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『ノロマ、死ぬなよ』〜毒舌カバンと最弱少年の英雄譚〜  作者: 塩とわかめ
第二章:沈黙の相棒と、孤独な剣士の反撃
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第69話:ユートの選択

 ミラがユートの体を抱きしめて泣いている。

 アルトは膝をつき、震えたまま動けなかった。


 広間は静かだった。

 二つの戦いは終わった。こんな終わり方で。


「——ふふ」


 笑い声が聞こえた。


「ふふふふ……」


 ディアルだった。

 片腕の魔族が、穏やかに——心の底から嬉しそうに笑っている。


「素晴らしい。——実に、素晴らしい」


「あなた方には、感謝の言葉を述べなければなりませんね」


「——何を……言って……」


 アルトが掠れた声で言った。


「これで全てが揃いました」


 ディアルの笑みが、深くなった。


「魔王様復活の条件——その剣士の魔核が魔道具に取り込まれた今、人間の限界を超えた絶望のエネルギーは魔道具の中に。妖精の魔力はあの小娘が。魔王様の魂は魔道具の中に封印されたまま。そして——高位の魔族の肉体」


 ディアルが一歩、踏み出した。


「——全て、揃いました。ありがとうございます」


「そん、な——」


 ユートの犠牲が——ディアルの計画を完成させた。

 その事実が、アルトの頭を殴りつけた。


 ——だがそれを理解する暇すら、与えられなかった。


 ディアルが動いた。

 一瞬。

 まばたきの間に——アルトの目の前に立っていた。


「では——頂きますね」


 ディアルの手がバルを掴み取った。

 アルトから引き剥がすように——軽々と。


「バ——ッ!!」


 同時に、ディアルの片腕から放たれた魔力の衝撃波が、アルトの体を吹き飛ばした。


「がはっ——!!」


 壁に叩きつけられ、全身に衝撃が走る。


 ミラも——ユートの体を抱いたまま、衝撃波に巻き込まれて吹き飛んだ。


「きゃあっ——!!」


 ユートの体と一緒に床を転がり、広間の隅に打ち付けられる。


 たった一撃。

 ディアルの片腕から放たれた、たった一撃で——二人ともが動けなくなった。


 * * *


 ディアルがバルを持って、魔法陣に向かって歩いていく。


『——離せッ!! この野郎ッ!! 離しやがれッ!!!』


 バルが叫んだ。口をバタバタと開閉させ、ディアルの手に噛みつこうとする。だが——封印で力の大半を失ったバルでは、ディアルに傷一つつけられない。


『アルトッ!! アルトォォッ!!! 来いッ——助けに来いッ!!!』


 アルトは壁の下で呻いていた。体が動かない。衝撃で肺が潰れたかのように、息ができない。


「バル……ッ」


 手を伸ばす。だが——届かない。


 ディアルが魔法陣の前に立った。

 リアラが繋がれたまま、その光景を見ていた。


「——あなたは……」


 リアラがかすれた声で言った。


「何を、しようとして——」


「魔王様をお迎えするのです」


 ディアルが穏やかに微笑んだ。

 そしてバルを魔法陣の中心に置き——自身も、魔法陣の上に立った。


「さぁ——始めましょう」


 ディアルの両腕が、天に向かって掲げられた。


 魔法陣が——轟音を上げて起動した。


 * * *


「あああああああああああああああ!!!!」


 リアラの悲鳴が広間を引き裂いた。

 エメラルド色の光がリアラの体から引き出されていく。妖精の血族の魔力が、魔法陣に吸い上げられていた。


「リアラ!!!」


 アルトが叫んだ。体を無理矢理に動かす。必死に立ち上がり、魔法陣に向かって走った。


『ギャアアアアアアアッ——!!!!』


 バルの絶叫が重なった。

 魔法陣の力に捕らわれ、バルの体が宙に浮かぶ。赤黒い光がバルを包み、取り込まれた魔核のエネルギーと——その中に封印された魔王の魂を、強制的に引き抜こうとしていた。


『痛い——ッ!! いでぇぇぇ——!! 俺の中から——何かが——引っ張り、出され——いでぇよぉぉぉッ!!!』


 バルの傷跡の銀色の紋様が砕けていく。

 赤黒い光の塊が亀裂から噴出し——魔王の核が、バルから引き抜かれた。


『…………いてぇ……よ……畜生……』


 バルの声が震えた。泣いているようだった。


 リアラの魔力。

 バルの中のユートの心臓の代わりをしていた魔核と、奥底に封印されし魔王の核。

 三つの条件が一点に集束していく。


「お待たせしました——ルーナ様」


 ディアルが最後に微笑んだ。


「あなたの忠実な僕が——最後の扉を開きます」


 ディアルの体が——魔力に変換されていく。肉体が解け、赤黒い光となって魔法陣に吸い込まれていく。笑みを浮かべたまま。満足げに。


「人間の皆さん。——どうか、覚えておいてください。私たちがなぜ怒っていたのかを」


 ディアルが——消えた。


 四つ目の条件が満たされる。


 魔法陣が、最大の輝きを放つ。


「リアラ——ッ!!! バル——ッ!!!」


 アルトが魔法陣に飛び込もうとした。


 ——弾かれた。


 溢れ出す魔力の嵐が壁のように立ちはだかり、アルトの体を吹き飛ばした。何度立ち上がっても、何度突進しても——弾かれる。


「くそッ——くそッ!! 届けよ——ッ!!!」


 ミラは——動けなかった。

 ユートの体を抱いたまま、魔法陣を見つめている。涙が流れているのに、声が出ない。何も——何もできない。


 バルが——リアラが——ユートが——


 全てが、奪われていく。


 魔法陣の光が、天を貫いた。

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