表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第4章 それが君の宿命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/47

第1話 回想:祭りの後の出来事

カミーア:「……そんな」


目の前の光景に、カミーアは声を失った。


信じたくない現実が、逃げ場もなく視界いっぱいに広がっている。


ワッツが振り下ろした剣闘士の剣(グラディウス)は、ロッドの屈強な肩から胸元

までを、深々と斬り裂いていた。


次の瞬間――


ドバッ!!

鮮血が噴き上がった。


赤い飛沫が、闘技場の土を濡らす。


ワッツ:「ハア……ハア……ハア……!」


ワッツは獣のように荒い息を吐きながら、全身の筋肉を震わせていた。


そして――


ズズッ……。


肉を裂く嫌な音を立てながら、剣闘士の剣(グラディウス)をロッドの身体から引

き抜く。


ドサリ。


糸の切れた操り人形のように、ロッドの巨体が地面へ崩れ落ちた。


舞い上がった土埃が、その姿をぼやけさせる。


カミーア:「お、親父ぃ――っ!!」


叫んだ時には、カミーアはもう走り出していた。


倒れた父のもとへ駆け寄り、転がるように膝をつく。


震える手でロッドの肩を掴み、顔を覗き込んだ。


だが――。


ロッドの瞳は、ただ虚空を見つめていた。


もう、二度と瞬きをすることはない。


カミーア:「……っ、う……」


声にならない嗚咽が、喉の奥から漏れた。


その背後で、ワッツは片膝をついたまま、荒れた呼吸を必死に整えていた。


闘技場には血の匂いが満ちている。


先ほどまでの歓声の名残だけが、耳の奥でまだざわざわと鳴っていた。


やがて。


ぼやけていた意識が、ゆっくりと輪郭を取り戻していく。


ワッツ:(……俺は……)


ワッツは、ゆっくりと顔を上げた。


視界に入ったのは、地に伏したロッド。


そして、その傍らで泣き崩れるカミーアの姿だった。


ワッツ:(……ケッ。ざまぁねぇな、ロッド)


唇の端が、わずかに歪む。


ワッツ:(俺を嵌めた……その報いだ)


ワッツは剣闘士の剣(グラディウス)を地面に突き立てた。


その柄を支えにして、ゆっくりと立ち上がる。


肩で息をしながら、周囲を見渡した。


闘技場を埋め尽くす観衆たちが――。


一斉に、ワッツを見ていた。


誰も声を出さない。


息を潜め、次の瞬間を待っている。


ワッツ:(……仕方ねぇ)


ワッツは拳を握りしめた。


ワッツ:(やってやるよ。ロッド)


そして――。


血に濡れた闘技場の中央で、拳を高々と突き上げた。


ワッツ:「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


喉が裂けるほどの雄叫びが、闘技場に轟いた。


一瞬の静寂。


そして次の瞬間――。


「ワッツ! ワッツ! ワッツ! ワッツ!」


割れんばかりの歓声が爆発した。


熱狂の波が、闘技場を揺らす。


地鳴りのようなコールが、勝者の名を、何度も何度も叩きつける。


それはまるで、新たな盗賊団の頭領の誕生を告げる鐘の音だった。


ワッツはその熱狂に応えるように、両腕を高々と振り上げる。


――その時。


カミーア:「ワアァァァァァァァッツ!!」


歓声の嵐を切り裂いて、怒号が響いた。


観衆が一斉に振り向く。


その視線の先にいたのは――剣を握りしめ、怒りに顔を染めたカミーアだった。


獣のような勢いで、ワッツへ突っ込んでいく。


ざわめきが、一瞬で消えた。


闘技場は水を打ったように静まり返る。


ワッツ:「カミーア!」


ワッツが振り返った、その瞬間――


ギィンッ!!


鋭い剣閃が、首元を狙って走った。


ワッツは咄嗟に身体をひねり、紙一重で刃をかわす。


その刹那――。


「おおおおおおおっ!!」


観衆が再び沸き立った。


新たな戦いの始まりに、闘技場はまた狂乱の熱へと呑まれていく。


カミーアの怒りは、止まらなかった。


振るわれる剣は嵐のように、ワッツへ襲いかかる。


休む間もない連撃。


一撃、一撃に、怒りと悲しみが叩き込まれていた。


カミーア:「力を見せつけるだけで、よかったんだろッ!」


怒声とともに、剣が空気を裂く。


カミーア:「殺す必要……なかったのにィ!」


振り下ろされる刃。


ワッツは一瞬だけ、地面に突き立てた剣闘士の剣(グラディウス)へ視線を向け

た。


だが――。


カミーアの猛攻は、その一瞬すら許さない。


ワッツ:(無理か……なら――)


次の瞬間。


ワッツは雷のような速さで踏み込んだ。


カミーアが剣を振り下ろす、その刹那。


ガシッ!!


ワッツの手が、剣を振り抜こうとするカミーアの腕を掴む。


同時に、もう片方の手が彼女の顎を捉えていた。


そのまま、軽々と持ち上げる。


カミーア:「ぐっ……!」


顎を掴む手に力が込められ、カミーアの顔が苦痛に歪んだ。


ワッツ:「やらなきゃ、やられてたんだよ」


低く、冷えた声が落ちる。


ワッツ:「こっちがな」


カミーア:「だったら……」


宙に浮かされたまま、それでもカミーアはワッツを睨みつけた。


カミーア:「あたいもやれよ」


ワッツ:「やらねぇよ」


あっさりと言い切り、ワッツは手を離した。


ドサッ。


カミーアの足が、地面を打つ。


カミーア:「……なんでだよ」


呻くように問いかける。


ワッツは肩をすくめた。


ワッツ:「オメェは、いい女になりそうだからな」


にやりと笑う。


ワッツ:「生かしといてやるよ」


カミーア:「誰がお前の女に――」


言いかけて、カミーアははっとしたように顔を赤らめた。


ワッツ:「誰も、オメェに俺の女になれなんて言ってねぇよ」


カミーア:「……っ」


悔しさに、剣を握る拳へ力がこもる。


ワッツは、もう興味を失ったように背を向けた。


ワッツ:「俺を殺したきゃ、いつでも殺しに来い」


振り返らずに言う。


ワッツ:「オメェには無理だろうがな」


それだけ言い残し、ワッツは歩き出した。


カミーア:「……ちくしょう」


唇を噛みしめる。


だが、身体は動かなかった。


遠ざかっていくワッツの背中を、ただ睨みつけることしかできない。


――その時。


リベリア:「いつまで、しょげてんだい」


背後から声が飛んだ。


カミーアはゆっくりと振り向く。


カミーア:「……リベリア」


そこには、腕を組んだリベリアが立っていた。


リベリア:「来な」


それだけ言って、リベリアはカミーアの横をすり抜ける。


闘技場の出口へ向かって歩き出した。


リベリア:「あたいが鍛え直してやる」


カミーア:「……」


カミーアは立ち尽くしたまま、動けなかった。


胸の奥で、迷いが重く渦巻いている。


リベリア:「なにやってんだい」


苛立った声が飛ぶ。


リベリアは振り返り、鋭く睨みつけた。


リベリア:「今のままでいいなら、別についてこなくていいさ」


それだけ言うと、再び歩き出す。


カミーアは、遠くへ視線を向けた。


そこには――。


立ち止まり、こちらを見ているワッツの姿があった。


カミーア:「……いいわけ、ないか」


ぽつりと呟く。


自分に言い聞かせるように。


そして、踵を返した。


カミーア:「待って、リベリア!」


カミーアは駆け出した。


リベリアの後を追い、闘技場の出口へ向かう。


その背中を、ワッツは遠くから黙って見送っていた。


その時――。


マクベル:「リベリアは、カミーアについたか」


マクベル、ハーディッシュ、グリルドの三人が、ワッツのもとへ歩み寄ってきた。


ワッツ:「オメェらは、俺についてくれるのか?」


探るように問いかける。


マクベルは肩をすくめた。


マクベル:「まさか」


あっさりと答える。


マクベル:「託されたのは、お前とシャル坊だ」


そして、軽く手を振った。


マクベル:「後は頑張れ」


ワッツ:「……そう言うと思ったよ」


ワッツとマクベルは顔を見合わせ、くくっと笑った。


ハーディッシュ:「でも結局、お頭には勝てなかったな。ワッツ」


からかうように、ハーディッシュが口を挟む。


ワッツ:「あの世でリベンジするさ」


ワッツは、遠ざかっていくカミーアとリベリアの背中を見ながら呟いた。


それから、口元をわずかに歪める。


ワッツ:「……まだ、くたばらねぇけどな」


その声には、かすかな笑みが混じっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ