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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第3章 バカだからできること

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第4話 黄金に笑う女

その夜――。


冒険者の宿屋《アーポット亭》の地下倉庫に、二つの影が忍び込んだ。


シャルクスとメディルである。


二人は見張りの目を巧みにかいくぐり、物音ひとつ立てぬまま、薄暗い地下倉庫へと

足を踏み入れた。


だが――。


そこに広がっていたのは、想像していたよりもずっと狭く、雑然とした空間だった。


埃をかぶった樽。脚の折れた椅子。使われなくなった棚や生活雑貨の山。


どれも無造作に積み上げられているだけで、伝説の黄金が眠る場所とは到底思えない。


メディル:「何もないじゃないか」


壁にもたれ、腕を組んだまま、メディルがつまらなそうに言った。


シャルクス:「……」


シャルクスは答えない。


ただ静かにポケットへ手を入れ、一枚の金貨を取り出した。


淡い光を帯びたその金貨を、彼は目の前に掲げる。


シャルクス:《黄金よ。光の在り処を示せ》


低く唱えた瞬間――。


金貨が、眩い輝きを放った。


その光は細い一本の筋となり、地下倉庫の床の一点をまっすぐに指し示す。


メディル:「それが、アーポットのところにあった手がかりかい」


横から覗き込みながら、メディルが感心したように目を細める。


シャルクスはやはり答えなかった。


近くの棚に立てかけられていたスコップを手に取り、光が示す場所へ歩み寄る。


そして――。


ゴンッ。


迷いなく、床のレンガを叩き割った。


シャルクス:「ここだな」


砕けたレンガの隙間から、黒ずんだ鉄の縁が顔を出す。


現れたのは――古びたマンホールの蓋だった。


メディル:「そうみたいね」


メディルはあっさり頷くと、すっと一歩下がった。


そして、にっこり笑う。


メディル:「頑張ってね♪」


シャルクス:「……」


つまり、持ち上げるのは自分一人ということらしい。


シャルクスは無言のまま蓋に手をかけ、力を込める。


ギギ……と鈍い音を立て、重たい鉄蓋が少しずつずれていった。


やがて蓋が外れると、床にぽっかりと黒い穴が口を開ける。


底は見えない。


ただ、ひんやりとした空気だけが、暗がりの奥から這い上がってきた。


シャルクスは一度だけメディルを見た。


メディルは相変わらず、楽しそうに笑っている。


シャルクス:「……行くぞ」


二人は備え付けられた梯子を伝い、ゆっくりと地下へ降りていった。


降り立った先にあったのは、さらに奥へと続く細長い通路だった。


湿った石の匂い。


肌にまとわりつく冷たい闇。


どこまでも続いているような静けさの中で、シャルクスは小さく呟く。


シャルクス:《光よ》


指先に、淡い光が灯った。


柔らかな光が足元を照らし、石造りの通路をぼんやりと浮かび上がらせる。


二人は慎重に――しかし足を止めることなく、闇の奥へと進んでいった。


それから、どれほど時間が経っただろうか。


再び、梯子の上に人影が現れた。


降りてきたのは三人。


クリス、リーア、そして隻腕のドワーフ――ワードックだった。


クリスは軽やかに着地すると、周囲を一瞥し、指を鳴らした。


パチン。


クリス:《光よ》


その一言で、通路全体に光が満ちた。


壁も、床も、天井も。


闇に沈んでいた地下道の姿が、くっきりと浮かび上がる。


リーア:「まさかウチに、こんな場所があったなんてな」


リーアは物珍しそうに辺りを見回し、感心したように呟いた。


だが、クリスの顔に浮かんでいたのは驚きではない。


いつもの穏やかさを消した、引き締まった表情だった。


クリス:「さあ、行きますよ」


リーア:「ああ」


ワードックも黙って頷く。


三人は足並みを揃えた。


シャルクスたちが消えていった闇の先へ。


その後を追うように、地下通路の奥へと進んでいく。


濡れた石床に、三人分の足音が静かに響いた。





湿った空気の中、シャルクスとメディルの足音だけが、石造りの通路に静かに響いていた。


――が。


その行く手を、巨大な岩戸が塞いでいた。


通路いっぱいにそびえる、分厚い岩の扉。


古代の遺跡に眠る門のように重々しく、ただそこにあるだけで、人の侵入を拒んでい

るかのようだった。


シャルクスは指先の光を強め、岩戸を照らす。


すると、岩肌に刻まれた無数の紋様が、淡く浮かび上がった。


それは――魔術式。


シャルクス:(魔法による施錠か……しかも、かなり厄介だな)


小さく呟き、彼は岩戸に手を添えた。


冷たい石の感触が、指先から伝わってくる。


その奥には、複雑に絡み合った魔力の流れ。


いくつもの術式が重なり合い、簡単には解けないよう組み上げられている。


シャルクスは眉を寄せ、紋様をなぞりながら構造を探っていった。


だが――。


時間が経つにつれ、その顔は少しずつ険しくなっていく。


シャルクス:(……これは無理だな)


やがて、彼は小さく首を振った。


そして、後ろに立つメディルへ視線を送る。


その一瞬の仕草だけで、メディルは状況を察したらしい。


やれやれ、と言いたげに肩をすくめた。


メディル:「仕方ないね」


そう言うと、組んでいた腕をほどく。


ゆっくりと両手を掲げた。


次の瞬間――。


彼女の指先から、黒いものがぐにゃりと伸びた。


爪だった。


ただし、人のものではない。


異様に長く、鋭く、漆黒に染まったそれは、まるで彼女の影がそのまま刃になったか

のようだった。


メディル:「ハアッ!」


気合と共に、黒き爪が振り下ろされる。


ジャキィン!!


耳を裂くような硬質な音が、地下通路に響いた。


次の瞬間――。


分厚い岩戸に、斜めの亀裂が走る。


一つ。

二つ。

三つ。


まるで固い岩ではなく、柔らかな果実でも裂くように。


巨大な扉は、あっけなく切り刻まれていった。


ゴト……。


ゴトゴトゴト……!


崩れ落ちた岩の破片が、床に転がる。


その向こうに現れたのは――。


底の見えない闇だった。


通路の先に、ぽっかりと巨大な空洞が口を開けている。


シャルクス:「……」


シャルクスは息を呑み、すぐに短く詠唱した。


シャルクス:《光よ!》


指先に灯っていた魔導の光を、闇の中へ放り投げる。


光は吸い込まれるように奥へ飛び――。


ぱんっ、と弾けた。


その瞬間、暗闇が裂ける。


広がったのは、ただの白い灯りではなかった。


黄金色の輝き。


柔らかく、眩しく、それでいてどこか神々しい光が、巨大な地下空間を満たしていく。


石壁も、天井も、足元の岩肌も。


すべてが金色に染まった。


シャルクス:「これは、き……」


言葉が、喉で止まる。


だが、その続きを遮るように――。


背後から、耳をつんざく絶叫が響いた。


リーア:「金塊だあああああああ!!」


シャルクス:「!?」


思わず振り返る。


そこに立っていたのは、昼間、街中で自分を追いかけ回してきた女。


アーポット亭の女将、リーアだった。


しかも――。


その目が、完全に金色の輝きにやられていた。


リーア:「うおおおおおおおお!!」


リーアは雄叫びを上げ、一直線に突っ込んでくる。


シャルクス:「な、なんだぁ……!?」


呆然とするシャルクスとメディルの横を、リーアは風のように駆け抜けた。


迷いはない。


ためらいもない。


彼女の視線は、ただ一点だけを捉えていた。


黄金色に輝く地下空間の中央。


そこに――巨大な黄金の鉱塊が鎮座していた。


人の背丈を遥かに超える大きさ。


ごつごつとした表面からは、眩い黄金の光が溢れ出している。


まるで、この世の富という富を無理やり一つに押し固めたような、圧巻の輝きだっ

た。


リーア:「大金持ちだあああああ!!」


目を爛々と輝かせながら、リーアは黄金へ飛び込む。


そして――。


獲物に食らいつく獣のように。


巨大な黄金の鉱塊へ、勢いよく抱きついた。




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