のように駆け出した二人は、それぞれ別々の方向から、盗賊の群れへと突っ込ん

でいった。



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