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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第4章 それが君の宿命

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第2話 バンブス盗賊のお仕事事情

見晴らしのいい、小高い丘の上だった。


草原を渡る風が、ざわりと草を撫でていく。


遠くの地平線には、キャラバンの帆が見えた。


風を受け、ゆらゆらと揺れながら、こちらへ向かって進んでいる。


ワッツは無骨な望遠鏡を片手に、その一団をじっと見据えていた。


丘の周囲では、盗賊団の連中が襲撃の準備に追われている。


剣を研ぐ音。


荷を運ぶ荒っぽい足音。


獲物を前にした、低い笑い声。


だが――誰一人として、ワッツに近づこうとはしなかった。


その背中には、近寄るなと言わんばかりの空気があった。


そんな中で、ただ一人。


カミーアだけが、ゆっくりとワッツのもとへ歩み寄った。


何も言わず、少し離れた後ろで足を止める。


ワッツ:「……俺は、仕事まで手ぇ出せとは言ってねぇぞ」


望遠鏡から目を離さないまま、ぼそりと呟く。


カミーア:「勝手に来ただけだ」


つっけんどんな返事。


けれど、その声はいつものようには尖っていなかった。


カミーアは視線を足元へ落としたまま、風に揺れる前髪で表情を隠している。


ワッツ:「そうかい」


吐き捨てるように言って、ワッツは再びレンズの向こうへ意識を戻した。


遠くに見えるキャラバン。


獲物だ。


カミーア:「……手強いのがいるんだろ?」


ぽつり、と。


風の音に紛れそうな声だった。


けれど、かすかに震えていた。


ワッツは望遠鏡を覗いたまま、ゆっくりと目を離す。


ワッツ:「誰から聞いた」


カミーア:「……ジャンから」


ワッツは横目でちらりとカミーアを見た。


彼女の肩は、わずかに強張っている。


まるで、逃げ出したいのを必死に堪えている獣のように。


――いつも、ワッツと向き合うときのカミーアだった。


ワッツ:「だから、なんだ」


ぶっきらぼうに言い捨て、再び望遠鏡を覗く。


ワッツ:「オメェには関係ねぇだろ」


カミーア:「……関係ないから来たんだ」


珍しく、食い下がった。


震える声で。


ワッツ:「ああ?」


不機嫌そうに眉をひそめる。


カミーアは顔を上げない。


けれど、逃げもしなかった。


カミーア:「……頭は、お前だ」


小さな声だった。


カミーア:「悔しいけど……親父が選んだんだ」


ワッツ:「……」


返事はなかった。


丘の上を、風が吹き抜けていく。


草が波のように揺れ、遠くのキャラバンの帆がまたひとつ、大きく傾いた。


カミーアはそれでも顔を上げないまま、ぽつりと続ける。


カミーア:「言いたいことは、それだけだ」


一拍置いて。


カミーア:「邪魔したな」


くるりと踵を返す。


そのまま、とぼとぼと歩き出した。


小さな背中が、少しずつ遠ざかっていく。


そのとき――


ワッツ:「……フッ」


短い笑い声が、風に混じった。


ワッツは望遠鏡を下ろし、口元を歪める。


ワッツ:「リベリアに、ずいぶん鍛え上げられたじゃねぇか」


振り返りはしない。


ただ、去っていくカミーアの背中へ向けて、低く言葉を投げた。


カミーア:「……」


去りかけた足が、ふと止まった。


振り返ったカミーアの視界に、黒い影が飛び込んでくる。


ヒュッ――。


反射的に腕が動いた。


パシッ。


手の中に収まったのは、ワッツが使っていた無骨な望遠鏡だった。


ワッツ:「一番ケツにいる、栗毛の剣士とエルフだ」


ワッツは顎で、遠くのキャラバンの最後尾を示す。


カミーアは何も言わず、望遠鏡を目に当てた。


レンズの向こうで、キャラバンの列がゆっくりと揺れている。


風を受けてはためく帆。


軋む荷馬車。


その周囲を固める護衛たち。


カミーアはワッツの示した先を探るように、望遠鏡を少しずつ動かした。


そして――。


ぴたり、と。


その動きが止まった。


ワッツ:「おそらく、邪魔になるのはその二人だ」


横から、ワッツの声が飛ぶ。


だが、カミーアは答えなかった。


望遠鏡を覗いたまま、まるで時間を忘れたように固まっている。


カミーア:「……あいつは……」


かすれた声が、唇からこぼれた。


風に紛れて消えてしまうほど、小さな声だった。


ワッツ:「カミーア!」


怒鳴り声が飛ぶ。


カミーア:「あっ……悪い!」


はっとして、カミーアは望遠鏡から顔を離した。


ワッツ:「いいか、カミーア」


ワッツは面倒そうに息を吐き、それでも視線はキャラバンから逸らさない。


ワッツ:「俺の見立てじゃ、その二人を抑えりゃ勝てる」


カミーア:「そ、そうか」


ぎこちなく頷く。


落ち着かない様子で、指先が望遠鏡の縁を何度もなぞっていた。


カミーア:「それじゃあ……あたいが栗毛の方を引き受けるよ」


顔をそむけるようにして、そう言った。


だが。


ワッツ:「ダメだ」


返事は即座に返ってきた。


カミーア:「……」


ワッツ:「栗毛は、俺の獲物だ」


低く、鋭い声だった。


そこに譲る気配はない。


ワッツ:「オメェがやるなら、エルフの方をやれ」


カミーア:「……わかったよ」


項垂れるように頷く。


返事はした。


けれど、明らかに納得していない顔だった。


ワッツはその様子を横目で見て、怪訝そうに眉をひそめる。


だが――。


そのとき、遠くでキャラバンが動き始めた。


休憩が終わったのだ。


荷馬車が軋み、護衛たちが列を整える。


帆が風を受け、ゆっくりと前へ進み出した。


ワッツ:「行くぞ」


短く告げると、ワッツはカミーアから離れた。


そのまま盗賊団の方へ歩き出し、次々と指示を飛ばしていく。


男たちのざわめきが一気に大きくなった。


武器を取る音。


馬を引く声。


襲撃前の、ざらついた熱気。


準備が動き出す。


その背中を見送りながら――。


カミーアは、もう一度キャラバンへ視線を向けた。


カミーア:「……なんで……」


ぽつりと呟く。


見ているのは、キャラバンの最後尾。


そこにいる、栗毛の剣士。


カミーア:「あいつが……ここに……」


草原を渡る風が、彼女の声をさらっていった。




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