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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第9話 リーアの天敵

シャルクスは、クリスの後ろについて歩き、アーポット亭の奥にある会議室へと足を踏み入れた。


部屋の中央には、大きな机。


その上には、地下室から運び出された金塊が、いくつも整然と並べられていた。


黄金色の輝きを前にして、真剣な顔でそれを調べていたのは――ワードックとリーア

だった。


リーア:「お、やっとお目覚めかい」


顔を上げたリーアが、シャルクスを見るなり、にやりと笑う。


椅子から立ち上がり、こちらへ歩み寄ってきた。


シャルクスは少し気まずそうに頭をかく。


シャルクス:「昼間は……すまなかったな。逃げちまって。シャルクス・ラスパルだ」


リーアは肩をすくめ、ひらりと手を差し出した。


リーア:「気にすんなよ。あたしはリーア・アーポットだ」


シャルクスは、その手をしっかりと握り返す。


二人は自然と笑みを浮かべ、軽く握手を交わした。


クリス:「そちらにいるドワーフは、ワードックさんです。君のことはもう紹介してあるので、ご存じですよ」


ワードック:「おう」


机の向こう側から、ワードックが片手を上げた。


口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。


リーアはそこで、思い出したように付け加えた。


リーア:「ああ、それと昼間あたしと一緒にいたホビットがミアラだ。今ちょっと出てるけど、すぐ戻ってくると思うよ」


軽く手を振りながら、なんでもないことのように説明する。


ひと通りの自己紹介が終わったところで――


リーアの視線が、すっとクリスへ向いた。


リーア:「ところでよ、クリス」


声が低い。


クリス:「……なんですか?」


クリスは眉間にしわを寄せ、いかにも面倒くさそうに振り返った。


リーアは腰に手を当てる。


リーア:「さっきは、よくも電撃を浴びせてくれたな」


じろり。


鋭い視線がクリスに突き刺さる。


クリス:「あ……つい、やっちゃいました」


クリスは一瞬で姿勢を正し、ぺこぺこと頭を下げた。


クリス:「ごめんなさい」


リーア:「まあ、それはいいんだけどさ」


あっさりだった。


シャルクス:(いいのか……)


あまりにも軽く流されたため、シャルクスは思わず内心で突っ込んだ。


だが、リーアの視線はまだクリスから離れない。


リーア:「お前さ」


一歩、近づく。


リーア:「黄金を見たとき、あんまり驚いてなかったよな」


怪しむように目を細める。


リーア:「さては……知ってたな?」


クリスの目が、すっと横へ泳いだ。


クリス:「え、ええ……まあ……」


小さく咳払いをしてから、観念したように答える。


クリス:「レックスさんから、聞いてましたので」


その瞬間。


リーアの頬が、ぷくっと膨らんだ。


リーア:「はぁ!? なんじゃそれぇ!」


会議室に、リーアの大声が響き渡る。


リーア:「あいつ、なんでいつもお前にだけ教えて、あたしには教えてくれないんだ

よ!」


腕を組み、ぷりぷりと怒り出す。


クリスは困ったように、さらに視線を泳がせた。


クリス:「さ、さあ……」


それから、ぽつりと余計なことを言う。


クリス:「リーアさんは、ネコババすると思ったんじゃないですか?」


リーア:「あたしはそんなこと――」


シド:「するだろ」


ガチャ。


絶妙なタイミングで、会議室の扉が開いた。


入ってきたのは、酒場の主人シド。


そして、その後ろにはホビットのミアラの姿もあった。


リーアの顔が、ぴしりと引きつる。


リーア:「うげっ、シド……」


思わず、一歩のけぞった。


シドは淡々とした顔で続ける。


シド:「オメェはすぐ物を盗むだろ」


リーア:「はい。盗みます」


即答だった。


シド:「だろうな」


リーアは観念したように、そっとポケットへ手を入れた。


そして――


中から、金塊を一つ取り出す。


リーア:「……はい」


しぶしぶと。


本当に、心の底から惜しそうに。


リーアはそれを、シドの差し出した手のひらに置いた。



クリス:「お忙しいところ、わざわざありがとうございます。シドさん」


クリスは丁寧に頭を下げた。


対するシドは、まるで気にした様子もなく、ひらひらと片手を振る。


シド:「いいってことよ。それで、なんの用だ?」


そう言って椅子を引くと、どっかりと腰を下ろした。


クリスは机の上に並べられた金塊へ視線を落とす。


黄金色の塊が、灯りを受けて鈍く輝いていた。


クリス:「地下室にあった金塊のことです」


指先で、ひとつの金塊を軽く叩く。


コン、と鈍い金属音が、会議室に小さく響いた。


クリス:「あの金塊……いったい何なんです?」


その問いに、シドはわずかに眉をひそめた。


シド:「なんでぇ。レックスから聞いてねぇのか?」


クリスは首を横に振る。


クリス:「以前聞いたのは、“地下室の奥に金塊がある”ということだけです。それ以

上のことは、何も」


シドは、しばらく黙っていた。


何かを思い出すように目を細め、それから小さく頷く。


そして――視線を、ゆっくりとシャルクスへ向けた。


シド:「……こいつは?」


クリスが横から説明する。


クリス:「彼は、この金塊のことを知って……取りに来たみたいなんですが」


その言葉を聞いた瞬間だった。


シドの顔が、ぱっと明るくなる。


シド:「そうか、そうか!」


突然の大声に、会議室の空気がびくりと揺れた。


シドは嬉しそうに笑うと、シャルクスの腕をバシバシと叩く。


シド:「ついに現れたのか! あの黄金の正統な受取人が!」


シャルクス:「は?」


思わず、間の抜けた声が漏れた。


シャルクス:「正統な……受取人?」


眉をひそめるシャルクス。


困惑した顔でシドを見返す。


クリスも、思わず身を乗り出した。


クリス:「どういうことです?」


シドは一度、ぐるりと周囲を見回した。


リーア。


ワードック。


ミアラ。


クリス。


そして、シャルクス。


全員の視線が自分に集まっているのを確認してから、シドはゆっくりと口を開いた。


シド:「あの黄金はな……」


机の上に置かれた金塊を、太い指で軽く叩く。


シド:「ラミアスさんが、ルーク・バルデンから預かったもんなんだ」


その名が出た瞬間。


誰かが息を呑んだ。


バルデン。


それは、この場にいる者たちにとって、ただの名前ではなかった。


シドは椅子の背にもたれ、ふう、と小さく息を吐く。


そして、ぽつりぽつりと語り始めた。


――バルデンの黄金。


それにまつわる、古い伝説を。



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