【第二百十話】ガードリア行き
僕たちは帝都で1週間程シビルの情報収集を行った後、別の街でも調査を行うことにした。
帝都での情報収集では泊まった宿や買い物をした店など、できるだけ彼女と関係のある場所に地図で印を付けて、その周りを捜してみたりしたが、それでもシビルは見つからなかったのだ。
「今はどこに向かってるんですか?」
スクリが馬車の中であぐらをかきながら僕にそう訊いてきた。
さっき説明したばかりだというのに、もう忘れている……。
「ガードリア、要塞都市だよ。帝都に向かう途中で通らなかった?」
「ああ、あの門番がやけに面倒くさそうな……」
スクリはそう言って、ガードリアの門番の顔を真似し始める。
彼女の言うように、あの街の門番は面倒くさそうな人間だった。
あの時ハッセルが「帝都へ向かっている、通してくれ」と言った時、門番が帝都へ何しへ行くのかやら、密売人じゃないだろうなやら、ハッセルの近衛騎士団の団員の地位が少し小さく思えてくるほど、色々と事細かに訊いてきたのだ。
「そう、そこ」
「正直、街の景観以外あまり面白みが無いところですよねー」
スクリがその場で寝そべってそう言う。
そもそも戦略的な拠点である街に面白みを求めるのも間違っているような気がするが、でも彼女の言わんとすることもわからないことはない。
特にこれといった特産品があるわけでもなく、ただ街のほとんどの家が石造で、圧巻とした景観だけが唯一の特色とも言える。
もっとも、その景観も住宅地から離れた場所から見ないと味わうことは出来ず、ただ街の中にいるだけでは、目の前に石やらできた家がいっぱいあるな程度にしか思えない。
僕たちがそんな話をしていると、周りの僕たちと同じくガードリアの街へ向かっている人達が僕たちの方を訝しげに睨んできた。
どの人達も少し歳を取っていて、大方、若い人間3人だけでガードリアにどんな用があるのだろう、とでも思っているのだろう。
僕はその人達に適当に会釈をする。
「ガードリアにはどのくらい滞在するの?」
僕のとなりに座っているアディがそう訊いてきた。
ガードリアは帝都に近いとはいえ、それなりに物価は安いほうだし、宿代もそれなりだ。それほど長期滞在する予定はないものの、1週間程を目途に滞在するのが良いだろう。
というかガードリアの街自体が帝都ほどの面積はないため、3日もあれば街中でシビルの事を聞いて回れると思われる。
1週間でも十分すぎるほどだ。
「1週間ぐらいかな、少し前後するかもしれないけど、そこらへんを目安にしてるよ」
ガードリアで1週間程度の滞在を考えると、大体フリル金貨2枚から3枚程度の出費になるのか?
宿代でフリル金貨1枚が飛んでいくと仮定して、3人分の食費を考えたりすると、割とそれくらいが妥当か。スクリがギャンブルさえしなければいいのだが……。
……やっぱり後金貨1枚は多く見積もっておくか。
「スクリ、一応言っとくけどギャンブルは駄目だよ」
「分かってますってぇ! プラマイ0に上手く調整しておきますから!」
そんな器用なことをするぐらいなら、せめてプラスにしてほしいものだ。
というか、本当にそろそろギャンブルは止めてもらいたい。こちらまで違法賭博の濡れ衣を着せられたらたまったもんじゃない。
「そういうことじゃなくて、素直にギャンブルをそろそろ止めてほしいの!」
「私から生きがいを奪うんですか?」
「生きがいってそんな……」
いくらなんでもそんなにスクリにとってはギャンブルが大事なのか?
いささか言いすぎなような気もするが……。
「私にとってギャンブルはこの人生という18年の中で最も充実した趣味なんですよ。趣味を奪われる悲しみを知ってますか? あの希望が2つに引き裂かれるような思い。そんな感覚をリーバルトさんは知ってるんですか? 私にとって、ギャンブルとはそれだけ大切なものなんです」
何か語り始めたぞ……。
そして聞けば聞くほど彼女がどれだけギャンブルに飲み込まれているかが分かってしまう。
アディはスクリの話を聞いて苦笑いを浮かべてるし、どう返事をしたものか……。
そもそも、スクリに話が通じるとは思わない方がいいのかもな。
「スクリはこれからアディと一緒に行動してくれない? アディはスクリがギャンブルをしようとしたら全力で止めて」
僕がそう言うと、アディは「うん」と小さく頷いた。
ギャンブル中毒者には、無理矢理にでもギャンブルから遠ざけないと、本当にこれ以上はズブズブと行ってしまう。
「別にいいですよ? 私がヘラーラさんに負けるとは思えませんがね!」
スクリはずいぶんと余裕のある顔をしてみせた。
彼女はアディの強さを知らないのだろう。今の僕でさえアディには敵わないだろうに、スクリはアディに勝てるのだろうか。
アディは反応に困っているような顔をしているが、スクリはそれにも気づかず、というか周りの迷惑にもなっていることにも気づかずに高笑いをしている。
「スクリ、もうちょっと声量下げて」
僕がそう言うと、スクリは少し声を小さくして笑う。
僕の脳裏に、アディにボコボコにやられて涙目になっているスクリの姿が浮かんだ。
「ひとまず、ガードリアに着いたら宿を取って、すぐにシビル捜索にとりかかろうか。あと、2人でフリル金貨1枚までなら何でも買っていいよ」
僕は2人にそう言うと、スクリが少し嬉しそうな顔をして、アディは少し申し訳無さそうな顔をした。
性格が違うとここまで反応も変わってくるものなのか。
「アディ、このお金のほとんどはアディのものだから、気にせず使って良いんだよ」
僕がそう言うと、アディは申し訳無さそうな顔が少し和らいで「うん……!」と返事をした。
スクリは未だに嬉しそうな顔をして、フリル金貨1枚分で何をしようか迷っているようだ。
アディが使える分もちゃんと残しておいてほしいのだが……。
「スクリ、何度も言っておくけどギャンブルは……」
「分かってますって!」
スクリが鬱陶しそうにそう言ったが、その何かを企んでいる目を見ていると、信用するという気持ちが微塵も湧いてこなかった。
アディには本当に頑張ってもらわないといけないらしい。




