【第二百六話】シビル捜索
リミラスの、シビルを探してほしいという発言は僕だけでなく、スクリやハッセルまで驚いていた。
「詳しく……お願いします」
僕は胸からこみ上げてくる疑問の数々を抑えて、リミラスに説明を求めた。
「シビル=メルクディアが我が軍から消えた。理由は定かではないが、最後に彼女を観測できたのは、ハッセルと勇者が戦闘をしていた時だ」
その現場に僕は鉢合わせていたため、良く知っている。
アディは確か、僕の左腕が再生した瞬間、シビルの体が成長したと言っていた。
最後にシビルを観測できたのが彼女が成長する前なので、姿の変わった今のシビルを見つけるのは難しいだろう。
「探してほしい理由はなんですか?」
「貴様ぁ!」
僕の言葉遣いに不満を持ったのだろう。護衛の魔術師が叫んだのを、リミラスは手で制止する。
「ホーラめ、今になって反転攻勢を仕掛けてきた。王都まで侵攻したというのに、奴らは死にものぐるいで王都を守りきって、俺達が占領した王都の近隣の街まで奪還される始末だ。今はただシビル=メルクディアの力がほしい」
さすがは少し前までフリル大陸一の軍事力を持った国と呼ばれただけはある。
一応反撃ができるほどの戦闘力は持っていたのか。
「僕は王国人ですよ? そんな話を聞いて、その要求を簡単に飲み込むとでも?」
僕はそう言って、その無謀な要求から逃れようとする。
姿の変わったシビルを探し出すなんて、何年かかることやら。
「いいや、お前は飲み込む。飲み込まざるを得ないのは知っているぞ」
……まあ無理か。
アディと一緒に過ごしていく上で、リミラスの支援がなければおそらくジリ貧な生活を送ることになるだろう。
そんなの彼女の体に良くないし、最悪そのままどこかで野垂れ死にかねない。
「探すだけでいいですか?」
せめて本当に探すだけにしてほしい。
僕が戻ってきてくれと言っても、シビルはちょっとやそっとのことでは戻ろうとはしないだろうからな。
「できれば連れ帰ってきてほしいものだが、まあ見つけるだけで良い」
リミラスの言葉を聞いて、僕は少し安心した。
まだシビルに再会してすらいないのに、なんでこんなに安心をしているのかは不明だが、とにかく良かった。
「受けてくれるか?」
「受けます」
受けないわけにもいかないだろうし、僕はそう答えた。
彼は僕の返答を聞いて頷いた後、少しの間をおき、口を開いた。
「とりあえず手始めにフリル金貨30枚を出そう。これからはフリル金貨を月10枚の割合で提供する。
しかし、もしシビル=メルクディアを捜索している様子が見えなかった場合は全額返してもらうからな」
手始めにフリル金貨30枚も出すのか。
日本円換算で60万円。それに加え月20万の収入が保証されるという。
アディとスクリを養うにしても、この世界の生活ではよほどの豪遊をしなければ、そのまま老後の貯金に回せるほどの額だ。
ただの人探しにしてはかなり破格である。それがただの人だったら、の話だが。
「シビルを探し出した後も、もちろんお金はくれますよね?」
シビルを見つけ出したら契約は終了、月10枚のフリル金貨の援助も打ち切る。なんて話は御免だ。
「もちろんだ。シビル=メルクディアを見つけ出したら、報酬としてリットー大金貨50枚をやろう」
「リットー大金貨50枚!?」
僕が叫ぶよりも先にスクリのほうが驚愕の声をあげた。
リミラスの隣に立っている魔術師が彼の両肩を掴んで叫んだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください!? ただの人探しの報酬にリットー大金貨を……それも50枚も! お気は確かですか!?」
彼がそれだけ驚いているのも、それ1枚で日本円でおよそ20万円ほどの価値があると思えば頷ける。
1000万円の成功報酬。凄まじい。
「ただの人ではない。相手は魔王だ。これが相応だろう」
「しかし……」
リミラスの説明に納得しきれていない魔術師が何かを言おうとしているのか、口を開いて唸り声をあげている。
シビルのことをそこまで知らないのだろう。妥当じゃないと考えるのも無理はない。
「俺の決定を否定するのか?」
リミラスが脅すように魔術師にそう言って、彼を睨みつけた。
魔術師は「すみません……」と不満げな表情をしながらも謝り、それ以上何かを言うことはなくなった。
「確かにシビルを探すとはいえ、そんな大金を出して大丈夫なんですか?」
僕がリミラスにそう訊くと、彼は問題ないという風な顔をして答えた。
「大丈夫だ。それに、それぐらい払わないと俺の親友があの世で怒り狂いかねないからな」
なるほど。僕に払うという感じではなく、アディのために報酬を払うという形なのか。
その親友というのは相当な娘思いだったのだろう。
「アディメさんのお父さんって、どんな人だったんですか?」
こんな言葉はアディに直接聞けばいいのかもしれないが、娘の前と友人の前では案外人との接し方も違うのかもしれない。
外ではお固い人物が家ではどうしようもないナマケモノという事もあるしな。
「あいつはそうだな……変なところで真面目だったが、家族思いで、こんな俺でも話しかけやすい奴だったよ」
リミラスはそう言ってこの部屋のどこでもない、どこか遠くを見つめた。彼の口ぶりからも、相当信頼されていた人物だったということがわかる。
アディの方はどうだったのだろうか?
「アディメさんから見たお父さんはどうだったの?」
僕がそう言うと、彼女は今まで開くことの少なかった口を開け、彼女の思い出の中での父親について話し始めた。
「私の前でのお父さんは……優しくて、強くて、時に厳しい人でした。
私に剣の技術を教えてくれたのもお父さんです。よくつまみ食いをして、お母さんに叱られていた人で、でもお母さんを愛していて……それで、1ヶ月に数日程度、家に帰ってくると、いつも花を持って返ってくるんです……。『アディメに似合う、ピンク色のお花だよ』ってお父さんが言ってくれて、その花をお母さんが髪飾りにしてくれたのを覚えています……」
アディの視線が徐々に下がっていき、部屋に彼女の涙混じりの声が小さく響く。
なんて無神経な質問をしてしまったのだろうと、今になって後悔している僕がいた。
彼女の両親はもう故人なのに……故人の話を掘り起こされて良い気持ちになる人間は少ないと、さっき自分で思っていたじゃないか。
「ごめんアディ……本当にごめん……」
「うん……」
なんて馬鹿なんだろう、僕は。
本当にどうしようもない馬鹿だ。
「……俺はこれで失礼する。今後はハッセルを通じて支援金の譲渡や連絡を取り合う。シビル=メルクディア捜索、頼むぞ」
リミラスがそう言って、護衛の2人を引き連れて部屋を出た。
城の使用人が僕たちを城の外へ案内するまで、僕たちの間には気まずい空気が流れていた。
第七章【魔王捜し編】開始です。




