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『ノロマ、死ぬなよ』〜毒舌カバンと最弱少年の英雄譚〜  作者: 塩とわかめ
第二章:沈黙の相棒と、孤独な剣士の反撃
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第53話:新たなる四人

 ミラとの合流から一週間が経った。

 三人と一つのパーティは、ユートの痕跡を辿りながら北東への道を進んでいた。


 移動しながらの連携訓練が日課になっていた。

 道中で遭遇する魔物を利用して、アルトとミラの新しいコンビネーションを磨いていく。二年前の「何もできない少年」と「杖を振り回すだけの魔法使い」は、もうどこにもいない。


「ミラさん、左に三体! 僕が前衛で引きつけるから、五秒後に炎を!」


「了解!」


 アルトが三体の魔物の前に飛び出し、挑発するように剣を閃かせる。魔物の注意が一斉にアルトに向いた瞬間、アルトは左に身をかわし、射線を開ける。

 隙ができた瞬間にミラの精密な炎の魔法が叩き込まれる。以前のミラなら広範囲に火を撒いていたが、今は針のように細い炎の槍を三方向に同時射出できる。一体一体の急所を正確に貫いた。


『おーおー、なかなかいい連携じゃねぇか。でもな、五秒は長ぇんだよ。三秒に縮めろ、ノロマ! 昔のお前はもっとテンポよく——いや、昔のお前は腰が抜けてただけだったな。ガハハ! てかトマト女、精度すげぇな。いつからそんな器用になったんだ?』


「バル、実況するなら的確にしてくれ」


『的確だろうが! 俺の実況に文句つける奴ぁ百年早ぇ! 今のでいえば、ノロマの引きつけが0.3秒遅い。もっと早く動け。あとトマト女の炎、右端の一体への着弾がわずかにズレてる。急所から五センチ外れた。腹の鱗が薄いからたまたま貫通したけど、上級魔物相手じゃ致命的だぞ』


 ミラが舌打ちした。悔しそうな顔だが、否定はしない。バルの指摘が正確だと分かっているからだ。


 バルの「口だけ参戦」は、うるさくはあるが実際に役立っていた。バルは魔物の気配に敏感で、アルトの観察眼が届かない背後や死角の異変をいち早く察知して警告してくれる。武器を出せなくても、バルは間違いなくパーティの一員として機能していた。

 リアラも後方支援として、水場や安全な退避場所の選定、戦闘後の手当てをこなしている。四人それぞれの役割が、自然と決まりつつあった。


 * * *


 ある日の午後。小さな渓流のほとりで休憩している時、事件が起きた。


 渓流の上流から、二体の上級魔物が突如として現れたのだ。水棲の竜種で、体長は四メートル。青黒い鱗が水を弾き、鋭い牙が太陽の光を反射している。滝壺から飛び出した二体が水飛沫を上げながら同時に襲いかかってきた。


「二体同時——!」


 アルトが一体を引きつけるが、もう一体がリアラの方へ回り込んだ。渓流を迂回して、岩場の影から忍び寄る。知能の高い個体だ。


「リアラ、逃げて!」


「間に合わない——!」


 ミラが杖を向けたが、アルトを襲っている一体との交差射線上にリアラがいる。このまま撃てばリアラを巻き込みかねない。


 リアラに牙が迫る。巨大な口が開き、水と腐った魚の匂いがリアラの顔に叩きつけられる。


 ——その瞬間。


 リアラの瞳がエメラルドに変色し、魔力が爆発的に放出された。

 魔力の衝撃波が水棲竜を弾き飛ばし、渓流の水面が大きく割れた。しぶきが虹を描いて空に散る。四メートルの巨体が、紙のように吹き飛んだ。


 ミラの目が見開かれた。

 魔法使いとしてのミラの鋭い感覚が、リアラの魔力の「質」を正確に捉えていた。アルトが漠然と感じていた違和感を、ミラは専門家として即座に分析した。


(この魔力——人間のものじゃない。魔道具を介した変換でもない。もっと根源的で、世界に直接触れているような——まさか)


 戦闘が終わった後。アルトがもう一体を魔法剣で仕留め、リアラが膝から崩れ落ちたのを確認してから、ミラがリアラに歩み寄った。


「……リアラ。ちょっとあんたの手、見せて」


「え? あ、うん……」


 ミラはリアラの手を取り、目を閉じて集中した。魔法使いとしての感覚で、リアラの体内を流れる魔力の残滓を読み取る。長い沈黙が流れた。


 数秒後、ミラの目が大きく開いた。


「……あんたの魔力。普通の魔法じゃない」


「前から時々出るんだけど、制御できなくて——」


「違うわ。そういう問題じゃないの。人間族の魔力は本来、魔道具を介さないと外に出せない。アルトの魔法剣ですら、バルの武器を通じて感覚を覚えたから可能になった変則的なやり方よ。でもあんたの魔力は、最初から魔道具なしで直接世界に作用してる。これは——」


 ミラが言葉を切った。

 長い沈黙の後、慎重に口を開いた。


「リアラ。あんた……もしかして、妖精族の……?」


 リアラが目を丸くした。


「妖精族……? 何、それ。私、ただの孤児だよ。両親のことは何も知らない」


「……そう。ごめん、勘違いかもしれない。でも——あんたの魔力の質は、人間族のものとは明らかに違う。いつか、調べた方がいいかもしれないわね」


 ミラは気になることをそれ以上追及しなかった。リアラの表情が曇ったのを見て、今は深入りすべきではないと判断したのだ。

 だが、アルトに向ける目は複雑だった。「知ってたの?」と「なぜ黙ってたの?」が同時に含まれている視線。


 * * *


 その夜。リアラが眠った後、ミラがアルトに小声で話しかけた。

 焚き火は小さくなり、オレンジの明かりが二人の顔をぼんやりと照らしている。


「アルト。リアラの魔力、気づいてた?」


「……普通じゃないことは、前から感じてました。でも、僕には魔法の専門知識がないから、はっきりとは」


「あれは間違いなく、妖精族の血筋の魔力よ。魔道具なしで世界に直接干渉できるのは、元々妖精族だけの能力。人間には絶対にできないこと。……ということは、リアラは少なくとも半分は妖精族の血を引いてる」


「半分……ハーフってことですか」


「ええ。問題はね——妖精族は今、世界中で迫害されてるの。魔王討伐の余波で、人間と妖精族の関係は最悪。隠れ里も次々に潰されてる。その中で妖精の血を持つ子が一人で村にいたなんて……おそらく、両親は妖精であることを隠して暮らしていたか、あるいは——」


 ミラの声が低くなった。


「妖精ゆえに、殺されたか」


 アルトの顔が強張った。リアラが赤ん坊の頃に村の入口に置かれていたという話。両親の行方は不明。その裏にある可能性を、今なら想像できてしまう。


「……リアラには、まだ言わない方がいいですか」


「今はね。でもいつか、あの子自身が知る時が来る。その時は——ちゃんとそばにいてあげなさい」


 アルトは静かに頷いた。

 背中のバルが、ぽつりと呟いた。


『……チッ。面倒なことになりそうだな。でもまぁ、小娘のことは嫌いじゃねぇよ。俺に触ると体が温かくなるし。あの魔力、俺の中の封印をちょっとだけ緩めてくれてる気がする』


「バル……それ、前にも言ってたね」


『ああ。こいつの魔力と、俺の中の何かが、共鳴してやがんだ。妖精族の力ってことは、世界の根源に近い魔力だってことだ。そういう力が俺の封印に反応するってことは……俺の中身も、世界の根っこの方に関係してるのかもしれねぇ。……何でかは知らねぇけどな』


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