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食えない奴らの黄金争奪戦 〜アーポット亭の黄金〜凄腕の冒険者たちが営む宿屋に眠る伝説の黄金  作者: 春夏かなた
第2章 無法者たちの憂鬱

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第3話 孤独な狂戦士 ワッツ・バンプス

煌びやかな衣装をまとった貴族や商人たちが行き交う大通り。


宝石のきらめき。

鼻につくほど濃い香水の匂い。

金と権力に彩られたその喧騒の中を――ひときわ場違いな男が歩いていた。


背中に背負っているのは、常人なら両手でも持ち上げられないほど巨大な

剣闘士の剣(グラディウス)


男の名は、ワッツ・バンブス。


背丈だけなら、通りを歩く男たちと比べて特別大きいわけではない。

だが、鋼のように鍛え上げられた肉体と、獲物を探す獣じみた眼光が、周囲の視線を否応なく引き寄せていた。


「……誰だ、あれ」

「物騒な奴が来たぞ……」


ひそひそとした囁きが、あちこちから漏れる。


だがワッツは、そんな視線など最初から存在しないかのように、堂々と大通りを進んでいった。


やがて、通りの中でもひときわ豪奢な商館の前で足を止める。


磨き上げられた石壁。

重厚な扉。

見る者に、ここがただの商館ではないことを思い知らせる造りだった。


ワッツは一度だけその建物を見上げると――


何のためらいもなく、扉を押し開けた。


中は広々としたロビーだった。


磨き抜かれた床に、豪華な装飾柱。

壁には高価そうな絵画が飾られ、天井から吊るされたシャンデリアが淡い光を落としている。


富と権力を誇示するためだけに作られたような空間。


その空気の中に、ワッツという男はあまりにも似合わなかった。


受付に立っていた若い女性が、彼の姿を見た瞬間、ぴくりと肩を震わせる。

それでも仕事柄、すぐに笑顔を作った。


受付嬢:「い、いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしても……?」


声が、わずかに上ずっている。


ワッツは口の端を吊り上げた。


ワッツ:「ワッツ・バンブスだ。ロイドスに会いに来た。いるんだろ」


低く、喉の奥で唸るような声だった。


その名を聞いた瞬間――

受付嬢の顔が、はっきりとこわばった。


ロイドス・ロイド。


ガスパーの第一秘書にして、最も信頼されている腹心。

普段、表舞台に姿を見せないガスパーに代わり、裏でも表でも商会を動かす重役である。


間違っても、ワッツのような男が気軽に訪ねていい相手ではない。


受付嬢:「ア、アポイントメントは……お取りでしょうか?」


恐る恐る問いかける。


ワッツは肩をすくめた。

そして、さらに笑みを深くする。


ワッツ:「んなもん、取ってねぇよ」


受付嬢:「あ、ちょっ……困ります。お待ちくださ――」


制止の声を置き去りにして、ワッツはずかずかと奥の廊下へ踏み込んだ。


その瞬間だった。


奥の通路から、甲冑に身を包んだ守衛たちが飛び出してくる。


守衛:「待て、貴様――」


言い終えるより早かった。


ブンッ!!


ワッツの拳が、唸りを上げて振り抜かれる。


守衛:「ぐえっ!」


鉄兜ごと顔面を打ち抜かれた守衛が、背中から壁に叩きつけられた。

甲冑が派手な音を立て、男はそのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


ロビーの空気が凍りついた。


ワッツは軽く拳を振ると、鼻で笑った。


ワッツ:「俺を止めたきゃ、殺す気で来な」


そして、獣のように口元を歪める。


ワッツ:「……ま、それでも無理だけどな」


挑発だった。


だが――それは、ただの大口ではない。


守衛たちが一斉に剣を抜いた。


刃がきらめき、甲冑が床を鳴らす。

次の瞬間、彼らはワッツへ向かって殺到した。


だが。


ワッツの体が、ふっと沈む。


振り下ろされた剣が、彼の頭上を空しく通り過ぎた。

次の瞬間、ワッツの拳が守衛の腹部にめり込む。


ドゴッ!


くぐもった悲鳴。

甲冑越しだというのに、衝撃は容赦なく内側まで突き抜けた。


別の守衛が横合いから斬りかかる。


ワッツは半歩下がってそれをかわすと、膝を突き上げた。


ガンッ!


兜が跳ね、守衛の体が宙に浮く。


さらに一人。


メキッ!


拳が甲冑を歪ませ、男が廊下の壁に叩きつけられる。


拳が唸る。

膝が跳ねる。

肘が走る。


そのたびに、甲冑が軋み、悲鳴が廊下に響いた。


守衛たちの剣は、ワッツの体をかすめることすらできない。

彼は重そうな剣を背負ったまま、まるで何の負荷も感じていないように動いていた。


軽やかに。

荒々しく。

そして、迷いなく。


戦場を渡り歩いた猛獣が、檻の中に迷い込んだ兵士たちを蹂躙するように。


やがて――


廊下に立っている守衛は、一人もいなくなっていた。


倒れた男たちが、床の上に折り重なるように転がっている。

うめき声だけが、かすかに響いていた。


ワッツは首を軽く鳴らす。


ゴキリ。


それから、くるりと振り返った。


視線の先には、受付嬢がいた。

彼女は青ざめた顔で、カウンターの奥に立ち尽くしている。


ワッツ:「で?」


その一言だけで、受付嬢の肩がびくりと跳ねた。


受付嬢:「……ロ、ロイドス様は……応接室で接客中です……」


かすれた声で、ようやく居場所を告げる。


ワッツは満足そうにニッと笑った。


ワッツ:「ありがとよ」


それから、床に転がる守衛たちを親指で指す。


ワッツ:「こいつら、役立たずだ。もっと腕利きを雇いな」


言い残して、ワッツは奥の廊下へ歩き出した。


次の瞬間。


ワッツ:「はははははっ!」


豪快な笑い声が、商館のロビーに響き渡る。


その声を残し――

ワッツ・バンブスは、倒れた守衛たちの間を踏み越えるようにして、応接室へと向かっていった。

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