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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第5話 岩戸の前の対決 前編

クリス:「やはり、君だったのか。シャルクス」


不意に、背後から声がした。


リーアの奇行に気を取られていたシャルクスは、びくりと肩を震わせ、反射的に振り返る。


そこに立っていたのは――見慣れない青年だった。


長いローブをまとい、手には杖。


立ち姿は落ち着いているが、その目にはどこか懐かしさと、わずかな挑発が滲んでいた。


シャルクス:「なに……誰だ、お前は」


低く、警戒を含んだ声。


青年は困ったように眉を下げ、苦笑した。


クリス:「なんだよ。僕のこと、忘れたのかい?」


そう言って、一歩前へ出る。


シャルクスは眉をひそめ、青年の顔をじっと見つめた。


どこかで見た気がする。


だが、記憶の底に沈んだ輪郭は、どうしても掴めない。


頭の奥が、ざわつく。


クリス:「クリスだよ。クリス・ロールブレア」


その名が告げられた瞬間――


先に反応したのは、シャルクスではなかった。


メディル:「ロールブレア……?」


隣に立つメディルの瞳が、すっと細くなる。


その声には、わずかな驚きと警戒が混ざっていた。


メディル:「アーポットは、この国の王家とも付き合いがあるのかい」


鋭い指摘だった。


だがクリスは、口元をわずかに歪めるだけだった。


クリス:「それだけじゃないんだけどね。魔女さん」


挑発するような視線が、メディルへ向けられる。


それを受けたメディルは――


妖しい光を瞳に宿し、にやりと笑った。


その瞬間。


シャルクス:《闇の剣よ》


低い詠唱が、空気を裂いた。


虚空に黒い魔力が集まり、漆黒の剣が形を成す。


次の瞬間、それは一直線にクリスへと斬りかかった。


クリス:「っ!」


咄嗟に杖を構える。


キィンッ!


硬質な音が地下空間に響き、闇の剣が弾かれた。


クリス:「シャルクス!」


呼びかける声。


だが、シャルクスは答えない。


血走った瞳には、かつての面影など欠片もなかった。


シャルクス:「お前が誰だろうと――俺の邪魔はさせねぇ」


その声は、もはや言葉というより、獣の唸りに近かった。


クリスは杖で剣を受け止めたまま、シャルクスの目を見据える。


そして――すぐに察した。


クリス:「その目……操られているな」


闇の剣を押し返しながら、クリスの視線がメディルへ向く。


鋭い睨み。


しかしメディルは、くすりと喉を鳴らすだけだった。


シャルクス:「うるさい!」


叫ぶなり、シャルクスは後方へ跳んだ。


クリスも同時に距離を取る。


黄金色に染まる地下空間を挟み、二人は向かい合った。


シャルクス:《黒炎!》

クリス:《雷光よ!》


闇の奥から生まれた、黒炎の球。


蒼白く輝く、雷光の球。


二つの魔法が宙を走り――


激突した。


ドォン!!


爆裂音が地下空間を震わせる。


衝撃波が石壁を揺らし、黄金の輝きが乱反射した。


黒と蒼の光がぶつかり合い、火花のように散っていく。


その眩い閃光の中で――


シャルクスとクリスは、互いに一歩も退かなかった。


その激戦を――少し離れた場所から、メディルは楽しげに眺めていた。


黒炎と雷光が弾け、地下空間を震わせる。


その光景を前にしても、彼女の笑みは崩れない。


まるで、舞台の上で繰り広げられる芝居でも楽しんでいるかのように。


だが――


ワードック:「高みの見物か。させぬよ」


低く、腹の底に響く声が落ちた。


次の瞬間。


地を蹴る重い音と共に、真正面からひとつの影が飛び出す。


隻腕のドワーフ――ワードック。


その片腕には、身の丈に迫るほどの巨大な戦斧が握られていた。


ワードック:「ぬぅんっ!」


唸りと共に、戦斧が振り下ろされる。


メディル:「っ……!」


メディルは咄嗟に身を引いた。


だが、遅い。


ザシュッ!


鋭い刃が肩口を深く裂き、鮮血が宙に散った。


メディル:「……貴様は」


傷口を押さえながら、メディルの目が細くなる。


メディル:「隻腕の狂犬か」


その名を聞いたワードックは、目を細めた。


そして、にやりと笑う。


ワードック:「ほぉ。久しく聞かぬ名じゃがな。お前さん、よう知っておる」


メディル:「フン。魔族であんたの二つ名を知らない奴はいないわよ」


吐き捨てるように言い、メディルは肩から手を離した。


すると――


斬り裂かれていた傷口が、ぐじゅりと音を立てて蠢き始める。


裂けた肉が寄り合い、血が引き、皮膚が塞がっていく。


瞬く間に、傷は跡形もなく消えていた。


魔族特有の、異様な再生力。


ワードック:「欲望あるところに魔族あり……か」


ワードックは戦斧を構え直した。


その目に、油断はない。


ワードック:「ならば、お前さんがここに現れた理由も分かるというものじゃ」


メディル:「そういうことさ」


メディルは妖しく笑った。


次の瞬間、その指先から再び漆黒の爪が伸びる。


鋭く、長く、闇を削り出したような刃。


メディル:「邪魔をするなら、あんたから喰らってやるよ」


ワードック:「やれるものなら、やってみい」


低く言い放つと、ワードックが地面を蹴った。


同時に、メディルも闇の爪を振るう。


――ドォン!!


戦斧と魔力の爪が激突し、凄まじい衝撃が地下空間を揺らした。


片方では、シャルクスとクリスの魔法戦。


闇と雷がぶつかり合い、黒と蒼の閃光が弾ける。


もう片方では、ワードックとメディルの死闘。


鋼と魔力が火花を散らし、黄金色の空間に殺気が渦巻く。


伝説の黄金が眠る地下空間で、四人の激闘が始まっていた。


そして――


その少し後ろ。


リーア:「へへ……へへへ……」


リーアだけは、相変わらず巨大な金塊にべったりと張り付いていた。


リーア:「あったかい……金のぬくもり……」


頬ずりまでしている。


戦場のど真ん中で、彼女だけが別の意味で完全に正気を失っていた。



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