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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第七章】魔王捜し編

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【第二百十六話】魔人差別

【視点:リーバルト・ギリア】

「……そう、だよね。うん……どう、なのかな……?」


 僕が恐る恐る口を開いて発した言葉に、アディは明らかに動揺した様子でそう言った。

 僕は彼女の顔を見るのが怖くて俯く。やはり良い感触ではない。

 傷つけてしまったのだろう。


「本当にごめん……アディはどっちだと……」


 僕がそう言って顔を上げてみると、彼女は目に涙を溜めて泣いていた。

 僕は咄嗟に謝ろうとして頭を下げた瞬間、彼女が「やめて!」と叫ぶ。


「大丈夫だから……ただ、ただ目にゴミが入っただけだから……」


 アディはそう言って、目を擦って涙を拭き取った。

 何かを言おうとして、結局何も言えずに口をパクパクさせるのは僕の悪い癖だ。


「何も言わなくていいよ……勘違いしていたのは私だから……」


「ちが……!」


 僕が叫ぼうとした瞬間、彼女はぱっと後ろを振り返って走り去ってしまった。

 彼女の背中を追いかけようとして、僕は走り出そうとしたが、どうも足がすくんで走ることができない。

 こういう時になんでビビってんだよ……。


 なんで僕はこう……アディと2人きりのときに限って、こういうヘマを起こすんだよ……。

 ただ素直に、あの店の主人の言葉を受け取っていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 そのことにもっと早く気づくべきだった。

 なぜこんな簡単なことに気付けなかったのか。


 僕は周りの憐れみと蔑みの視線が痛く感じてきたので、逃げるように近くの酒場へと向かった。


「……水をください」


 僕は酒場の店員にそう注文をして、席に座る。

 今から、いや、今更宿に帰るのはなんだか気が引けるのだ。

 しばらく酒場で時間を潰しつつ落ち着くことにしよう。


 僕が席に座ってから1分と経たない内に店員はコップに入っている水を持ってきた。

 僕は小腹を満たすためにと、適当にメニューからスープを選んで店員に頼み、近くにある冒険者の依頼板を見る。


 魔物の討伐依頼、薬草採取から飼い猫の捜索などの依頼から、浮気調査や部屋掃除など、もはや冒険者の仕事なのかと言っていいのかわからない依頼まである。


 周りの喧騒がやけに耳に入ってきて、イライラしてくる。

 仕方がなく僕は目を瞑って寝ようとも思ったが、まだ頼んだ料理は届いていないし、寝ていたら迷惑な客として処理されるだろうから、僕は結局耳を塞いでそのうるささをごまかした。


「野菜と大豆のスープです」


 店員がそう言ってフリル銅貨2枚分のスープとスプーンを僕の目の前に出してきた。

 僕は店員に礼を言って、スープに口を付ける。

 良くも悪くも普通の味で、可も不可もない。


 これからどうしたものか……。

 とりあえずこれを食べたら宿に戻るとして、アディになんと言おうか。

 まずは謝罪だろう。あとは……掘り返すのは気が引けるが、この際はっきりさせておくべきか。僕とアディは交際しているのかどうかを聞くべきだろう。


 彼女が僕の事を嫌っていないといいのだが……。


 僕はそのように考えながらスープを完食すると、席から立ち上がって会計をしようとした。

 その時だった。


「──邪魔するぞ」


 ふと、聞き覚えのある声がした。

 小さく生意気ながら、その実は立派な成人であり、魔王である人物の声だ。

 僕は咄嗟にその声の聴こえた方を振り返る。


 そこには、一昨日の女性が話していた、フード付きの黒いロングマントを着た人物がいた。

 先程の声といい、もし女性の話していたことが本当であれば、彼女は……。


「シビル」


 黒いロングマントは僕の発したその名前を聞いた瞬間、こちらをちらりと見て、小さく舌打ちをした。


「すまん、やっぱり……」


「待てよ、シビル」


 僕は酒場を去ろうとする黒いロングマントの肩を掴んで、そう呼び止める。

 なぜ僕を見た瞬間に離れようとしたのか、よく聞いてみたい。


「なんだ、お前さ……貴様」


「今更誤魔化すのは無理だろ」


 僕はそう言って、黒いロングマントのフードを掴んで、それを下ろす。

 黒いロングマントの顔が明らかになった。


 その顔つきは少し大人びていたものの、長い黒髪で金眼である。

 身長も幾分か伸びており、僕より5センチ程度低いぐらいにまで成長している。前までは20センチ程度は違っていたのに。

 シビルは僕の事を恨めしそうに睨んだ。


「死傷沙汰は面倒になるぞ?」


 僕は他に聴こえないように、シビルの耳元でそう言った。

 まさかいきなり殺してくるとは思わないが、それでも一応先手は打っておくべきだ。


「……座って話そう」


 シビルはそう言ってフードを被り直し、僕の手を払い除けた。そして彼女は僕が先程まで座っていた席の真正面の椅子に座る。

 僕もシビルの目の前の椅子に座り、彼女の目を見つめる。


「訊きたいことはいくつもあるけど……あのメモの文字、読めたのか?」


 僕はシビルにそう訊いてみる。

 シビルが僕の腕を再生させるときに使った治癒魔法が載ったメモは日本語で書かれていた。

 彼女は日本語が読めるのか? 異世界人である彼女が?


「まさか。我の配下の知り合いにあの言語が読める者がいた。その者の力を借りただけだ」


 配下なんてものを作ったのかと僕は驚きつつも、日本語が読める奴の方にも少しだけ関心が移った。僕と勇者以外に日本から来た人間は他にもいるらしい。

 まぁそれは別にどうでもいい。問題は次だ。


「何人使った」


「……36人だ。全てホーラとルミリクのどちらかの兵士を使った、一般人は使ってない」


 つまりは36人の命を犠牲に僕の腕を再生させたわけだ。

 いくらなんでも、費用対効果が悪すぎる。


「まさか腕を失った僕を憐れんで腕を再生したわけじゃないんだろう? 何が目的でやったんだ?」


「この姿を見てわからんのか? 治癒魔法を使った際に生贄から空間に放出される生命力を利用して、我の体を成長させた。

 我のあの体を成長させるには膨大な生命力が必要だったからな。お前さんの腕が欠損してくれて、正直良かったほどだ」


 体を成長させる目的だけで、それだけの人数を殺したのは許されるのだろうか?

 いや、相手はシビルだ。僕とは考え方が違う彼女にはこの質問はあまり適切でないだろう。


「体を成長させて、何をするつもりなんだ」


「簡単だ、魔人を人間種の頂点とさせる。我の体の成長はそのために必要な行為の一環だったのだ」


 魔人を人間種の頂点とさせる……? どうやって?

 僕がそう思っていると、彼女は長々と何かを語り始めた。


「ただの人間による魔人差別は日に日に悪化していくばかりだ。我らは人間よりも魔力量が遥かに多く、身体能力も多少は上回っている。だというのに我らは何故我らより弱い人間に疎まれ、排他されなければならない? 我にはそれが不思議でならんのだ。お前さんもわかるだろう? なぜただ己が安心をするために他種族を蔑むような奴らに我らは媚びをへつらい、奴らを受け入れて生きねばならぬか? そんな魔物どころかカスにも満たない生き物など、正直生かすより滅ぼしたほうがいいとすら我は考えている。

 だが、今の人間の数は膨大だ。そいつらを殺して回るのは少々効率が悪い。ならば人間は我ら魔人の奴隷にして有効活用すべきだ。そうは思わんか?」


「……思わないな。少なくとも、お前みたいな考えを僕は持っていない」


 僕はそう言って、そっと右手に杖を構えた。

 まさかシビルの攻撃に反応できるとは思っていないが、何もしないよりはマシだろう。

 魔法を発動しようとすればすぐさま察知されて殺されかねないため、僕はまだ魔法を放とうとはしない。


「……そうか。お前さんはまだ魔人になって短いのだったか」


 シビルはフードの下で失望したような顔でそう言って、俯く。

 その動作とは対象的に、彼女は右手を広げて天井に向かって右腕を挙げた。


「──ならば、今この場の人間を皆殺しにしてしまおうか」


 は!?


「やめろ馬鹿っっ!!」


 僕はそう叫んでシビルを吹き飛ばそうとできるだけの強風を起こしたが、彼女のその体は吹き飛ぶこと無く、ただ黒いロングマントのフードが外れ、周りの客の料理が飛んだだけだ。


 辺りの喧騒が静まり返る。


「……はは、思い知るがいい」


 シビルは笑みを浮かべ、立ち上がった。

 そうしてシビルは外れたフードをまた被り直したあと、どこかへ立ち去ろうとした。


「どこに……!」「てめぇ!」


 僕は左頬にとてつもない衝撃を受け、隣の席へと吹き飛ばされる。

 僕は前半身を机に強打して、肺から無理やり空気が出されるような感覚を覚えた。

 左頬が痛い……。

 

 どうやら激昂した客に殴られてしまったらしい。

 激昂した客はガタイが良く、服の上からでも非常に鍛え抜かれた肉体だということがわかる。

 彼の床には、さきほど僕が風で吹き飛ばした客の料理が散乱していた。


「店の中で魔法を発動するとは……いい度胸してんなぁッ!?」


 僕はよろよろと立ち上がった瞬間に腹を殴られ、またその場で倒れ込んだ。


「そいつ……魔人だぞ!」


 すると他の客……服装的に魔術師だろう。そいつが僕の方を指さしながらそう叫んだ。

 周りに喧騒が再発生し、さっき僕の事を殴ってきたガタイのいい客が僕を見下ろしてきた。


「どうりで臭ぇわけだ……」


 憎ったらしそうに男は拳を振り上げた。

 僕は辺りを見回してシビルを探してみるが、どこにも彼女の姿は見えない。

 クソ……嵌められた……。


 ガタイのいい客は振り上げた拳を勢いよく振り下ろした。

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