【第二百九話】シビル捜索開始
一夜が明け、僕たちは朝食を取った後すぐにシビル探しを始めた。
スクリが僕とアディの部屋での会話を盗み聞きしていたのを除けば、特にこれといって昨日の夜は何も起こらなかった。
一体何だったんだろう……。
まあいい、今はシビル探しが優先だ。
最初から宛もなく探し続ければ果てしない時間がかかるため、最初は情報収集からにしよう。
僕たちはまず帝都の人達にシビルに似た人物を知らないか訊いてみた。
もっとも、シビルは成長しているそうなので、僕も彼女の姿をよくは知らないが。
アディやスクリに訊いたところ、今のシビルはそれなりに高身長で、長い黒髪、金色の両目であるらしい。
前者2つの特徴を持った人は街に数十人程度はいそうなものだが、最後の金色の両目という特徴は世界中を探してもかなり珍しい方だろう。
「すいません、身長が高くて、長い黒髪で金色の目の人を見たことはありますか?」
「いやぁ……ないねぇ。そんな人、生まれてこの方見たことがないよ」
「そうですか……ありがとうございました」
まあ当たり前というべきか、中々シビルのことを知っている人間は少ない。
たまに「知ってるよ」と言ってくる人はいるのだが、大抵は人違い、もしくはからかいのどちらかだ。
シビルは帝都には来ていないと見るのが良いのだろうか。
その後、僕たちは1週間ほど場所や時間を変えながら街行く人にシビルの事を知らないか訊いてみたが、シビルを見たという人はおらず、特に目立った収穫はなかった。
「やっぱり帝都には来ていないかもしれませんねぇ……」
「だよなぁ……」
酒場でスクリがそう言ったので僕は頷いた。
大体累計1000人ぐらいに訊いてみて、全くシビルの情報が出てこないというのは、この街に来ていないと思ったほうが良いだろう。
「帝都から出て、最初にどの街で調べますか?」
「最初に……ガードリアに行こうか、シビルと通ったことがあるし、そこからシビルと僕が一緒に滞在したことのある街を中心に調べていくのが一番可能性が高い……と思う」
回りくどいがこうするしかないだろう。
とりあえずシビルがいたという痕跡だけでもほしい。
「でもそれだと、ある程度帝都から離れたらハッセルさんから貰う毎月の支援金がもらえなくなりますよ?」
スクリの言う通り、わざわざ僕たちのために毎月遠出をしてくれるほど彼は善人でもないだろうし、ある時点から金稼ぎやら節約やらを強いられることになるだろう。
「しばらくは大丈夫だけど、生活が苦しくなってきたら冒険者業の再開だな」
「またあんな面倒くさいことをしなきゃいけないんですかぁ!?」
スクリがバンッと机を叩いて、ジョッキに注がれているビールを一気飲みした。
「仕方がないでしょ、お金がないんだから」
僕がそう言うと、彼女は「うぅ……」と狼狽えるような声をあげる。
正直、スクリの気持ちも分からないでもない。
僕だってあの命懸けでして、やっとフリル金貨1枚とかそこらへんの給与しかもらえない仕事はしたくない。
だが、最短でそれぐらい稼げる職業が少ない以上、僕たちは冒険者をするしかないのだ。
「私がいない間はずっとそうやって稼いでたの?」
アディが僕にそう訊いてきた。
そう言えばアディには僕たちの放浪中の生活についてあまり教えてなかったっけ。
今後またあのような生活をする場面も増えてくるだろうから、彼女にも一応教えておくか。
「うん。今は一応僕が上級冒険者だから、依頼料がフリル金貨1枚の依頼を受けるようにしているよ」
僕がそう説明すると、彼女は大変そうだという目を僕に見せてきた。
しかし、彼女が思っているほど、あの生活も別に過酷だったわけではない。
そりゃ、竜との戦闘になったときは流石に本気で死を覚悟したが、それ以外の依頼ではそれほど死を意識したことはない。せいぜい7回程度だ。
それに働いた分だけのお金は一応貰えるし、連携を取って魔物の討伐をすることも楽しくないわけではない。
スクリという話し相手もいたし、ストレスになるようなことは基本無かったように思える。
あぁ、ただスクリがギャンブルで金を溶かした日の依頼では、とんでもなく暗い雰囲気が流れてたっけ。
「そこまできつくはなかったよ。楽しかったぐらい」
僕がそう言うと、スクリは「正気かこいつ……」とでも言いたげな目で僕を見てくる。
どうやらそう思っているのは僕だけらしい。
「とりあえず、いつ頃に出発します?」
スクリが僕にそう訊いてきたので、僕は少しの間だけ考えて、彼女の言葉に答えた。
「明後日には出ようかな。明後日にちょうどガードリア行きの馬車が出るし、ハッセルにも伝えにいかなくちゃ」
正直、ハッセルに伝えに行くのは気が重いなぁ……。
遠いところへ行くから連絡とか送金頑張ってね、って言いに行くようなもんだし、絶対面倒くさそうな顔をしてくる。
もし僕がハッセルの立場だったら、そんな事を言ってくる奴は間違いなく殴り飛ばしているだろう。
「じゃああと2日だけ宿泊の延長しておきますね」
スクリがそう言ってもう一杯ビールを頼んだ。
「そんなに飲んで大丈夫? また酔っ払うよ?」
僕はそう言ってみるが、既に酔いが回ってきているスクリが僕の話なんて聞くはずもなく「大丈夫ですよぉ、へへ」と彼女は言葉を漏らした。
「リーバくん……」
アディが僕の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「その……シビルさんっていう人とはどんな関係だったの?」
アディが心配しているような目で僕の事を見てきた。
彼女が僕とシビルの関係をどう思っているかは知らないが、少なくとも彼女の思っているような関係ではないはずだ。
「大丈夫、そこまでの関係じゃないよ、ただちょっと一緒に旅をしていただけ」
アディにそう言うと、彼女は納得してくれたのか、ほっと安堵の溜息をついた。
本当にただ一緒に旅をしていただけの関係だ。
面白おかしいような出来事もあったが、かといってそこまで関係が深かったわけでもなかった。
お互いの利害関係だけで一緒にいたというだけであり、そこに友情やら愛情なんて情緒的なものは存在しなかったように感じる。
結局はその程度の関係だったのだ。
その次の日、僕がハッセルに遠い街までシビルを探しに行くから、しばらくのところまでは金を届けに来てくれないかと頼むと、案の定すごく嫌な顔をされた。
今にも殴打の体勢をとっていた彼の拳が、鞘から抜かれた剣の如く、僕を恐怖させた。
2024/02/18
一部、文の追記をしました。ストーリーに変更はございませんのでご安心ください。




