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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第11話 包囲されたアーポット亭

クリスたちと共にアーポット亭の玄関を飛び出したシャルクスは――その光景を目にした瞬間、息を呑んだ。


目の前に広がっていたのは、黒い人の波。


完全武装の傭兵たちが、アーポット亭をぐるりと取り囲んでいた。


鎧の擦れる音。


武器の鳴る音。


あちこちから漏れる、低く下卑た笑い声。


その数は――軽く百を超えている。


シャルクス:(……なんだ、この数は)


思わず眉間に皺が寄る。


その時だった。


屈強な傭兵たちの間から、妙に場違いな声が聞こえてきた。


ロイドス:「あー、すみません、すみません。ちょっと通りますね」


ぺこぺこと頭を下げながら、一人の男が傭兵たちの隙間を縫うようにして前へ出てくる。


ロイドス:「あ、ごめんなさい。足、踏みました? 本当にすみません」


情けないほど腰の低い態度。


傭兵たちの殺気立った空気の中で、その男だけがひどく浮いていた。


だが――。


シャルクスの視線は、鋭く細められていた。


やがてロイドスは、シャルクスの前までたどり着く。


そこで、ぴたりと足を止めた。


そして。


すっと背筋を伸ばす。


ロイドス:「お久しぶりです、シャルクスさん」


先ほどまでの卑屈な態度が、嘘のように消えていた。


涼しげな顔。


静かな声。


隙のない立ち姿。


シャルクス:「……ロイドス」


シャルクスは、鋭い視線で男を睨みつける。


この男は――かつて兄ドナルドと互角以上に渡り合った、ガスパーの代理人。


見た目の間抜けさに騙されてはいけない。


ロイドス:「まさか生きていたとは。正直、驚きましたよ」


淡々と告げる。


シャルクスは鼻で笑った。


シャルクス:「しぶとくて悪かったな」


腕を組み、挑むように言い返す。


シャルクス:「そんなことより……目的は黄金だろ」


その言葉に、ロイドスの口元がゆっくりと歪んだ。


ロイドス:「もちろんです」


軽く肩をすくめる。


ロイドス:「メディルさんは失敗しましたからね。ですが――私は、そうはいきません」


その言葉に、横から鋭い声が飛んだ。


リーア:「あんたなんかに、あげないわよ」


腕を組んだリーアが、真正面からロイドスを睨みつける。


ロイドスの眉が、ぴくりと動いた。


ロイドス:「……貴方のものではないでしょう」


わずかに不機嫌そうな声だった。


すると、今度はクリスが一歩前に出る。


クリス:「黄金はアーポット亭の中にあります」


静かな声だった。


だが、不思議とよく通る。


クリス:「つまり、まだ僕たちのものですよ」


ロイドスは肩をすくめ、薄く笑った。


ロイドス:「まさか……」


そう言って、背後に並ぶ傭兵たちを軽く振り返る。


ロイドス:「この人数を相手に、戦うつもりではありませんよね?」


その言葉を合図にしたかのように――。


傭兵たちの下卑た笑い声が、あちこちから湧き上がった。


だが。


リーアは、心底呆れたようにため息をついた。


リーア:「こいつら、分かってないね」


腕を組んだまま、首を横に振る。


ワードックも、にやりと笑った。


ワードック:「そうじゃな」


ゆっくりと一歩、前へ出る。


ワードック:「ちと、灸を据えてやるかの」


そう言って、背中に担いだ戦斧へ手を伸ばす。


ごつい指が柄を掴んだ瞬間――空気が変わった。


ワードックは戦斧を引き抜き、大きく振り上げる。


シャルクス:「……なにをするつもりだ」


警戒を隠さず問いかける。


すると隣で、クリスが楽しそうに肩をすくめた。


クリス:「まあまあ」


その顔には、場違いなほど余裕のある笑みが浮かんでいる。


クリス:「ここは僕たちに任せてよ」


そして、少しだけ声を落として付け加えた。


クリス:「――面白いものが見られるからさ」


その余裕たっぷりの態度に、シャルクスの不安はますます膨らんだ。


だが、何も言わない。


ただ黙って、視線をワードックへ向ける。


ワードックは、巨大な戦斧を天へ掲げた。


ワードック:「ブンガアアアァッ!!」


獣じみた雄叫びが、アーポット亭の前に響き渡る。


その咆哮と共に――ワードックは戦斧をさらに高く振り上げた。


次の瞬間――。


ズドォンッ!!


ワードックの戦斧が、大地へ叩きつけられた。


凄まじい衝撃音が、アーポット亭の前に轟く。


地面が跳ねた。


石畳が震え、足元から突き上げるような衝撃が、周囲にいた者たちの膝を揺らす。


そして――。


バキッ。


バキバキバキッ!!


アーポット亭の前に敷かれていた石畳が、乾いた音を立てて砕けていく。


戦斧を中心に走った亀裂は、まるで生き物のように地面を這った。


一直線に。


傭兵たちの足元へ向かって。


ゴゴゴゴゴ……。


低い地鳴りが響く。


亀裂は瞬く間に広がり、石畳を呑み込みながら、黒い口を開けていった。


ロイドス:「な、なんですかあ!? これはっ!」


つい先ほどまで涼しい顔をしていたロイドスが、思わず声を裏返らせる。


傭兵たちも一斉にざわめいた。


さっきまで響いていた下卑た笑い声は、もうどこにもない。


代わりに広がったのは――足元から這い上がる恐怖だった。


誰もが青ざめた顔で、崩れゆく地面を見下ろしている。


シャルクス:「……なんなんだよ」


ぽつりと、シャルクスは呟いた。


シャルクス:「ここの従業員は……」


あまりの光景に、呆れることさえ遅れてくる。


隣では、クリスが満足そうに微笑んでいた。


そして、芝居がかった仕草で軽く手を広げる。


クリス:「ようこそ」


少し楽しげな声だった。


クリス:「アーポット亭へ」


その一言が、崩れた石畳の上に静かに落ちた。



だが――。


意外なことに、傭兵たちの中から逃げ出す者はほとんどいなかった。


恐怖はある。


だが、それ以上に彼らを縛っているものがあった。


欲だ。


ガラの悪い傭兵:「ロイドスさん、よう」


人垣の中から、いかにも荒くれ者といった風体の傭兵が歩み出てきた。


傷だらけの鎧。


無精髭の浮いた顎。


口元に張りついた、卑しい笑み。


その男はロイドスの前まで来ると、軽く顎をしゃくった。


ロイドスは小さくため息をつく。


ロイドス:「ええ、ええ。分かっていますとも」


すぐに表情を整え、何事もなかったかのように微笑んだ。


ロイドス:「報酬は――三倍で」


その言葉を聞いた瞬間、傭兵の口元がにやりと歪む。


ガラの悪い傭兵:「分かってりゃ、それでいい」


だがロイドスは、そこで終わらせなかった。


一歩近づき、声を落とす。


ロイドス:「それと……」


薄く笑う。


ロイドス:「黄金を奪ってきてくださった方には、言い値で払いますよ」


その一言に、傭兵の目の色が変わった。


ガラの悪い傭兵:「……マジかよ」


ロイドス:「ええ、もちろん」


軽く肩をすくめる。


ロイドス:「お仲間にも教えてあげてください」


そこで一度、言葉を切る。


そして、蛇のような笑みを浮かべた。


ロイドス:「――まあ、独り占めしたいのであれば。それもご自由に」


傭兵の笑みが、さらに深くなる。


ガラの悪い傭兵:「へへ……そうかい」


そう言って、男は仲間たちのもとへ戻っていった。


その背中を見送りながら、ロイドスは小さく息を吐く。


ロイドス:「まったく……」


鼻で笑った。


ロイドス:「扱いやすいですね。金のことしか頭にないバカは」


その声には、隠しもしない軽蔑と――。


それを利用することへの、歪んだ愉悦が滲んでいた。



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