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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第2章 無法者たちの憂鬱

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第5話 魔女は欲望を喰らう

ロイドスは、ソファに深く身を沈めたまま、ふと目を細めた。


ロイドス:「それで……黄金の手がかりは、あったんですか?」


静かな問いだった。


だが、その瞳だけが、ぎらりと鋭く光る。


ワッツは鼻を鳴らした。


椅子の背にもたれ、いかにも面倒くさそうに答える。


ワッツ:「ねぇよ。ガセだったんだろ」

忌々しげに舌打ちし、投げやりに吐き捨てた。


――だが。


ロイドスは、眉ひとつ動かさない。


それどころか、真顔のまま淡々と言った。


ロイドス:「嘘ですね」


ワッツ:「……なんだと?」


ワッツの目が、すっと細くなる。


鋭い視線が、ロイドスを射抜いた。


しかしロイドスは、その視線さえ面白がっているように、涼しい顔で受け流す。


ロイドス:「今日は何をしに来たんですか、ワッツさん」


声は静かだった。


その落ち着き払った態度が、かえってワッツの癇に障る。


しばしの沈黙。


部屋の中で、互いの視線だけがぶつかり合った。


やがて――。


ワッツ:「……チッ。敵わんな、オメェには」


ワッツは舌打ちしながら、ふっと口元を緩めた。


苦笑とも、皮肉ともつかない笑みだった。


ロイドスはその変化を見逃さない。


静かに、言葉を重ねる。


ロイドス:「ここに来たのは、何か“あった”からですよね」


ワッツは、くくっと喉を鳴らした。


そして、ロイドスの瞳を真っ直ぐ見返す。


ワッツ:「手下がな。そこで面白れぇ奴を見たって言うんだ」


ロイドス:「面白れぇ奴?」


ワッツ:「ああ。見ただけらしいがな」


ロイドスの眉が、わずかに寄った。


ロイドス:「どなたです?」


その問いに、ワッツの口角がゆっくりと吊り上がる。


ワッツ:「昔の仲間だった。シャルクスってやつだ」


そして、低く付け加えた。


ワッツ:「……知ってんだろ?」


その名が出た瞬間。


ロイドスの顔から、すっと笑みが消えた。


ロイドス:「シャルクスさん? さあ、知りませんね。どちら様でしょう?」


苦笑を浮かべ、肩をすくめてみせる。


しかし――。


ワッツの目は、まったく笑っていなかった。


ワッツ:「とぼけんな」


低く、鋭い声。


ワッツ:「そいつも黄金を狙ってんだ。オメェが知らねぇわけねぇだろ」


刃のような言葉が、二人の間に落ちた。


ロイドスは一度だけ視線を逸らし、困ったように顔を伏せる。


その仕草は、いかにも弱った者のそれだった。


だがワッツには分かっていた。


こいつは、追い詰められているわけじゃない。


ただ、次にどの嘘を吐くか――選んでいるだけだ。



――その瞬間だった。


メディル:「シャルクス・ラスパル、か」


隣室の扉が、ゆっくりと開いた。


きしり、と蝶番が小さく鳴る。


その音に続いて、ひとりの女が姿を現した。


ワッツ:「てめぇは……」


低く、喉の奥で唸るような声だった。


女がまとっている空気を感じ取った瞬間、ワッツの身体は勝手に動いていた。


腰が浮く。


次の瞬間には、ソファから立ち上がっている。


目の前の女は、妖しい笑みを浮かべたまま、音もなく歩み寄ってきた。


ワッツの目が、すっと細くなる。


ワッツ:「なんでテメェがここにいるんだぁ。メディル」


警戒を隠す気など、まるでない。


だが、その横でロイドスだけは、相変わらず涼しい顔をしていた。


ソファに腰掛けたまま、軽く肩をすくめる。


ロイドス:「あなたがしくじるからですよ」


あっさりと言い放った。


ロイドス:「ガスパー様がよこしたんです」


苦笑を浮かべ、やれやれと言わんばかりに続ける。


ワッツ:「ガスパーがねぇ」


ワッツは、ふっと鼻で笑った。


張りつめていた警戒が、ほんの少しだけ緩む。


その反応を楽しむように、メディルが口を開いた。


メディル:「シャルクスはね、バルデンの弟子だったハルト・ラスパルの息子さ」


ワッツ:「ほぉ……」


ワッツは腕を組み、ゆっくりと頷いた。


ワッツ:「だからあいつは、バルデンの黄金のことを知ってたのか」


メディルは、値踏みするような目でワッツを見つめる。


絡みつくような視線だった。


メディル:「勘のいい男は嫌いじゃないよ」


ワッツは鼻で笑い、その視線を受け流した。


ワッツ:「なるほどな」


そして、今度はロイドスへ目を向ける。


ワッツ:「シャルクスは、オメェらに追い出された貴族ってわけか」


ロイドス:「よしてくださいよ。人聞きが悪い」


ロイドスは、ゆっくりとソファから立ち上がった。


背筋を伸ばし、いつもの整った笑みを浮かべる。


ロイドス:「世の中は弱肉強食です」


淡々とした声だった。


ロイドス:「あなたなら、わかるでしょう?」


ワッツは一瞬だけ視線を逸らした。


そして、静かに頷く。


ワッツ:「……そうだな」


ロイドスは満足そうに頷くと、背中で手を組んだ。


ロイドス:「ところで」


そこで、わずかに間を置く。


ロイドス:「頼みたいことがあるんですが……」


その視線が、どこか媚びるようにワッツへ向けられた。


ワッツは露骨に顔をしかめる。


ワッツ:「またかぁ」


ロイドス:「ロメオドス街道でのお仕事に、戻っていただきたいんです」


ワッツの眉が、ぴくりと動いた。


ワッツ:「そっちで勝手に外しといてか」


ロイドス:「ええ、そうなんですが」


ロイドスは苦笑した。


ロイドス:「どうも商人どもが、腕利きの冒険者を護衛に雇ったようでしてね」


ロイドス:「ここのところ、失敗続きなんですよ」


ワッツ:「……腕利きの冒険者ねぇ」


ワッツは顎を撫でる。


少しだけ興味を引かれたように、目を細めた。


ワッツ:「黄金の方はどうすんだ」


ワッツ:「アーポットが相手なんだろ」


その言葉に、メディルが割り込んだ。


メディル:「それは、私がやることになった」


ワッツは、ゆっくりとメディルへ視線を向ける。


メディル:「アンタは大人しく、言われたことをやればいいのさ」


メディルは鋭い視線を向けたまま、舌で唇をなぞった。


ワッツ:「……」


ワッツは無言で睨み返す。


その不気味な仕草に、眉ひとつ動かさない。


沈黙を破ったのは、ロイドスだった。


ロイドス:「私もバックアップを頼まれています」


肩をすくめながら、軽く続ける。


ロイドス:「まあ、こちらのことは心配なさらなくても結構ですよ」


ワッツはしばらく黙っていた。


だが、やがて小さく息を吐く。


ワッツ:「分かったよ。受けてやる」


不満げな顔のまま、そう答えた。


ロイドスの顔に、満足げな笑みが浮かぶ。


ロイドス:「ありがとうございます。ガスパー様も、さぞお喜びになると思います

よ」


ワッツ:「そうかい」


投げやりに返すと、ワッツはそのまま踵を返した。


応接室の扉を開け、廊下へ出る。


扉が閉まる。


その音を背中で聞きながら、ワッツはひとり、誰もいない廊下を歩き出した。


そして――。


ワッツ:「あいつも、俺たちと同じだったのか」


ぽつりと落ちた呟きは、薄暗い廊下に静かに溶けていった。




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