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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第6話 岩戸の前の対決 後編

クリス:《雷よ!》


短い詠唱が、地下空間に響いた。


刹那――。


ズドォン!!

ズドォン!!


蒼白の雷光が、闇を裂いて降り注ぐ。


頭上に天井など存在しないかのように、凄まじい轟音とともに雷撃が落ちた。狙いは


ただ一つ。シャルクスの頭上。


だが――。


シャルクス:「はっ!」


短く息を吐いた瞬間、シャルクスの身体が滑るように動いた。


雷が落ちる。


だが、当たらない。


彼は影が揺らぐようなしなやかな動きで、次々と雷撃の隙間をすり抜けていく。漆黒

の剣が闇を裂き、その姿は残像のようにぶれて見えた。


そして、次の瞬間。


シャルクスはすでに、クリスの懐へ踏み込んでいた。


シャルクス:「はああっ!」


漆黒の刃が振り抜かれる。


クリスは咄嗟に杖を構えた。


キィンッ!!


鋭い金属音が地下に響く。


闇の剣と光を宿した杖が、激しくぶつかり合った。


火花が散り、ぶつかり合った魔力が波紋のように周囲へ広がっていく。


だが、シャルクスは止まらない。


鋭い斬撃。


その合間に撃ち込まれる闇魔法。


息をつく暇もない連撃が、クリスへ襲いかかった。


対するクリスは、光魔法で闇を払いながら、杖を棒術のように操る。受け、流し、かわし、必要な分だけ押し返す。


剣と杖。

闇と光。


二つの力が、黄金に照らされた地下空間で激しく交錯した。


一見すれば――互角。


だが。


クリス:(まずいな、これは)


クリスの頭は、ひどく冷静だった。


シャルクスの動きは荒い。


攻撃は鋭く、重い。だが、その奥にあるのは焦りだ。


血走った瞳。

力任せの連撃。


理性ではなく、衝動に身体を任せている。


このまま続けば、先に限界が来るのはシャルクスの方だろう。


ただし――。


クリス:(……一撃が重すぎる)


下手に受ければ、こちらが先に持っていかれる。


クリスは小さく息を吐いた。


クリス:「少し、痛い目に遭ってもらうよ!」


言うなり、地面を蹴る。


一直線にシャルクスへ踏み込んだ。


シャルクス:「ほざけ!」


シャルクスが叫び、漆黒の剣を大きく振りかぶる。


闇をまとった刃が、真っ直ぐに振り下ろされた。


キィンッ!!


再び、剣と杖が激突する。


火花が弾けた。


その瞬間――。


クリス:《雷撃!》


クリスの杖が、眩く輝いた。


次の瞬間。


ドォォォン!!


雷の魔力が、至近距離で爆ぜた。


地下空間そのものを揺るがす衝撃。


シャルクス:「ぐぉおおおおおおっ!」


雷撃をまともに受けたシャルクスの身体が、宙へ吹き飛ばされる。


ゴンッ!!


背中から地面へ叩きつけられた。


その衝撃とともに、握っていた漆黒の剣が、霧のようにふっと消える。


シャルクスはそのまま仰向けに倒れ――。


動かなくなった。


完全に意識を失っている。


一瞬、地下空間に静寂が落ちた。


クリス:「ふぅ……」


クリスは大きく息を吐いた。


杖を軽く肩に担ぎ、乱れた呼吸を整える。


そして――視線を横へ向けた。


すぐ近くで金塊にへばりつき、今なおうっとりとした顔をしているリーアのことは、

あえて完全に無視する。


クリスの目は、静かにもう一つの戦場へ向けられていた。


隻腕のドワーフ。


ワードックの方へと。



ワードックとメディルの戦いは、いまだ決着を見せていなかった。


ガキィンッ!

ジャキンッ!


巨大な戦斧と、漆黒の爪が激しく噛み合う。


散った火花が黄金色の光に混じり、地下空間を一瞬だけ白く染めた。


ワードックの一撃は重い。


まともに受ければ、骨どころか身体ごと叩き割られる。


対するメディルの爪は、影の刃のようにしなやかだった。


踏み込めば逃げる。


退けば斬り込む。


戦斧が唸れば、黒い爪が受け流す。


黒い爪が喉元を狙えば、戦斧の柄がそれを弾く。


攻めても崩れず。


守っても逃げ切れない。


このままでは――決着はつかない。


その均衡を破ったのは。


クリスだった。


クリス:《雷よ!》


短い詠唱。


直後、二人の間で閃光が弾けた。


ズドォン!!


雷撃が地面へ叩き込まれる。


石床が爆ぜ、砕けた破片が四方へ飛び散った。


ワードックとメディルは同時に後方へ跳び、距離を取る。


ワードック:「そっちは済んだようじゃな」


近づいてきたクリスへ、ワードックが声をかける。


その声には、ほんのわずかに安堵が混じっていた。


クリス:「ええ。なんとか」


いつもののんびりした口調。


だが、クリスの表情はすぐに引き締まる。


視線の先にいるのは――メディル。


メディル:「まさか、死んじゃいないだろうね」


メディルはちらりと視線を投げた。


その先では、シャルクスが地面に倒れたまま動かない。


メディルは小さく舌打ちする。


クリス:「殺してはいませんよ。気を失っているだけです」


軽く肩をすくめるクリス。


そして、そのまま静かに問いかけた。


クリス:「それで。あなたはどうします?」


メディルはしばらく黙っていた。


やがて――。


すっと、指先の漆黒の爪を引っ込める。


メディル:「これ以上、やる気はないね。退散するよ」


両手をひらりと上げる。


形だけなら、降参のポーズだった。


それを見て、クリスの口元がわずかに歪む。


クリス:「手ぶらでお帰りですか?」


メディルは不敵に笑った。


メディル:「手ぶらじゃないさ」


顎で示したのは、気を失っているシャルクス。


メディル:「黄金なら、そいつがファーミストまで持ってきてくれる」


言い終えると同時に、メディルの身体がふわりと浮いた。


輪郭が揺らぐ。


まるで影が霧にほどけていくように、その姿が薄れていく。


メディル:「必ずね」


最後に残された言葉だけが、地下空間に落ちた。


次の瞬間。


メディルの姿は、完全に消え去っていた。


静寂が戻る。


クリスとワードックは、ゆっくりとシャルクスのもとへ歩み寄った。


ワードック:「……やりすぎじゃろ、これは」


呆れたような声だった。


シャルクスの服には、いくつもの焦げ跡が残っている。


雷撃の痕も、はっきりと見て取れた。


クリス:「手を抜ける状況じゃなかったんですよ」


クリスは苦笑しながら肩をすくめる。


ワードックは小さく首を振った。


そして、ふと別の方向へ視線を向ける。


そこには――巨大な金塊。


そして。


ワードック:「……あ奴は、まだやっとるのう」


リーアが、相変わらず金塊にしがみついていた。


うっとりとした表情で。


まるで一生離れる気などないと言わんばかりに。


ワードック:「少し痛い目に遭った方がいいのかもしれぬぞ」


ぼそりと呟く。


クリスは小さく頷いた。


クリス:「そうですね」


杖を構える。


そして、静かに呪文を唱えた。


クリス:《雷よ》


次の瞬間。


ズドォン!!


雷撃が一直線にリーアへ落ちた。


閃光。

爆音。


そして――。


リーア:「ぎゃあああああああ!!」


甲高い悲鳴が、地下空間に響き渡った。


リーアの身体が黒焦げになって吹き飛ぶ。


そのまま、どさりと仰向けに倒れた。


髪は見事に逆立ち、身体からはぷすぷすと煙が上がっている。


ワードック:「……やり過ぎじゃろ」


ワードックは目を丸くし、思わず一歩後ずさった。


クリスは首を傾げる。


クリス:「おかしいな。そんなに強く撃ってないんですけど」


そこで、ふと気づいた。


クリスの視線が、ゆっくりと金塊へ向く。


金。

電気を通しやすい金属。


そして、その金塊にべったり抱きついていたリーア。


クリス:「……」


一瞬の沈黙。


クリス:「……やり過ぎました」


苦笑しながら、クリスはぺろりと舌を出した。



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