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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第12話 バカだからできること

シド:「クリス君」


アーポット亭の扉が開き、シドが姿を現した。


次の瞬間、その手から何かが放り投げられる。


くるくると宙を回る、一本の杖。


クリスは振り返り――


パシッ。


危なげない手つきで、それを受け止めた。


シド:「レックスがいねぇからな」


腕を組み、シドはにやりと笑う。


シド:「オメェが音頭を取るんだ」


クリス:「えっ……?」


一瞬、クリスはぽかんとした。


だが、シドの笑みを見た瞬間、その意味を悟る。


シド:「久々に見せてくれ」


口角を上げ、シドは告げた。


シド:「ソード・ダンスを」


その言葉に、クリスの表情がぱっと明るくなった。


クリス:「……わかりました」


満面の笑みを浮かべ、クリスは杖を掲げる。


その横で、ワードックが呆れたように肩をすくめた。


ワードック:「誰もソードは持っとらんけどな」


クリスはくすりと笑う。


クリス:「そういえば、そうですね」


シド:「細けぇことはいいんだよ」


そう言って、シドは肩にかけていたリュートをミアラへ放った。


ミアラはそれを両手で受け取ると、得意げに掲げる。


クリス:「ミアラさん。一曲頼むよ」


ミアラ:「あいよ!」


弦に指先が添えられる。


クリスは一歩前へ出た。


その背に、リーアとワードックが並ぶ。


ワードックは戦斧を。


リーアは短剣を。


クリスは杖を。


三人の武器が、同時に空へ掲げられた。


そして――


キンッ。


空中で、三つの武器が交差する。


その瞬間。


ミアラのリュートが、軽快な旋律を奏で始めた。


弾むような音色が、戦場に響き渡る。


クリス:「さあ――始めようか」


四人の声が重なった。


クリス・リーア・ワードック・ミアラ


「「「「ソーーーーード・ダンス!!」」」」


次の瞬間――。


クリス:「《雷よ!》」


杖の先端に、まばゆい光が集まった。


白銀の電光が唸りを上げて凝縮し、限界まで膨れ上がる。


そして。


バリバリバリッ!!


轟音とともに、稲妻が四方へ弾けた。


雷光が空を裂く。


幾筋もの稲妻が蛇のようにうねり、傭兵たちの頭上へ降り注いだ。


ロイドス:「なっ……!」


傭兵たちがひるんだ。


その一瞬を、三人は逃さない。


ミアラのリュートが、さらに速く鳴り響く。


軽快な旋律に背中を押されるように――


クリス、リーア、ワードックが同時に飛び出した。


クリス:「《雷よ!》」


クリスは踊るように傭兵たちの間を駆け抜ける。


杖をひと振りするたび、雷撃が走った。


バリッ!!


バチィッ!!


閃光が弾け、傭兵たちの身体を撃ち抜く。


鎧越しに電流が走り、男たちは悲鳴を上げる暇もなく膝から崩れ落ちた。


リーア:「ハッ!」


その雷光の中を、リーアが駆ける。


速い。


あまりにも速い。


二本の短剣が銀の軌跡を描き、傭兵たちの間をすり抜けていく。


シュッ!


ザッ!


刃が閃くたびに、武器が弾かれ、鎧の隙間が斬り裂かれる。


リーアは足を止めない。


まるで旋律そのものに乗っているかのように、身を翻し、跳び、斬り抜けていく。


ワードック:「おりゃあああっ!!」


そして、正面から戦場を叩き割るのはワードックだった。


片腕で振るわれる巨大な戦斧。


だが、その一撃は片腕とは思えぬほど重い。


傭兵の剣を受け流し――


ドガン!!


そのまま横薙ぎに吹き飛ばす。


ワードック:「次じゃあ!」


戦斧が唸る。


地を踏みしめるたび、石畳がきしむ。


傭兵たちは次々と襲いかかるが、ワードックの前ではまるで紙の盾だった。


ミアラ:「ほらほら、足止めるんじゃないよ!」


リュートの音色が跳ねる。


その旋律に合わせて、クリスの雷が走り、リーアの短剣が舞い、ワードックの戦斧が


唸る。


それは、ただの戦闘ではなかった。


雷と刃と斧。


そして音楽が一つになった、荒々しくも鮮やかな舞。


クリス:「《雷よ!》」


再び雷光が弾けた。


白い閃光が戦場を昼のように照らす。


その光の中で、傭兵たちは完全に翻弄されていた。


どこから攻撃が来るのか分からない。


身構えた先には誰もおらず、振り返った瞬間には雷が落ちる。


逃げようとすれば、リーアの短剣が行く手を塞ぐ。


踏み込もうとすれば、ワードックの戦斧がまとめて薙ぎ払う。


一人。


また一人。


傭兵たちはなすすべもなく、地面へ沈んでいった。


ミアラのリュートが、最後に高く鳴り響く。


キィン――。


余韻が、アーポット亭の前に広がった。


その中心で、クリスは杖を軽く回し、静かに構える。


クリス:「さて」


雷光の名残が、彼の眼鏡にきらりと反射した。


クリス:「まだ踊りたい人はいるかな?」


混乱の渦の中――。


一人の傭兵が、こっそりとアーポット亭の玄関へ近づいていた。


見るからにガラの悪い男だった。


周囲では雷光が弾け、刃と刃が打ち合わされ、怒号と悲鳴が飛び交っている。


その騒ぎに紛れ、男は身を低くしながら、そろりそろりと扉へ近づいていく。


ガラの悪い傭兵:(へへ……黄金さえ手に入れりゃあ……)


口元に、下卑た笑みが浮かんだ。


――その瞬間。


リーア:「あっ、待ちな!」


リーアの鋭い声が飛んだ。


すぐさま傭兵へ向かって駆け出そうとする。


だが――。


ボガッ!!


玄関の扉が、内側から勢いよく開いた。


次の瞬間。


傭兵の顔面に、巨大な拳がめり込んでいた。


ガラの悪い傭兵:「グエェぇぇっ!!」


鈍い音が響き、男の身体が宙を舞う。


まるで紙くずのように吹き飛ばされた傭兵は、そのまま地面を転がり、ぴくぴくと痙

攣した。


扉の向こうから現れたのは――。


昼間、宿で見かけた大柄な戦士だった。


その姿を見て、リーアは思わず足を止める。


リーア:「あんたは……」


大柄の戦士:「おお、女将」


戦士は豪快に笑い、親指を立ててみせた。


大柄の戦士:「ずいぶん面白ぇことしてるじゃねぇか」


にやりと口元を吊り上げる。


大柄の戦士:「俺も混ぜろや」


リーアは一瞬だけ目を丸くし――すぐに、にやりと笑い返した。


リーア:「当宿屋のサービスでございます」


軽く一礼する。


リーア:「――存分にご堪能くださいませ」


その笑顔は、間違いなく心の底から楽しんでいる者の顔だった。


そのとき――。


アーポット亭の奥から、次々と扉の開く音が響いた。


バン!

ガタン!


「おい、なんだこの騒ぎは!」


「表で喧嘩か!?」


「面白そうじゃねぇか、行くぞ!」


宿に泊まっていた冒険者たちが、次々と外へ飛び出してくる。


剣士。


魔導士。


弓使い。


斧を担いだ戦士に、槍を手にした女冒険者。


誰一人として、状況を細かく尋ねようとはしなかった。


アーポット亭が襲われている。


それだけで、彼らには十分だった。


冒険者たちは武器を手に、迷うことなくクリスたちの側へ加勢する。


その勢いは、すさまじかった。


傭兵たちは次々と打ち倒されていく。


さっきまでアーポット亭を包囲していたはずの陣形は、みるみるうちに崩れていった。


圧倒的な数の優位など――。


もはや、跡形もなかった。


ロイドス:「ちょ、ちょっと……これは、まずいですよ……!」


少し離れた場所から戦況を見ていたロイドスの額に、冷や汗がにじむ。


完全な形勢逆転。


それを悟った瞬間、ロイドスはそっと後ずさった。


ロイドス:「ふふ……」


周囲に集まり始めた野次馬の群れへ、するりと紛れ込む。


ロイドス:「退くのも、戦術のうちですからね……!」


小声でそう呟くと、何食わぬ顔でその場を離れていった。


そして――。


戦いは終わった。


クリス:「みなさーーん!」


クリスが杖を高く掲げる。


クリス:「やりましたよーーー! 僕らの勝利ですっ!」


その声が、夜空へ高く響いた。


アーポット亭を取り囲んでいた傭兵団は、すでに影も形もない。


倒れた者は引きずられ、動ける者は尻尾を巻いて逃げ出していた。


その光景に――。


冒険者たちと街の住人たちが、一斉に歓声を上げた。


「おおおおおっ!!」


「やったぞー!」


「アーポット亭の勝ちだ!」


拍手と歓声が、夜のレクリコスに響き渡る。


まるで祭りのような騒ぎだった。


シャルクス:「……なんだ、このバカ騒ぎは」


その喧騒から少し離れた場所で、シャルクスは腕を組んだまま、ぼそりと呟いた。


シャルクス:「祭りじゃないんだぞ」


すると隣で――。


シドが肩を揺らして笑った。


シド:「祭りさ」


軽く顎を上げ、騒ぎの中心を見る。


シド:「この街じゃ、こんなことは日常茶飯事なんだよ」


シャルクス:「……」


シャルクスは眉をひそめた。


アーポット亭の従業員だけではない。


そこに泊まる冒険者たちも。


集まってくる街の住人たちも。


このレクリコスという街そのものが――どこかおかしい。


シャルクス:「バカばっかりだな」


呆れたように呟く。


シャルクス:「どいつもこいつも」


そう言って、ぷいっと顔を背けた。


だが――。


シド:「バカだから、できるのよ」


シャルクス:「……え?」


思わず振り向く。


シドは、にやりと笑っていた。


シド:「オメェもよ」


ぽん、とシャルクスの肩を叩く。


シド:「バカになれよ」


それから、ほんの少しだけ声をやわらげた。


シド:「そうすりゃ、辛い人生でも……少しは楽しくなるぜ」


それだけ言うと、シドは歓声の中心へ歩いていった。


冒険者たちが笑い、住人たちが手を叩き、アーポット亭の前で勝利を祝っている。


その騒ぎの中へ、シドの背中が溶けていく。


シャルクス:「……そうかもな」


ぽつりと、呟いた。


その声は、自分でも驚くほど穏やかだった。


シャルクスは小さく笑う。


そして――。


シドの背中を追って、ゆっくりと歩き出した。


自分が、これから何をすべきなのか。


その答えが――。


ほんの少しだけ、見えた気がした。




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