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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第10話 バルデンの黄金伝説

シド:「――あの黄金はな。ルーク・バルデンが、かつて愛した女の……その子孫のために残したものなんだよ」


シドは、ゆっくりと語り始めた。


穏やかな声だった。


だが、その奥には――


長い年月を越えて沈殿した、拭いきれないものがあった。


シド:「だがな……その黄金には、呪いがかけられていた」


低く落ちた声。


その一言で、会議室の温度が一気に下がった。


リーア:「呪いぃぃぃっ!?」


甲高い叫びが、静寂をぶち破る。


全員の視線が、一斉にリーアへ集まった。


リーア:「……ごめん。続けて」


気まずそうに肩をすくめ、リーアは小さくなった。


シドは苦笑を浮かべながら、話を続ける。


シド:「その黄金に関わった者にはな……決まって不幸が訪れている」


ひとつひとつ、言葉を置くように。


シド:「バルデンの一族も、例外じゃねぇ」


その言葉に――


シャルクスは、何も言えなくなった。


胸の奥に、冷たいものが落ちていく。


――ラスパル家が没落したのも。


――あの黄金の呪いのせいだったのか。


シド:「このままじゃ、黄金を渡すはずだった子孫にまで呪いが及んじまう」


シドは腕を組み、深く息を吐いた。


シド:「だからバルデンは、一計を案じた」


クリスが身を乗り出す。


クリス:「どうしたんです?」


興味を隠しきれない顔だった。


部屋にいる全員が、シドの言葉を待っている。


シドは指を一本立てた。


シド:「バルデンが打った手は、二つある」


そう言って、机の上に置かれた金塊を指で軽く叩いた。


コン、と鈍い音が響く。


シド:「一つは、呪いが祓われるまで、黄金を安全な場所に預けることだ」


ワードックが顎に手を当て、低く唸った。


ワードック:「なるほどの……」


そして、納得したように目を細める。


ワードック:「それが、このアーポット亭というわけじゃな」


クリスが少しだけ胸を張った。


クリス:「世界一の冒険家が守ってくれるなら、これ以上安全な場所はありませんか

らね」


どこか誇らしげな笑みだった。


シドはニヤリと笑う。


シド:「そして、もう一つ」


ゆっくりと視線を巡らせる。


その目が――


シャルクスのところで止まった。


シド:「バルデンはな。二人の弟子に、子孫の保護を頼んだんだ」


その視線を受け、シャルクスはわずかに目を伏せた。


シドは意味ありげに笑う。


シド:「オメェには、その二人が誰なのか……もう分かってるんじゃねぇか?」


静かな沈黙が落ちた。


シャルクスは、これまでの出来事を思い返す。


父のこと。


盗賊団のこと。


そして――ロッドのこと。


やがて。


シャルクスは、小さく息を吐いた。


シャルクス:「……父さんと、ロッドさんか」


遠くを見るような目で、ぽつりと呟く。


シド:「オメェの兄ちゃんはな……父親やバルデンの意思を受け継いで、黄金に群がる欲望や呪いと戦っていたんだろうよ」


静かな声だった。


だが、その言葉はまっすぐに胸へ届いた。


シャルクス:「……ああ。そうかもな」


短く答える。


兄――ドナルドの背中が、ふと脳裏に浮かんだ。


シド:「だけどな」


シドは、さらに言葉を続ける。


シド:「どこかで限界を感じていた」


その一言は、重かった。


シャルクス:「……」


シャルクスは顔を伏せる。


拳が、自然と強く握られていた。


シド:「だから、クリストファーに相談したんだ」


シドは、机の金塊を指先で軽く叩く。


シド:「同じく、バルデンの意思を継ぐ者としてな」


シャルクスは、はっと顔を上げた。


シャルクス:「それじゃあ……これまでのことは……」


驚きと戸惑いの入り混じった瞳が、シドを見つめる。


シドは、ゆっくりとうなずいた。


シド:「そうだ」


口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


シド:「これは試練だ」


会議室が静まり返る。


シド:「オメェが、バルデンの意思を受け継ぎ――」


シド:「その呪いと欲望に立ち向かえるかどうかを試す……試練だったんだよ」


シャルクス:「……そうだったのか」


ぽつりと呟き、シャルクスは再び視線を落とした。


そして、小さく息を吐く。


シャルクス:「……俺は、合格したのか?」


その問いに、シドはにやりと笑った。


シド:「だから、ここにいるんだろ」


ぽん、と軽くシャルクスの腕を叩く。


その時だった。


クリス:「でも、まだ試練は終わっていませんよ」


柔らかな声が、横から差し込まれた。


クリスが微笑みながら、シャルクスへ歩み寄る。


シャルクス:「えっ?」


思わず眉をひそめる。


クリスは肩をすくめた。


クリス:「黄金を届けなきゃいけない人がいるんでしょう?」


その言葉に、シャルクスは一瞬だけ目を見開いた。


だがすぐに、静かにうなずく。


シャルクス:「ああ……そうだな」


クリス:「誰に届ければいいか――」


そこで、クリスは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。


クリス:「ちゃんと分かっていますよね?」


その問いに、シャルクスはかすかに笑った。


もう迷いはなかった。


シャルクス:「ああ」


はっきりと言う。


シャルクス:「カミーアだ」


クリス:「カミーア?」


クリスが聞き返した――


その、次の瞬間だった。




ワードック:「そこ――何をしておる!」


突如、会議室に怒号が轟いた。


次の瞬間、ワードックの腕が大きく振りかぶられる。


その手に握られていた戦斧が、豪快な弧を描き――


天井めがけて投げ放たれた。


ズガァン!!


耳をつんざく衝撃音。


戦斧は天井板を易々と突き破り、その奥に潜んでいた暗殺者の身体を、寸分違わず貫

いていた。


天井裏に、血飛沫が散る。


そして――


天井に開いた大穴へ向かって、一つの影が跳んだ。


リーアだ。


猫のようなしなやかな身のこなしで天井裏へ躍り込むと、くるりと振り返る。


リーア:「はーい♪」


満面の笑みで、下にいる仲間たちへ手を振った。


そのあまりにも場違いな明るさに、天井裏に潜んでいたもう一人の暗殺者が、思わず


動きを止める。


その隙を――リーアが見逃すはずもなかった。


グサッ。


短剣が、迷いなく暗殺者の胸を貫く。


男は声を上げる暇もなく、その場に崩れ落ちた。


リーア:「さて……次は」


リーアは天井裏を見回す。


そして、死体に突き刺さったままのワードックの戦斧を見つけると、にこりと笑っ

た。


リーア:「ちょっと借りるよ」


柄を掴み――


ズボッ。


一息に引き抜く。


鈍い金属音が、暗い天井裏に響いた。


その瞬間だった。


バリーン!!


激しい破砕音とともに、会議室の窓ガラスが粉々に砕け散る。


黒装束の暗殺者が一人、部屋の中へ飛び込んできた。


リーアは天井の縁から、ひょいと顔を覗かせる。


リーア:「あと三人」


そう言いながら、手にした戦斧を軽く振りかぶり――


ひょい、と下へ投げ落とした。


リーア:「ワードック、お願い!」


ワードック:「すぐに終わる」


落ちてきた戦斧を、ワードックは空中で難なく受け止めた。


次の瞬間。


床を蹴る。


重いはずの身体が、驚くほど鋭く前へ跳んだ。


窓から侵入してきた暗殺者との距離が、一瞬で消える。


ズバァッ!!


戦斧が閃いた。


暗殺者は何かをする暇もなく、床へ斬り伏せられる。


ワードックはその勢いのまま体をひねり、今度は出入り口へ向き直った。


直後――


バンッ!!


扉が勢いよく開き、二人の暗殺者が雪崩れ込んでくる。


だが、遅い。


ズバッ!


ズバッ!


ワードックの戦斧が唸りを上げた。


二人の暗殺者は反応する間もなく、続けざまに床へ沈む。


あまりにも一瞬の出来事だった。


シャルクス:「……なんだ、こいつらは」


倒れた暗殺者たちを見下ろし、シャルクスが低く呟く。


その横で、ミアラが壊れた窓の縁によじ登った。


ミアラ:「なんか、外が騒がしいよ」


身を乗り出して外を覗き込む。


そして、眉をひそめて振り返った。


ミアラ:「まだいるみたい」


クリスが静かに目を細める。


クリス:「行ってみましょう」


その一言で、全員が動いた。


シャルクス。


クリス。


リーア。


ワードック。


ミアラ。


そして、シド。


六人は足早に会議室を飛び出し――


アーポット亭の外へと駆け出した。




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