【第二百十一話】新たな作戦
僕たちはガードリアに着いた後、手頃な宿を見つけ1週間程度の宿泊の取り決め、早速シビル捜索を開始することにした。
「言っておくけど……」
僕はスクリにギャンブルをしないように再三注意喚起をしようと、そう言いかける。
「分かってますって! しませんから!」
スクリはそう口では言っているものの、どうも信用ならない。
もう少し説得力のある人間になってほしかったものだ。いや、そもそも説得力のある人間はギャンブルなんてやらないか。
「アディ、スクリのことお願い」
これ以上スクリに何を言っても無駄だと分かっているので、僕はアディにそう言った。
「うん」
彼女は責任重大そうな顔つきをして、僕の言葉に頷く。
「あっ!? 信用してませんね! 私はギャンブルなんてしませんから!」
本当かなぁ?
◇
「すみません、背が高くて、長い黒髪の金色の目をした女の人を知りませんか?」
僕は宿でスクリ達と別れたあと、手始めにそこらへんを通っていた中年の男性にシビルを見ていないか聞いてみることにした。
「ん? いや、知らないなぁ。なんだ? 迷子か?」
「まあそんなところです」
僕はその中年の男性に詳しく説明するのも面倒だと思い、そのように流した。
話が長引けばシビル捜しに支障が出る。できるだけ手短に終わらせねば。
「そうか、気をつけろよ? ここは荒くれも多いからな」
中年の男性はそのように僕に注意喚起をした後に、どこかへと去っていった。
まぁまだ1人目だ。そんな早くにシビルの情報が見つかるとは期待していなかった。
継続が大事なのだ。少なくとも続けないよりかはマシなはず。
「すみません。背が高くて長い黒髪の……」
僕はその後何回もひっきりなしに道行く人にシビルの情報を求めたが、結果は帝都の時と同じ、ほとんど知らないか人違いの類の人しかいなかった。
アディ達の方はどうだろうか。
シビル捜しに早くも飽きてきたからか、無性にアディ達の方が気になって仕方がない。
大丈夫、どうせあとで宿に戻ってくるんだから。
……勇者教団の奴らに見つかってないよな?
心配になってきた。
こうも飽きと暇を持て余すと、いろいろなことが心配になってくる。
外出した時にガスの元栓を締めたか、玄関のドアの鍵を掛けたか心配になってくるのと同じだ。
「すみません、背が高くて……」
ここでいらぬ心配をしていても仕方がない。シビル捜しを再開したほうが有意義だ。
僕はそう考えて、また道行く人にシビルに似た人物を見ていないか聞くことにした。ときには場所を変えたり、浮浪者が集まるような路地裏にまで聞きに言ってみたが、やはりこれといった収穫はない。
「はぁ。こりゃ駄目だな……」
僕はそこらへんにあるベンチに座って、さっき買った干し肉を挟んだだけのパンを齧る。
遠くの方を見てみると夕日が出ていて、昼前から街を彷徨い続けてずいぶんと経ったことがわかった。
どんなにシビルの情報を求めても見つかる気がしない。この調子が最大であと1週間も続くのか……。
「はぁ……」
僕は頻繁に溜息をついては、パンを齧るのを繰り返す。
いつの間にかパンも僕の胃の中に全て入り込み、僕のそのループは溜息をつくだけとなっていた。
どうにかして今以上にシビルの情報を集める効果的な方法はないだろうか……。
僕はそう考えながら、そこらへんを見渡してみる。
ふと、小さな魔石屋の前にある看板が目に入った。
看板……看板にシビルの情報求ムというものを書いてどこかに置いてみるか?
でもどこにも置き場所は……。
いや、そもそも看板じゃなくても張り紙とかでも良いのでは?
張り紙なら許可さえもらえばそこらへんの掲示板に張ることも可能だろうし、場合によってはどこかの店に張り出してもらえるかもしれない。
そうだ! そうじゃないか! 最初から言葉でシビルの情報を求めずとも、そうやって情報を集めればいいじゃないか。
そうと決まれば、すぐに宿に戻って作業に取り掛からねば。
僕はそう思って、そこらの店で羊皮紙を何枚か買った後、自分の泊まっている宿へと向かった。
『情報求む
・女性
・背は中ぐらい
・髪は長く、黒色
・金眼
・一人称は我で、人を呼ぶときはお前さんと言う
以上の特徴を持った人物を知っている人はルーリア宿104号まで』
ひとまずはこんなものでいいだろう。
よくよく考えてみれば、僕は伝え方が悪かったのかもしれない。アディにシビルが大きくなったと聞いただけで、背が高いと勝手に決めつけてしまっていた。
だからシビルの特徴を話す時に、背の高い女性と言ってしまって勘違いしてしまっていたのかも。
「ただいまー!」
僕がちょうど全部の羊皮紙にシビルの情報を書き終えると、スクリ達が勢いよく部屋の扉を開けて帰ってきた。
「あれ? リーバルトさん先に帰ってたんですか?」
スクリが片手に小さな紙袋を携えてそう言った。
中身は……なんだ?
「うん、それよりそれの中身は?」
僕がそう訊くとスクリはふふんと何やら満足げに笑い、僕に袋の中身を見せてきた。
「気前の良いおじさんがいろいろな野菜をくれたんですよ! このままじゃ私健康になっちゃいますよー!」
スクリがドヤ顔で見せてきた袋の中にはキャベツやもろこしやトマトなどの様々な野菜が入っていた。
アディがそんな彼女の横を通り過ぎて、僕の手元の張り紙を覗き込んでくる。
「何を書いてるの?」
「張り紙だよ、人探しにはこれが一番だと思ったか……ら」
ちょっとまずったかもしれない。
そういえばアディは張り紙にあまり良い記憶はないはずだ。
迷宮探索でメリーワンダーに訪れた時、彼女を不安のどん底に陥れたのも王宮から張り出された張り紙のせいだし……。
嫌な気持ちにさせてしまっただろうか……。
「私にも手伝えることってあるかな?」
そんな僕の考えとは裏腹に、アディは平気そうな顔で首をかしげて僕にそのように訊いてきた。
「えっ……あ、特にはない……かな?」
予測していた反応とは全然違ったものが返ってきて、つい疑問形でそう言ってしまった。
嫌じゃなかったのだろうか。
「その……アディ? こう言うのもなんだけど……嫌じゃないの……? その、張り紙とか……」
僕が恐れつつもアディにそう訊くと、彼女はキョトンとした顔で「なんで?」と言った。
「張り紙が嫌なんて、私そんな変な人じゃないよ?」
「えっと、ほらメリーワンダーの時のあの張り紙……」
「あれだけで張り紙自体は怖くはならないと私は思うけど……」
どうやら彼女はそこまで張り紙を嫌とは思っていないらしい。
色々なトラウマがあると思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「それよりリーバくん」
アディが僕の耳元に囁くように口を近づけた。
おぉ、近い……。
「スクリちゃん、私がトイレに行っている隙にギャンブルしてたみたい……ごめんなさい」
彼女は暗いトーンで僕にそう囁いた。
ほう、良いことを聞いたな。
僕は彼女に「アディは悪くないよ」と言った後、ウキウキで野菜の入った紙袋の中を覗いているスクリに近づいた。
彼女は不思議そうな顔で首をかしげて笑顔の僕を見上げている。
何硬貨分プラスだったのか、聞いてみたいものだ。




