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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第2章 無法者たちの憂鬱

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第6話 回想:二人の出会いは必然

ことり――。


小さな音を立てて、カミーアはグラスをカウンターに置いた。


底にわずかに残った酒が、琥珀色の波紋を静かに揺らす。


カミーアはしばらく、その揺れをじっと見つめていた。


カミーア:「……マスター」


低く、抑えた声。


カウンターの奥で忙しそうに立ち働いていたマスターが、磨き上げたグラス越しに、


ちらりと視線を寄越す。


カミーアは顎をしゃくった。


視線だけで、店の隅にあるテーブル席を示す。


カミーア:「……あいつか。親父のこと、嗅ぎ回ってるのは」


そこに座っていたのは、ひとりの青年だった。


背筋をぴんと伸ばし、静かにグラスを傾けている。


姿勢も、纏う空気も、この酒場にはどうにも馴染んでいない。


場違いだった。


だからこそ、目立つ。


マスター:「ああ、そうだよ。最近、ちょくちょく来ているな」


マスターは手を止めることなく答え、ふっと目を細めた。


カミーア:「何を探ってるんだ、あいつ」


素っ気なく言いながらも、カミーアの視線は自然と青年へ向いていた。


マスター:「さあね。差し詰め、親父さんに憧れて会いに来たんだろうさ。よくいる

輩だよ」


ロッド・プラント。


この辺り一帯で名を馳せる盗賊団の頭。


その無頼な生き様に憧れ、近づこうとする若者は後を絶たない。


マスター:「気になるのかい?」


その一言に、カミーアの眉がぴくりと跳ねた。


カミーア:「は? そんなわけないだろ」


即答だった。


だが――。


カミーア:「……ああいう辛気臭いのは、見てるだけでムカつくだけだ」


言いながら、ほんのわずかに言葉が詰まる。


マスターの目が、妙に柔らかい。


心の奥を見透かされたようで、どうにも居心地が悪かった。


マスター:「ムカつく、ねぇ」


マスターは肩をすくめる。


それから、ふと思い出したように顎をさすった。


マスター:「そういえば、一味に魔法を使える奴が欲しいって言ってなかったか

い?」


カミーア:「だから?」


マスター:「彼、魔法を使えるみたいだぞ。どうする?」


意味ありげな微笑み。


カミーアは、数秒だけ黙り込んだ。


酒場のざわめきだけが、やけに耳につく。


やがて――。


カミーア:「……あーもう、分かったよ。行ってくる」


カミーアはグラスの中身を一気に飲み干した。


喉を焼く酒の熱を振り払うように、勢いよく立ち上がる。


ギィ、と椅子が小さく軋んだ。


マスター:「頑張れよ」


からかい半分の声音。


カミーアは振り返りざま、じろりとマスターを睨みつけた。


だが、言い返しはしない。


そのまま青年の座るテーブルへ向かって歩き出した。


シャルクスは、静かにグラスを傾けていた。


琥珀色の酒がゆらりと揺れ、天井の灯りを受けて鈍く光る。


その揺らぎを、ただ無言で見つめる。


――そのとき。


カミーア:「なあ、アンタ」


低く、刃のように鋭い声が落ちた。


沈んでいた意識が、ふっと引き上げられる。


シャルクスはゆっくりと振り返った。


いつの間にか、目の前にひとりの女が立っている。


鋭い瞳。


隠そうともしない警戒心。


射抜くような視線が、真正面から突き刺さっていた。


カミーア:「あんたか。ロッド・プラントのことを嗅ぎ回ってる奴ってのは」


その言葉に、シャルクスは内心で小さく笑った。


シャルクス:(手下か。……なら、好都合だな)


ロッド・プラントに近づくため、この酒場には何度も足を運んできた。


だが、肝心の本人にはいまだ会えていない。


ここで関係者と接触できるなら、悪くない。


シャルクス:「ああ、そうだ。ロッドさんに会いたくてね」


声は落ち着いていた。


余計な色を混ぜないよう、慎重に言葉を選ぶ。


カミーア:「やっぱりな。あんたも親父に憧れてる口か」


女――カミーアの目が、わずかに細められる。


シャルクス:「……親父?」


思わず聞き返した。


ほんの少しだけ、声が鈍る。


カミーアは鼻で笑った。


カミーア:「あたいはロッド・プラントの娘さ」


シャルクス:「む、娘……?」


今度は、はっきりと声が裏返った。


思わず、目の前の女をまじまじと見つめ直す。


鋭い目つき。


隙のない立ち姿。


そして、張りつめた空気。


確かに、ただの客ではないと思っていたが――まさか娘とは。


シャルクス:(……娘か。これは、やりにくいな)


ロッドを知る者の中でも、最も厄介な立場。


ごまかしも、はったりも、通じない可能性が高い。


カミーア:「親父は生粋の無法者だ」


カミーアは腕を組む。


カミーア:「生半可な気持ちじゃ、会わせるわけにはいかないね」


探るような視線が、まっすぐに突き刺さる。


シャルクスは一瞬だけ視線を落とした。


グラスの中の酒が、冷たく揺れる。


シャルクス:「……生半可じゃないさ」


短い答えだった。


だが、顔を上げたその瞳は、まっすぐだった。


互いの視線が絡み合う。


酒場のざわめきが、少しだけ遠のく。


数秒の沈黙。


――先に目を逸らしたのは、カミーアだった。






カミーア:「……あんた、あたいらの仲間になる気はないかい?」


カミーアの声色が、ふっと変わった。


さっきまで刺すようだった視線が和らぎ、表情にもどこか穏やかな色が差す。


まるで別人のような顔で、彼女は言った。


カミーア:「うまく立ち回れば、親父に近付けるぞ」


静かな声だった。


だが、その奥にあるのは、ただの計算だけではないように聞こえた。


ロッド・プラント。


盗賊団の頭領に会う。


それがどれほど難しいことか、シャルクスにも分かっている。


たしかに――仲間になれば、その機会は巡ってくるかもしれない。


だが。


シャルクスは、ゆっくりと首を振った。


シャルクス:「悪いけど、君らの仲間になるつもりはないよ」


即答だった。


カミーアの眉が、わずかに動く。


ほんの一瞬、沈黙が落ちた。


カミーア:「確かに、あたいらは盗賊――いや、無法者の集まりさ」


カミーアは視線を落とした。


長い睫毛の影が、頬にかかる。


カミーア:「だけどな」


声が、少し低くなる。


カミーア:「そういう生き方しかできない連中の集まりなんだ。……あんたも、そう

じゃないのかい?」


まっすぐな言葉だった。


鋭くて、逃げ道がない。


シャルクス:「……」


シャルクスは答えられなかった。


かつては貴族。


今は放浪者。


生きるために、法を破ったこともある。


彼女の言葉は、否定できない場所を突いていた。


沈黙が、わずかに重くなる。


カミーア:「親父が盗賊団の頭をやってるのはな」


気づけば、カミーアはシャルクスの向かいに腰を下ろしていた。


身を乗り出し、真っ直ぐに見据えてくる。


カミーア:「そういう連中のためなんだ。行き場のない奴らを、まとめてるだけさ」


次の瞬間。


――ドンッ。


カミーアの拳が、テーブルを叩いた。


酒が波打ち、グラスがかすかに鳴る。


カミーア:「自分のために法を犯してるわけじゃない!」


シャルクス:「そ、そうなのか……」


思わず、シャルクスは身を引いた。


カミーア:「だけど……」


ふいに、カミーアがため息をこぼす。


さっきまでの勢いはどこへやら。


両肘をテーブルに落とし、がくりと項垂れた。


シャルクス:「……だけど?」


あまりの変わりように、シャルクスは思わず顔を引きつらせる。


次は何が飛んでくるのか。


無意識に身構えた、その直後だった。


カミーア:「あたいはさ! 親父の手伝いをしたいんだけど、親父がさせてくれないのよっ!」


ばっと顔を上げ、勢いよく身を乗り出してくる。


一気に距離が縮まった。


シャルクス:「ま、まあ……それは仕方ないんじゃないかな」


椅子を少し引きながら、シャルクスは宥めるように言った。


娘に危ない橋を渡らせたい親など、そうはいないだろう。


カミーア:「今、親父は魔法を使える奴を探してるんだ」


カミーアは真剣な目で言った。


カミーア:「あんたを連れていけばさ、あんたと一緒に、あたいも使ってくれると思

うんだ」


……なるほど。


そういう魂胆か。


シャルクスは視線を伏せ、顎に手を当てた。


シャルクス:「でもなぁ。仲間になるつもりはないって言っただろ」

軽く唸る。


カミーア:「少しの間でいいんだ! ダメなら、すぐ抜けてもいいから……!」


さっきまで盗賊団の矜持を語っていた人物とは思えない必死さだった。


シャルクス:「宗教の勧誘か」


カミーア:「頼む!」


ついにカミーアは両手を合わせ、拝み始めた。


シャルクスはしばらく、その姿を眺めていた。


それから――


ふっと、苦笑を浮かべる。


シャルクス:「……分かったよ。少しの間だけだぞ」


カミーア:「ほんとか!?」


ぱっと、カミーアの顔が明るくなった。


カミーア:「よかった! あたいはカミーア・プラント!」


勢いよく片手を差し出してくる。


シャルクス:「シャルクスだ」


その手を握り返す。


カミーア:「よろしく、シャル」


握った手を離さないまま、カミーアはにかっと笑った。


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